どこで? いつ洗う? 欧州を巡る巨大なトレーラーの洗車&関係者の洗濯事情とは【MotoGPの現場から No.7】

MotoGPのパドックで、HJCヘルメットのレーシングサービスを行なう長谷川朝弘さんによる、現場のリアルです。ヘルメットのレーシングサービスやMotoGPのパドック、そしてMotoGPとともに移動する旅での出会いなど、30年以上にわたってMotoGPに関わり続ける長谷川さんの視点でお届けします。今回は、第12戦チェコGPでの各チーム、サプライヤーのトラック、トレーラーの洗車事情と、MotoGPに関わる人たちの洗濯事情についてです。

トラックの洗車は必須。しかしチェコではパドックで洗車が禁止に……

 みなさん、こんにちは。MotoGPのパドックでHJCヘルメットのレーシングサービスを担当している、トミーハセガワ(筆者:長谷川朝弘)です。今回は、各チームやサプライヤーのトラック、トレーラーの洗車事情と、僕を含むMotoGP関係者の洗濯事情をお話ししたいと思います。

木曜日の昼間、HJCヘルメットのドライバーはずっとトラックを磨いていた
木曜日の昼間、HJCヘルメットのドライバーはずっとトラックを磨いていた

 まずは、MotoGPのパドックを彩る各チーム、サプライヤーのトラック、トレーラーの洗車事情についてお話ししましょう。

 ヨーロッパでのMotoGPの場合、基本的に陸続きなのでトラックやトレーラーは道路を走って移動します。走っているとフロントガラスやサイド部分に虫が付くんですけど、これが日本よりもひどい気がします。サーキットのパドックに着いたら、まず洗車をしないといけないんです。

 今回のチェコGPでは、ドイツGPの終わりの時点で「パドックの水で洗車禁止」とIRTA(国際ロードレーシングチーム連盟)、ドルナからお達しがありました。

 以前にも、水不足のためにパドックでの洗車禁止ということはありました。ミサノやバルセロナ、バレンシア、ヘレスとかね。でも、チェコは昨日も今日も雨が降っています……だから、なんでかなあと思いました(笑)。

 こうなると、例外なく全てのトラック、トレーラーがパドックでの洗車ができなくなるんです。けれど、綺麗にしなくちゃいけない……というわけで、IRTAが事前にトラック専用の大きな洗車機のある駐車場を教えてくれて、みんなそこで洗車してからパドックにやって来ることになります。

 今回、ザクセンリンクから移動してきた月曜日、たまたま僕が泊まったホテルの横に大きなトラック・ストップがあって、そこにトラック・ウオッシュがあったんです。すると「MotoGPのパドックじゃないか?」というくらい、全クラスのトレーラーがバンバンそこに入ってきました。KTMとかグレシーニとか、ドゥカティのトレーラー、それから(MotoGPライダーのアレックス・)リンスのモーターホームも見ましたよ。

 お金があるチームはトラック・ウオッシュを使う方が楽ですよね。10トン・20トントラックのサイズだと、洗車代は45ユーロ(約7650円)です。フルサイズのトレーラーなら60ユーロ(約1万200円)だと聞きました。

 チェコGPはイレギュラーだったのですが、通常はパドックで洗車します。パドックで洗う場合は、まず、通常は火曜日に待機エリアに入って、水曜日の昼頃にパドックに入ります。そこから洗い始めるのがルーティンです。HJCのサービストラックはドライバー付きのリースなので、ドライバーが全部やってくれます。

 昔、僕も自分でトラックを運転して回っていたことがあって、その当時は自分で洗っていましたけど、トラック1台を洗うのは大変でしたね。スペインの水などはカルキが強いので、洗ってもすぐにワイプで水滴を取らないと白く残ってしまうんです。水アカを残さないように、と気を配ったりしました。

 1人で洗うと……僕は手抜きをしていたので(笑)、それでも20~30分はかかっていました。丁寧にやると1時間はかかると思います。

 MotoGPのトレーラーになると見栄えが大事ですから、洗車後に手拭きをします。トレーラーのサイドから、全部です。HJCのトラックも、ドライバーは昼間ずっと磨いていましたね。

 MotoGPのファクトリーチームだと、うちはファビオ・クアルタラロをサポートしているので、僕はよくヤマハさんに行くのですが、ヤマハのドライバーもずっとトレーラーを磨いていました。

「明日、雨が降るのに……」と思うこともありますが、かまわずひたすら磨いています。

もはや仕事になるほど!? パドックでニーズのある洗濯事情

 チェコGPはドイツGPからの連戦でした。連戦と言えば、生活で困るというほどじゃないけど、洗濯が必要なんですよね。「コインランドリーはどこにある!?」って、泊まっているホテルの近所で探します。

日本のヘルメットメーカー「SHOEI」のサービストラックには洗濯機が備わっていた
日本のヘルメットメーカー「SHOEI」のサービストラックには洗濯機が備わっていた

 僕はチームウエアも含めて10日分くらいの服を日本から持ってくるので、10日に1回は洗濯をしなくちゃいけない計算になります。連戦でなければ日本に帰って洗濯ができますが、連戦となったらそうもいきません。

 日曜日にレースが終わると、月曜日か火曜日に次の開催地に移動します。だから月曜日、または火曜日に移動した先の周辺でコインランドリーがあるかを必ずチェックします。

 今回の場合はドイツで洗濯をしました。ドイツGPが行われるザクセンリンクのあたりは旧東ドイツなんです。だから洗濯機がすごくレトロで、よく分からない機械があって「なんだ、これ?」と思っていたら、シーツ伸ばしでした。

