クルマの緊急回避性能の向上に、バイクの存在を意識してくれることは大歓迎 ~木下隆之の、またがっちゃいましたVol.196~

レーシングドライバーの木下隆之さん(筆者)は、クルマがバイクに対しても安全性を高めてくれることは大歓迎だと言います。どういうことなのでしょうか?

本来は、お互い人間が精度を高めたいところだが……

 バイクを運転中にクルマとの出会い頭の接触……絶対に避けたいシーンです。クルマとの激突となると、ライダーは軽傷では済みません。想像しただけで痛みが走ります。

日産は「次世代LiDAR(ライダー)」を用いた運転支援技術を搭載した試作車が、高度なセンシングと判断能力でバイクとの衝突を自動的に回避するデモンストレーションを公開した
日産は「次世代LiDAR(ライダー)」を用いた運転支援技術を搭載した試作車が、高度なセンシングと判断能力でバイクとの衝突を自動的に回避するデモンストレーションを公開した

 それを防ぐための先進技術を、日産自動車が開発してくれています。「次世代LiDAR(ライダー)」技術を活用し、交差点での事故を回避するというのです。LiDARは、レーザーを照射し、その反射をセンシングすることで対象物の距離や形状を図るシステムのことです。近い将来の自動運転には欠かせないシステムです。

 ですが、これまで日産は「プロパイロット2.0」などの高度運転支援技術を進めていながらも「LiDAR」を使用してきませんでした。それがようやく、次世代に進化するのに合わせて活用することになったのです。

 見通しの良い交差点に向かって走行中、クルマの進路を横切る方向からバイクが走って来るとします。それをドライバーが見落とし、あわや衝突か……という場面でも、「次世代LiDAR」は高い精度の3次元計測により、その形状からバイクであることを判断し、演算した速度から事故を予測、緊急ブレーキをかけるのです。その精度が格段に高まったというわけです。

 しかも日産が開発中の次世代技術は、緊急回避直後のアクションもコントロールします。

 これまでの運転支援技術は、一度の回避能力しか備わっていませんでした。つまり、たとえば歩行者の飛び出しに対して自動ステアで回避したとします。その直後にまた別の飛び出しがあっても、それに対しては無反応だったのです。それが「次世代LiDAR」では、ツーアクションに対応するのです。

 僕(筆者:木下隆之)は実際にデモンストレーションを体験しましたが、交差点の緊急ブレーキ後、バイクが走り去ったことを確認するとクルマは自動でブレーキを緩めました。危険が去った後もその場に留まることは、背後からの追突の危険性もあります。その意味ではリアルワールドを想定した機能だと思えます。

 この技術は開発中で市販車に採用されているわけではありません。ですが、近い将来の採用を目指しているとのことです。

 交通弱者とは言わないまでも、クルマに対してバイクは弱い立場にあります。クルマがバイクに対しても安全性を高めてくれることは、大歓迎ですね。

【画像】日産のデモンストレーションを体験(4枚)

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Writer: 木下隆之

1960年5月5日生まれ。明治学院大学卒業後、出版社編集部勤務し独立。プロレーシングドライバーとして全日本選手権レースで優勝するなど国内外のトップカテゴリーで活躍。スーパー耐久レースでは5度のチャンピオン獲得。最多勝記録更新中。ニュルブルクリンク24時間レースでも優勝。自動車評論家としても活動。日本カーオブザイヤー選考委員。日本ボートオブザイヤー選考委員。

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