内燃機も電気も、モーターは冷やすことがキモ ~木下隆之の、またがっちゃいましたVol.262~

レーシングドライバーの木下隆之さん(筆者)は、世界最高峰のマシンにも電動化の波が押し寄せていると言います。どういうことなのでしょうか。

ファミリーカーなのに「予選モード」とは?

 フォーミュラ1が電気モーターとガソリンエンジンを組み合わせたハイブリッドマシンであることをご存知でしょうか。モータースポーツ界もカーボンニュートラルの風潮が漂っています。世界最高峰のマシンにも、電動化の波が押し寄せています。

Hyundai「IONIQ 5 N」
Hyundai「IONIQ 5 N」

 マシンを速く走らせるために、パワーユニットの開発には高度な技術と、そのための膨大な予算が投入されているわけですが、そのチャンピオンエンジンを開発したホンダのエンジニアの口から興味深いコメントを聞くことかできました。

「パワーを出すためには、いかに冷やすかが肝なのです」

 たくさん燃やして一気に冷やす。想像はできますが、矛盾しているようなコメントですよね。ガソリンエンジンをパワーアップするには、燃料をたくさん燃やす必要があります。当然ながら発熱します。ラジエターで冷やさなければオーバーヒートしてしまい、異常燃焼の元凶にもなるのです。

 電気モーターも同様です。バッテリーの充放電は電気分解ですから熱を発生します。EVでスポーツドライビングした経験かある人なら実感があると思いますが、鋭い加速、あるいは急なブレーキングを繰り返すと、どんなに高性能なスポーツEVであっても、しだいに亀のように遅くなります。バッテリーが発熱し、パワーが低下するからです。

 ホンダのF1開発者が説明したように、冷却能力が肝心だとするのはそれが理由なのです。

 とまあ、いつものように前置きが長くなるのは僕(筆者:木下隆之)の悪いクセですが、話は突然飛んで、ヒョンデです。

 ヒョンデは韓国の財閥系自動車メーカであり、最近注目を浴びています。ガソリン車からEVまでフルラインナップで躍進しているのですが、そんなヒョンデの主力モデル、完全なBEVである「アイオニック5N」が話題をさらっているのです。

 とにかく驚かされるのはその速さです。初速の鋭さはEVの武器ですが、その速さを持続させるために、F1レース並みのアイデアが山盛りで、搭載するバッテリーは84.0kWhと大容量。最大馬力は650ps、最大トルクは770Nmに達します。フルスロットルに挑んでみましたが、加速して数秒で頭がクラクラしました。

 そんな獰猛なモンスターでさらに驚かされるのは、サーキット専用の電子制御モードが設定されていることです。

 スタートに備えて、ローンチコントロールが組み込まれていることでは驚きません。それだけに留まらず、レース展開を予想しながらのプログラミングがなされているのです。F1並みのアイデアとはそこなのです。

「アイオニック5N」は、予選モードと決勝モードが組み込まれています。しかしレーシングカーではありません。街中をゆるゆる走ることのできる5ドアハッチバックです。なのに、F1並みに温度管理することで出力低下を抑えるのです。

 予選モードは1周だけ速く走ればいいわけですから、発熱のことは気にせずにフルパフォーマンスを発揮するようなプログラミングです。決勝モードでは、コンスタントラップが求められる決勝レースのモードで、バッテリーとモーターの発熱を監視しながら最適な出力コントロールをするのです。

 ちなみに、「アイオニック5N」の「N」は、ヒョンデのトップパフォーマンスブランドの名称です。その由来はニュルブルクリンクの頭文字「N」です。最近ヒョンデは難攻不落なニュルブルクリンクのレースに挑戦しています。そこでマシンを鍛えているのです。

 バイクの世界も電気モーターの波が押し寄せていますよね。レースモードを備えるスーパーバイクや、予選モードや決勝モードを組み込んだストリートモデルが誕生するかもしれませんね。

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Writer: 木下隆之

1960年5月5日生まれ。明治学院大学卒業後、出版社編集部勤務し独立。プロレーシングドライバーとして全日本選手権レースで優勝するなど国内外のトップカテゴリーで活躍。スーパー耐久レースでは5度のチャンピオン獲得。最多勝記録更新中。ニュルブルクリンク24時間レースでも優勝。自動車評論家としても活動。日本カーオブザイヤー選考委員。日本ボートオブザイヤー選考委員。

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