VIPカーの雰囲気を讃える5ナンバー車! 新ワールド・クォリティカーとして登場したホンダ「アコード・インスパイヤ」
モータースポーツ界の生き字引、現役レーサーの木下隆之氏の新連載コラム「木下隆之のヒストリカルパレード(通称:ヒスパレ)」がスタート! 連載第34回目は、直列5気筒縦置エンジンを搭載し、室内空間もVIPカーの雰囲気を讃えるホンダの5ナンバー車「アコード・インスパイヤ」を紹介します。
ハイソカーとしての地位を確立した「アコード・インスパイヤ」とは
インスパイヤを辞書で紐解くと、興味深い記述が確認できます。
「他者の作品やアイデアから刺激を受け、新たな創造物を生み出すこと」とあります。ネガティブに解釈するならば、模倣、パクリ。ポジティブに評価するのならば、他者へ感動を与える、インスパイヤされる側となります。

ホンダがこのクルマを「インスパイヤ」と命名したのは、はたしてどちらの思いでしょうか。
ホンダが自ら模倣品でありパクリなどに思いを込めるはずもないので、後者には違いありません。
ただし、このクルマがデビューした1989年はバブル経済の真っ只中に位置しています。金余りの国民はコンパクトセダンでは飽き足らず、コロナより大きなミドルセダンを求めており、そんな富裕層をターゲットにしたマークII/チェイサー/クレスタ三兄弟が爆発的にヒットしたわけです。

ホンダもその成功に触発されインスパイヤ、アコードを肥大化させたインスパイヤをデビューさせたのです。正式名称は「アコード・インスパイヤ」でした。
全長4690mm、全幅1695mmでしたから、ボディサイズ的には5ナンバー枠に収まりますが、ホイールベースは2805mmに達していました。自らステアリングを握るためのドライバーズカーではありますが、後席には余裕がありました。VIPカーの雰囲気を讃えてもいたのです。
時代はこのジャンルに属するモデルを「ハイソカー」として持て囃したのです。ハイソカーの語源は、「ハイソサエティのクルマ」です。
ですから内外装はとても豪華でした。ここで紹介する「AG-1」グレードには、当時としてはとても贅沢な天童木工製のウッドがあしらわれていました。シート生地はふかふかでソファーのようでした。そんな豪華さを日本国民は好んだのです。
機構的にも凝っていました。搭載するエンジンは直列5気筒です。それを縦置きにしています。

ホンダは当時からFF駆動方式に拘っていました。ですからエンジンを横置きに搭載するのが自然でした。結果的に全長の短い4気筒以下のエンジンしかラインナップしていませんでした。ボディの幅に収めるためにはエンジン長を長くできない。V型6気筒時代が訪れる前のことです。
ですが、高級志向のユーザーは6気筒や8気筒のマルチシリンダーを求めていました。そこでホンダは、5気筒エンジンを開発したのです。
縦置きにしたのも、高級車が一般的に採用していたからでしょう。ただ、エンジンを縦置きにしたのにFF駆動方式でしたことで、レイアウト的に無理が生じました。エンジンの真横にトランスミッションを搭載せざるを得ず、そのままでは、そこから左右に伸びるドライブシャフトをエンジンの下を通過させることになります。ですがそれではエンジンを持ち上げることになり、ボンネットが高くなってしまいます、それは醜い。苦肉の策で、エンジンのオイルパンを貫通させることで解決してみせたのです。

僕はこの前後に伸びやかに伸びるスタイルが好きです。車高が抑えられているのも好感触です。ですが、このスタイルを直列5気筒縦置きで成立させるには、革新的な技術が必要だったわけです。
「シャフトがエンジンを貫通。そんなバカな」
当時は多くの関係者がその突飛なアイデアに否定的な意見を投げかけていましたが、それがホンダのそれ以降の高級セダンの礎になったことは確かですね。
インスパイヤとは模倣やパクリの意味がありますが、この革新的な技術を考えれば、とても模倣とは思えませんね。
◾️ホンダ「アコード・インスパイヤ AG-1」
<エンジン>
形式:G20A
種類:水冷直列5気筒縦置
使用燃料:無鉛レギュラーガソリン
総排気量(cc):1996
圧縮比:9.7
最高出力(ps/r.p.m):160/6,700
最大トルク(kg-m//r.p.m):19.0/4,000
燃料供給装置:電子制御燃料噴射式(ホンダPGM-FI)
燃料タンク容量(リットル):65
<寸法・定員>
全長(mm):4690
全幅(mm):1695
全高(mm):1355
ホイールベース(mm):2805
車両重量(kg):1300(7ポジション4速電子制御オートマチック)
乗車定員(名):5
※ ※ ※
1989年4月、「NSR250R」に高効率の乾式多板クラッチや、軽量でハイクォリティなマグネシウム製前・後ホイール、走行条件に適した減衰力が得られる調整機構付前・後サスペンションなどを標準装備した「NSR250R SP」が発売されました。

前後にマグネシウムホイールを採用するなどバネ下重量の軽減による路面追随性の向上と共に、慣性マスの集中化をいっそう高め、軽快な操縦フィーリングを実現。また、ロードレース世界GP250ccクラスに参戦している「アジノモト・ホンダ・レーシングチーム」のカラーリングを纏った「NSR250R SP」は、「銀テラ」とも呼ばれ、標準タイプとは違う存在感を全面に押し出していました。
「NSR250R SP」の発売当時の価格は、68万9000円でした。
Writer: 木下隆之
1960年5月5日生まれ。明治学院大学卒業後、出版社編集部勤務し独立。プロレーシングドライバーとして全日本選手権レースで優勝するなど国内外のトップカテゴリーで活躍。スーパー耐久レースでは5度のチャンピオン獲得。最多勝記録更新中。ニュルブルクリンク24時間レースでも優勝。自動車評論家としても活動。日本カーオブザイヤー選考委員。日本ボートオブザイヤー選考委員。









