「フロントもスイングアーム」ってどういうこと!? ビモータ「TESI H2 TERA」が装備する「ハブセンターステアリング」とは?
カワサキが資本参加する「bimota(ビモータ)」が製造するクロスオーバーモデル「Tesi H2 TERA」の国内販売が決定しました。従来のフロントフォークとはルックスがまったく異なる「ハブセンターステアリング」を装備していますが、どんな仕組みで曲がるのでしょうか?
ビモータならではの革新的なフロントサスペンション
現代のスポーツバイクの多くは、フロントサスペンションに「テレスコピック式フロントフォーク」を採用しています。しかしイタリアの「bimota(ビモータ)」は、古くから独自の「ハブセンターステアリング」を装備する車種をリリースしています。
直近では、2025年のモーターサイクルショーやジャパンモビリティショー2025のカワサキのブースで展示され、国内販売も決定した「Tesi H2 TERA」がハブセンターステアリングを装備しています。
従来のテレスコピック式フロントフォークとまったく異なるルックスですが、最大の特徴は「操舵と衝撃吸収を分離した構造」にあります。
……と、言われてもピンとこないのが普通でしょう。ハブセンターステアリングはいったいどうやって曲がるのか? そしてどんなメリットがあるのか? 詳しく見てみましょう。

曲がる原理自体は他のバイクと同じだが……
ハブセンターステアリングを解説する前に、まずは「バイクが曲がる仕組み」を簡単におさらいしましょう。
押し引きや極低速の小回りやUターンを除けば、バイクはハンドル操作ではなく、車体を傾けることで曲がる乗りものです。車体を傾ける(=後輪を傾ける)ことで旋回をはじめますが、前輪はキャスターとトレールによって、後輪の旋回に追従して自然に舵を切る「セルフステア」するため、ハンドル操作ナシでスムーズに曲がることができます。
じつはこの「曲がる仕組み」自体は、従来のテレスコピック式フロントフォークもハブセンターステアリングも基本的に同じです。

従来からのテレスコピック式フォークは、メインフレームの前端にあるステアリングポストがフロントフォークを保持する三つ又(トリプルクランプ)を支えていますが、基本的にこのステアリングポストの角度が、前輪が左右に舵を切る「ステアリング中心軸」になっています。
対するハブセンターステアリングは、Hub(ハブ)Center(中心)Steering(操舵装置)の名前の通り、前輪のハブの中心にステリング中心軸を設けています。

曲がる仕組みを「ハブの中」に集約!?
それでは、ハブセンターステアリングの仕組みを見てみましょう。
まずテレスコピック式フォークと大きく異なるのは、前輪をリアサスペンションと同様のスイングアームで支えているところです。また、テレスコピック式フロントフォークの場合は前輪のハブ(ホイールのスポークを支えている中心部分)が回転しますが、ハブセンターステアリングの場合はハブは回転せずに、ハブの周囲に設けた大径のベアリングによって、ホイール部分のみが回転します。
スイングアーム左右を繋ぐアクスル軸のようなシャフト(フロントホイールスピンドルと呼ぶ)の中心に、十字型に設けたピンでハブの中心部を支えています。そしてこのピンは路面に対して、テレスコピック式フロントフォークのステアリング中心軸のキャスターと同様に角度が付いています。

そのため前輪(ハブ)が左右に舵を切れるように、ハブの側面には楕円形に穴が開いていますが、よく見るとこの穴もステアリング中心軸の角度に合わせて斜めに開いているのがわかります。
とはいえこの構造だと、左右に舵を切るハブの部分とハンドルを直接連結できないため、ビモータの既存のハブセンターステアリングのバイクは、ハブとハンドルをいくつもの細いロッドやリンクレバーを用いて、複雑な構造で繋いでいました。
しかし最新の「Tesi H2 TERA」では、ハブの側面パネルを兼ねるフロントブレーキキャリパーのマウント部から、パンタグラフ状のステーでハンドルの中心軸と繋ぐ、比較的シンプルな構造に変わっています。