 それから、こちらの洗濯機って脱水が日本と比べてユルいんですよね。日本の全自動洗濯機はしっかり脱水してくれるけど、こちらの洗濯機はまだ濡れている状態なんですよ。

 かなり濡れた状態で乾かすと、水の重さで服がピーンとしてしわが伸びる、というワケなんです。だからなのか、追加で脱水だけできる脱水機もありました。このコインランドリーはホテルから2~3分くらいのところにあるのですごくラッキー。だから僕はこのホテルを変えたくないんです。

 そうそう、何年か前にこのコインランドリーで洗濯していたら、まだ当時デビューしたばかりだったダビド・アロンソ(2024年Moto3チャンピオン。現Moto2ライダー)に遭遇したことがあります。

 ドイツ語で書いてあるから分からなかったみたいで、「どうやって使ったらいいんだろう……」と困っていたので、使い方を教えてあげました。

 そうしたら「これ、何分くらいかかるの?」と言うんです。「洗濯で30分、乾燥は20分くらい必要なんじゃないか」と答えたら、「チームで食事に行くんだ。集合時間が……!」って焦っているんです。

 結局「(食事の時間に)遅れちゃいけない!」って、まだ乾ききっていないのに乾燥機から服を引っ張り出して、それを持ってチームのいるレストランまで走って行きましたよ(笑)。まだデビューしたばかりでしたからね。

 またチーム関係者が泊まっているホテルの周辺のコインランドリーでは、チームの人などにも会います。

 パドックでは洗濯の需要があるんですよ。過去に働いていたメーカーのお給料が少なかったので、当時HRCにいたロジャーに相談したことがあるんです。彼は「この人がいないと細かいことが回らない」というくらいのスーパー雑用係だったんだけど、そんな彼が「トミー、それなら洗濯屋をやれよ。洗濯機を現地で買って、現地でそのまま捨てていってもいいくらいに利益が出るはずだ」と言われたんです。

 彼曰く、IRTAにジェフ・ディクソンというパドック・マネージャーがいるんですが、ジェフが30年以上前にWGPのパドックで洗濯屋をしていたんですって。そのくらい、洗濯のニーズがあるんですね。

 当時の僕の場合は、トラックに洗濯機を備えていました。HJCのサービストラックにはないのですが、今も洗濯機を備えたサービストラックはありますよ。あと、ライダーのモーターホームにも。

 ファクトリーチームなどは、泊まっているホテルでランドリーに出してしまうんでしょうけど、そうじゃなければ、みんなコインランドリーで洗濯しています。自分で洗ってもいいんでしょうけど、絞ったり、乾かしたりするのが大変ですからねえ。

 と言っても、日本から来ている僕と違って、ヨーロッパの人なら連戦でも日曜日の夜には自宅に帰って水曜日にパドックに来る人もいますから、事情が違うのかもしれません。

 ヨーロッパ内は、2時間くらいのフライトで移動できちゃう。東京から北海道くらいのイメージでしょうか。そのくらいの距離なんです。

 MotoGPはヨーロッパをあちこち移動しているようで、じつは近所なんです。日本の距離感覚だと国内で移動しているようなものなんですよね。

 ヨーロッパのコインランドリーは、日本よりもお高めかもしれません。スペインやイタリアでは、30~40分の洗濯で7~8ユーロ(約1190~1360円)、乾燥機は10分で1ユーロ(約170円)します。僕の感覚としては、だいたいどこの国のコインランドリーでもそのくらいのように思います。

 あとは、トークンというコインを購入しなければならないところもあります。小銭がなくて紙幣を両替機で両替したら、硬貨とトークンが混ざって出てきたことがありましたけど、あれにはまいりました。

 プリペイドカード式のところもあります。自動販売機で購入したプリペイドカードだと、少し安く洗濯できるわけです。でも、どちらにせよ余ることもあるんですよね。

 そう言えば、僕がケムニッツで洗濯した写真をインスタグラムにアップしたら、(Moto3ライダーのホセ・アントニオ・)ルエーダのお父さんに「(コインランドリーは)どこにあるんだ?」と聞かれましたね。

 話を聞いたら彼はもうプラハにいたそうで、「プラハのコインランドリーまでは分からないよ」と思ったけど……(笑)。

 でも、コインランドリーや日本食レストランなどは把握しておいて教えてあげるようにしています。僕がやっているのはレーシング「サービス」だから。それも僕にとって、MotoGPパドックで行う「サービス」のうちなんです。

 今回は、MotoGPのパドックに停められている各チームやサプライヤーのトラックとトレーラーの洗車事情、それからMotoGPとともに転戦する僕の洗濯事情をご紹介しました。MotoGPの現地感、少しでも感じていただけたでしょうか?

■HJC HELMETS
韓国のヘルメットメーカー「HJC」は、2025年シーズンは3名のMotoGPライダー、ファビオ・クアルタラロ、ブラッド・ビンダー、ミゲール・オリベイラをサポート。彼らが使用するのは市販製品である「RPHA1」(※モデル名は販売国によって異なる)

(まとめ:伊藤英里)

【画像】でかっ!! 巨大なトレーラーの洗車と「なんだ、これ?」のレトロなランドリーを見る(11枚)

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Writer: 長谷川朝弘

2001年からシーズンを通してMotoGPを転々とし、パドックでヘルメットのレーシングサービスに携わる。2016年、HJCのレーシングサービス担当者に。最大限かつ最も重要なサポートとして「視界をクリアに保つこと」をポリシーに、日々試行錯誤を続けている。

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