広大な塩の平原で世界最高速記録に挑戦!! 自然との戦いでハーレーがベースの専用マシンが叩き出したのは時速216マイル!?

映画『世界最速のインディアン』(2005年)の舞台となった、米国ユタ州の塩の平原で繰り広げられるスピードトライアルに、ラスベガス在住の日本人がハーレーダビッドソン「FXD」をベースに作り上げたレーサーで挑み続けています。2025年の挑戦はどうだったのでしょうか。

超えるべき壁は、自分が持っている記録

 長い直線で最高速を競う「ランドスピードレース」は、言葉にすると簡単ですが、じつは奥が深いレースでもあります。パワーがあるだけのバイクでは世界記録を獲得することはできず、標高の高いボンネビルを走るならば、高地に対応したチューニングが必要になります。

 舗装よりもはるかにグリップしない塩の路面では、トラクションをかけるためにウエイトを積むなどの工夫も必要です。何よりも重要なのは空力性能で、時速200マイルを越えるスピードでは、パワーがあっても空力が良くなければスリップしてスピードが落ち込むこともあるのです。

2025年のBMSTは、コースのコンディションに恵まれずスピードを乗せきれなかった。それでも軽く時速300キロを超えている
2025年のBMSTは、コースのコンディションに恵まれずスピードを乗せきれなかった。それでも軽く時速300キロを超えている

 2025年も8月後半に開催された「ボンネビル・モーターサイクル・スピード・トライアルズ」(以下、BMST)は、正に自然との戦いになりました。会場のボンネビル・ソルトフラッツは、広大な塩の平原です。高低差がなく10マイルほどの長い直線コースが取れるので、100年以上前からクルマやバイクによる最高速レースやチャレンジが開催されています。

 現在でも雨の少ない8月から10月にかけて、幾つかのレースが開催されています。その中でもバイクだけが参加できるレースがBMSTです。MotoGPなど世界的なレースを主催するFIMと、アメリカ国内のレースをオーガナイズするAMAが公認する唯一のレースでもあります。FIMのレギュレーションで登録をすれば、文字通り世界最速の称号を得ることができるのです。

 2008年からBMSTに挑戦し続ける日本人がいます。毎回最高速度記録を更新する小磯博久さんです。2022年と2023年は天候不良などでレースが中止、2024年は小磯さんの事情で出場できなかったため、今年は4年ぶりのレースとなりました。

 小磯さんのランドスピードレーサーは、ハーレーダビッドソンの「FXD」をベースにスーパーチャージャーを装備するなど、ボンネビルでスピードを出すためだけに作られ、最高出力は400HPを超えています。今年は、FIM、AMAで自分が持っている記録のうち2つを更新することが目標でした。

 2021年のFIM記録は時速249.443マイル(時速401.44キロ)ですが、リターンランができずに公式記録にならなかった自己ベストは時速260マイル(時速416キロ)を超えていました。

過去の記録を超えるスピードを出すとコースを逆から走るリターンラン。往復の平均速度が正式な世界記録になる
過去の記録を超えるスピードを出すとコースを逆から走るリターンラン。往復の平均速度が正式な世界記録になる

 今年のソルトフラッツは、極端に乾燥して滑りやすい上に、コース上に隆起している部分があり、あまり良いコンディションとは言えませんでした。少しの雨が降れば改善されるだろうと予想していましたが、初日の夜に降った雨は期待を遥かに越える豪雨となり、2日目はコースが乾かずレースがキャンセルされました。

 BMSTでは、全長7マイルの「インターナショナル」と、3マイルの「マウンテン」という2つのコースが設営されています。インターナショナルでは最長で3マイルの加速区間、1マイルの計測区間、3マイルの減速区間があり、マウンテンでは加速も減速も1マイルです。

 3日目はオープンにはなったものの、インターナショナルコースは乾かずにクローズ。そのため小磯さんもマウンテンコースでのチャレンジとなりました。

 小磯さんの持つ記録のうち、AMAのナイトラスを使ったフューエルクラスは時速211.032マイル。この記録を更新することにして3000APS-PBFクラスのセッテイングで挑みました。

 しかし加速距離の足りなさに加えて、マウンテンコースのコンディションも良好ではありませんでした。気温が上がる前の午前中に集中して走行を重ね、最終日に時速216マイル(時速346キロ)を出して自己記録を超えました。このスピードを正式な記録にするためには、同じコースを逆から走るリターンランで同程度の最高速を出し、往復の平均速度が正式な記録になります。

 結果としては、計測区間の入口の塩の状態が非常に悪く、残念ながら僅かに記録に届かず、今年のレースは終わりました。

 公式記録にはならなかったものの、時速216マイルはBMST2025での最速記録になり、小磯さんはレース後のパーティで表彰を受けました。

 バイクのパフォーマンスは十分にあるものの、自然の環境に左右されるのがランドスピードレースです。だからこそ、人々はボンネビル・ソルトフラッツに魅了され、挑戦を続けるのでしょう。

【画像】世界最速のハーレー!? シフトギアを砕きつつもレース最速を記録したランドスピードレーサーを見る(19枚)

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Writer: 増井貴光

旅をライフワークにバイク専門誌などで活躍するカメラマンでコラムニスト。国内だけでなく、アメリカでランドスピードレースやドラッグレースの撮影を続けている。著書としてユタ州ボンネビルで最高速に挑戦するライダーを撮影した写真集『bonneville』と、ルート66を実際に走って撮影した『movin’on』がある。また撮影だけでなく、イベント等の企画・運営にも携わるなどその活動は幅広い。愛車はハーレーFLTRXS、ホンダXR250とCT110

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