そして衝撃を吸収するための「サスペンション部分」は、テレスコピック式フロントフォークはブレーキをかけるとフロントフォークが縮んで車体が前下がりになり、キャスターの角度やトレール量が変化するため、それが乗り味や操縦性(ハンドリング)にも影響します。
対するハブセンターステアリングは、フロントのスイングアームが上下しても、構造的にキャスター角やトレール量が変化しないため、カーブ進入の減速でブレーキをかけても車体姿勢が変わらず、ハンドリングが変化しないのも大きなメリットです。
そしてテレスコピック式フロントフォークは操舵機構と衝撃吸収の機能を兼ねた構造ですが、ハブセンターステアリングの場合はリアサスペンションのようなスイングアームに設けたショックユニットで衝撃を吸収し、ハブの中心に設けた操舵機構とは完全に分離されています。
「Tesi H2 TERA」のハブセンターステアリングのショックユニットは、エンジンの後ろ側にリアサスペンションのショックユニットと並んで配置されており、フロントのスイングアームの左側下部から太いロッドが車体の後方に伸び、リンクを介して繋がっています。

また、ハブセンターステアリングは構造的にブレーキをかけても前下がり(ノーズダイブ)しにくく、それも車体姿勢の変化を抑える要因となり、コーナリングを安定させるメリットになっています。
さらには曲がるために車体を傾ける中心軸となる「ロール軸」も、テレスコピック式フロントフォークのバイクよりかなり低い位置になるため、少ないモーションで素早く車体が傾き、かつ素早く舵角が付く(セルフステアする)ので、高い安定感と鋭い曲がり方を両立できるのです。
メリット盛り沢山なのに、なぜ普及しない?
ハブセンターステアリング機構は、既存のテレスコピック式フォークと比べ様々なメリットがあります。にもかかわらず、実用化して市販モデルの採用しているのは「ほぼビモータのみ」なのはナゼでしょう?
最大の理由は、おそらく「汎用性の低さ」でしょう。かつては車種ごとに(異なるエンジンごとに)、ハブセンターステアリングシステムを取り付けるために、完全に専用のプレート状のフレームを設計していました。これは「Tesi H2」以降、「Tesi H2 TERA」に採用した「TERAシステム」により若干改善されたように思われますが……。
テレスコピック式フォークなら、排気量や車両重量に合わせて何種かの仕様で対応できるのと比べると、まだまだ汎用性を高めたとは言い難い部分があり、当然ながら製造コストを大きく押し上げる原因になります。大量に作れない、大量に売れないので、プライスも当然高額になります。
また、整備の難易度の高さ(タイヤ交換だけでも相応に大変)も、ハブセンターステアリングが普及しない要因のひとつでしょう。

それに対し、多くのバイクが採用するテレスコピック式フロントフォークは、汎用性の高さ=装備車両の多さも手伝って、性能面はもちろん剛性を高めたり伸縮する際の摺動抵抗を減らすなど、デメリットとされる部分も日々進化しています。操舵と衝撃吸収を兼ねた構造による車体姿勢やハンドリングの変化も、車体設計によって改善している部分もあります。
そして何より「テレスコピック式フロントフォークの特性に多くのライダーが慣れている」ため、高いコストをかけてまでハブセンターステアリングを採用する必要が無い、というのも現実ではないでしょうか。
とはいえ、ビモータのような技術チャレンジがあるからバイクは面白い、というのも事実。メジャーになり得なくても、個人的には今後もハブセンターステアリングが存続すると良いな……と思います。
Writer: 伊藤康司
二輪専門誌『ライダースクラブ』に在籍した後(~2005年)、フリーランスの二輪ライターとして活動中。メカニズムに長け、旧車から最新テクノロジー、国内外を問わず広い守備範囲でバイクを探求。機械好きが高じてメンテナンスやカスタム、レストアにいそしみ、イベントレース等のメカニックも担当する。




















