「指導員が足りない……」と思ったら受検会場すらない!? 存続の岐路に立つ「二輪車安全運転指導員」制度とは
かつて若者のバイク事故増加を問題視した1970年代に「二輪車安全運転指導員」制度がスタートしました。警察官でも教習指導員でもない一般ライダーが資格を持つことで、初心ライダーの事故を未然に防ぐためのテクニックを伝えるものですが、交通安全を底支えした制度の存続が危ぶまれています。
原付免許でも資格が取得できて、安全運転講習の指導ができるが……
東京都千代田区「JR市ヶ谷駅」近くに、「全日本交通安全協会」(川村隆会長)があります。「二輪車安全運転指導員」の資格制度を担う同安全対策部が、制度の窮状を話します。

「都道府県の交通安全協会が主催する指導員の審査会は、東日本の中でも関東に集中。東日本や東北は低調。西日本では低調を通り越して皆無という状態です」
2025年度の開催予定は、8月25日の栃木県を皮切りに、東京、長野、神奈川、埼玉、千葉、茨城、群馬の8県のみ。東海北陸地方より西は開催予定がありません。
「隔年開催の地域もありますが、まったく審査を実施しない県もある。我々としてはできるだけ開催してほしいとお願いをしているのですが……」(同安全対策部)
交通ルールに沿った安全運転教育は、教習指導員や警察官に任されています。ただ、プロの指導者が担う場面の多くは、免許取得前後と交通ルールを逸脱した違反時だけです。
ライダーにとっては、日常的なスキルアップや運転方法の再確認のチャンスが必要ですが、バイクの乗り方を教えるのはプロの仕事というイメージが強く、「空白地帯」がありました。
バイクに乗れる人が教える安全な乗り方を指導員制度にしたのが、全日本交通安全協会でした。
「安全運転指導員は昭和47年(1972年)に、青少年のバイク事故が激増することをきっかけにできた安全運転教育のための制度です。法的な根拠がないので、事務局を全安協に置いて、都道府県の安全協会で審査、資格を認定することになりました」(前同)
希望者は自車持ち込みで審査会に出席し、講習と実技審査を経て、指導員資格を取得します。
条件は原付以上の2輪免許を取得後3年が経過していること。さらに、協会などが主催する講習会で指導員として3年以上活動し、都道府県協会の推薦を受けると「特別指導員」の審査資格を得ることができます。
特別指導員は、指導員審査など後進の指導にあたる役目を担います。
都道府県の交通安全協会は、協力が得られない?
ただ、特別指導員の育成でも課題があります。全安協の評議員は主に都道府県安協の会長で構成されますが、それでも充分な協力は得られない、と言います。
「都道府県には“特指”(特別指導員)の推薦を要請していますが、なかなか出してもらえない」(前同)
特別指導員の資格を得るためには、最低でも6年が必要です。指導員審査の開催も衰退し、指導員資格を認定する特別指導員が活躍する場も限られる中、指導員の意義を問う声が資格取得者からも浮上しています。
資格取得者からはこんな声が寄せられています。
「安全運転講習会では参加者1人ひとりの意識を変えることができる。しかし、指導員になれば、指導員自身の意識も変わるだけでなく、講習会の参加者にも伝えることができる。指導員のほとんどはボランティアでやっているのだから、もっと力を入れてほしい」
全安協はどう応えるのか?
「いろいろな職種の人に 指導員になってもらいたい。それが事故を減らすことに役に立つ。趣味でバイクに乗っている人にこそ取得してもらうことを理想としているが、実際に動くのは都道府県協会なので……」
制度の発足から53年。当時の交通安全を支えた指導員や特別指導員は高齢化し、活動できる指導員の数は限られています。
政府も業界団体も交通事故死亡ゼロを目指した計画を掲げる中で、在野で交通安全を支える指導員制度のあり方を見直す必要性が高まっています。
Writer: 中島みなみ
1963年生まれ。愛知県出身。新聞、週刊誌、総合月刊誌記者を経て独立。行政からみた規制や交通問題を中心に執筆。著書に『実録 衝撃DVD!交通事故の瞬間―生死をわける“一瞬”』など。



