【MotoGP現場ぶら歩き】タイのレンタカー移動に大苦戦!! 道をふさぐのは……寝転ぶ犬!?
2024年シーズンのMotoGP第18戦タイGP取材のために、タイのブリラムに行きました。そこで感じたのは、タイの犬の怖さ! 良い意味でも悪い意味でも、図太くてのんびりしているんです!!
「微笑みの国」には、犬がいっぱい!?
2024年シーズンのMotoGP第17戦オーストラリアGPの取材を終えたわたし(筆者:伊藤英里)は、翌週にタイのバンコクを経由してブリラムに飛びました。第18戦タイGP取材のためです。オーストラリアGPで4位を獲得したMoto2クラスの小椋藍選手は、タイGPへチャンピオン獲得を持ち越していました。小椋選手が栄光をつかむ瞬間を取材すべく、わたしもタイへと移動したわけです。

オーストラリアのフィリップ・アイランドはずっと長袖で過ごす気温でしたが、もちろん、タイの気候は全く違います。バンコクから400kmほど東に位置するブリラムの空港に降り立つと、暑さとむわっとした湿度が半そでから伸びる腕にまとわりつきました。
タイGPが開催された10月下旬は、タイでは雨季の終わりにあたるのだそうです。ただ、レースウイークを通して雨が降ったのは、ご存じのとおり、よりにもよって日曜日だったのでした。
さて、レンタカーで空港からチャン・インターナショナル・サーキット近くの宿まで走っていると、道の脇に牛がいて、草を食んでいるのが見えました。「さすがタイだ……」と感心していると、何度も同じ光景に出くわすのです。牛がもそもそと草を咀嚼するのを、麦わら帽子をかぶったおじさんが座って眺めていました。
わたしは2018年に、アジア・ロードレース選手権の取材でタイに来たことがあります。そのときは自分でクルマのハンドルを握ることもなかったし、街中に滞在していたので、都心から離れた場所の雰囲気を知らなかったのです。

タイではバイク(日本で言うところのビジネスバイクや、アンダーボーンフレームのスクーター)が日常の足になっていて、とにかく数が多いです。
朝、サーキットに向かっていると、朝食を調達に道路脇の屋台までバイクでやって来るお母さんがいたり、「ちょっと近所まで来ました」といった風情のお父さんがヨロヨロとバイクを走らせていて(誇張ではなく、本当にヨタヨタと走っているんです)、「止まるのか、止まらないのか……、あ、なるほどね、そこに行きたかったんだ!?」と、クルマを走らせているときにハラハラすることもざらにあります。
無節操に走るバイク、車体側面の左右どちらかにリアカーをつけた「タイ風サイドカー」も多いのですが、そんなバイク以上にわたしを悩ませたのは、犬です。

誤解のないようにお伝えしたいのですが、わたしは大の犬好きです。しかし、タイの犬はこれまでわたしが日本やヨーロッパで見たどの犬とも違っていました。
野犬なのか、それとも飼い犬なのかも分からないけれど、とにかく道をうろつく犬の多いことといったら!
大通りから少し小さな通りに入れば道の脇を犬が走っていて、ときには当たり前のように道を横切ります。彼らも慣れていて、道を渡るときには「渡りますよ」というようにチラリと左右を見てから渡るのです(本当です)。
路地ではダラリと横たわったりもしています。こちらがクルマで接近してもピクリとも動かないものだから、最初は死んでいるんじゃないかと思ったくらいです。
うろつく犬たちはクラクションを鳴らしても効果なし。地元の人たちはどうしているのかと見ていると、犬が寝ていようがおかまいなしに直進していました。そういうクルマの場合、犬たちも「おっと、やばいやばい」と、すぐに起き上がって避けるのです。
最初のころは犬がうろうろしていたり、寝転がったりしているのがストレスでした。けれどあるとき、「この考え方は違うな」と思ったのです。
彼らはただ、タイの気候と環境のなかで、図太くのんびりと生きているだけ。そうあることをただ理解すればいいじゃないか、と。なにしろ、わたしは犬たちにとってよそ者。異邦人なのですから。
それから、タイと言えば「微笑みの国」です。確かに、宿に到着すると、女将さんはニコニコと出迎えてくれました。サーキットでは屋台が並び、ローカルフードに挑戦してみようと行ったものの、辛い物がてんでだめなわたしは「辛くないやつをちょうだい」と相談したのですが、そのときのお母さんも「OK。辛くないやつね!」と、嫌な顔ひとつせずににっこりしてうなずいてくれました。

ただ、セブン-イレブンやスーパーマーケットなどはもう少しシステマチックになっているようです。レジで「ハロー」と声をかけると、スタッフは変な顔をして黙ったまま商品を受け取ります。
イギリスやイタリア、スペインなどではレジで挨拶をするのが普通だったので、その習慣が残っていたのです。「若者だからかな? それとも、英語だったから?」と考えながら袋詰めされた商品を受け取ると、「ハロー」に怪訝な顔をした女の子は、最後にはにっこりして「サンキュー」と言ってくれました。
(たった2回来ただけではタイでの正解なんて分からないけれど、挨拶をするのは決して悪いことじゃないな)
わたしも笑顔を返して、セブン-イレブンを出ました。店の前には、たくさんのバイクがひしめき合って並んでいます。ふらふらと走るバイクやスピードを落とさないクルマが行きかう道に、駐車場から出るのも一苦労です。
その先には、ぶらぶらと歩く犬たちがいます。まだまだ慣れることなんてできません。でも、このMotoGP取材旅で、わたしはもう少しだけ、タイのことを知ることができた気がします。
Writer: 伊藤英里
モータースポーツジャーナリスト、ライター。主に二輪関連記事やレース記事を雑誌やウエブ媒体に寄稿している。小柄・ビギナーライダーに寄り添った二輪インプレッション記事を手掛けるほか、MotoGP、電動バイクレースMotoE取材に足を運ぶ。
















