不動車のホンダ「ベンリイC92」をエンジンのプロがレストア!5速ミッション組み込みの為のクランクケース加工を解説【vol.3】
老舗内燃機屋「井上ボーリング」で、年間700台ものヘッド再生を行うベテランヘッド技師が、不動車となったホンダ「ベンリイC92」の再生とモディファイを行う連載。第3回目は、5速ミッション組み込みの為のクランクケース加工を解説します!
5速ミッション対応のケース加工
エンジン組み換えの為の作業をこれまでは一人で行ってきましたが、自分では今まで扱った事が無い加工機を使っての作業が発生しましたので、そのジグボーラーを担当する森田技師に協力をお願いします。

メインシャフト5速ギアとシフトドラムの逃がしを、ジグボーラーを使って行います。
まずケースの上下を組み合わせた状態で右側を上にして固定し、穴の中心を拾って刃物を取り付けます。刃物が通る穴の径よりも奥で切削する円の径の方が大きく、余計なところに当たってしまったらケースが破損して使えなくなってしまうので、見ているこっちはハラハラしますが、いつもこの様な加工ばかりやっている森田技師は慣れたもので、何の躊躇もありません。
切削箇所がケースの内部なので見えづらく、当たり始めが分かりにくいのですが、森田技師はサクサクと作業を進め、2箇所を合計15分程度で削り終えました。
しかしながら早速確認のためにメインシャフトを載せてみると0.3mmほど浅く、切削円の直径も僅かに小さいことが判明。
これは、クランクケース側面は鋳込みとなる都合で合わせ面から離れるにつれ、僅かに傾斜が付いた面になっている為、削り始めの位置が想定よりも早かった事と、フリーハンドで書いた青マーカーが歪んでおり、径が小さかった部分に合わせてしまった事が原因です。
自分の読みが甘く曖昧な指示を出してしまった為に再度、加工しなおす事になってしまったのは申し訳ない限りです。

2度目の加工後、完璧に仕上がっている事を確認し、残りのリューター切削に取り掛かります。
4速では2個しかないシフトアームが5速では3個となり、左のシフトアームはシフトドラムの左側面ギリギリまで移動する為、ここにも接触部分が見つかり、追加工を行いました。
個々の切削部分に問題がないことを確認しながらリューター加工を進め、念入りに切子を掃除したらアッパーケースにシフトドラムとミッションを載せて動作確認。

一見すると「当たっているんじゃないの?」と思える位にギリギリですが、回して見るとすべてのギアがケースに接触することなくスムーズに回転し、1速から5速までしっかりと変速することができ、ニュートラルも問題はありません。
こうしてまじまじとシフトチェンジ時の各ギアの動きを見ると、シフトドラムのガイド溝が回転角度に対して、いかにピンポイントで設定されているかがよくわかります。
このシフトドラムの角度を正確な位置で固定する役割を担うのがシフトドラムストッパーですが、CB125のシフトドラムストッパーは元々の4速ロータリーを5速リターン化した設計者の工夫が感じられる、ユニークなものでした。
シフトドラムストッパーの検討
CB125のケースをよく見ると、シフトドラムストッパーアームが2本付いており、追加された1本はニュートラル時だけ作用。本来のアームでは、ニュートラル時にドラムを固定できない状態になっています。

追加されたアームの支持部分はC92のケースでは穴が開いており、同じ位置にねじ穴を設ける事は出来ません。それなら溶接で穴を埋めてしまえばいいと思われるかもしれませんが、溶接をするとその周辺に歪みが発生してしまうので、精密な軸受けの集合体であるクランクケースにそれは不可能です。
しかもアームを押さえつけるバネが異様に固く、かなり強度を要する為、このアームを追加するレイアウトは断念せざるを得ませんでした。
しかしこのまま対策をせずに組んでしまうと、ニュートラルに入れたつもりで1速か2速のギアが接触し、ミッションを痛める恐れがあるので、別の方法を検討する必要があります。
ここまで順調に進んで来ましたが、思わぬところで厄介な問題に直面。
次回はこの問題の対策を、ご紹介させていただきます。
Writer: 市川信行(井上ボーリング ヘッド技師)
川越で創業70年の老舗内燃機加工屋「(株)井上ボーリング」で多種多様な4ストロークエンジンのシリンダーヘッドに関するオーバーホール作業を担当する加工技師。プライベートでもバイクのレストアを趣味としており、趣味を仕事に生かしてるのか仕事を趣味に生かしているのかよく判らないこの状況を楽しみながら、年間700台前後のヘッド再生をこなしている。






