ホンダ発のベンチャー「PathAhead(パスアヘッド)」が世界初となる“砂漠の砂”から作る人工骨材「Rising Sand(ライジングサンド)」を発表!! アフリカの未来を拓く新技術とは
ホンダの新事業創出プログラム「イグニッション」から誕生したスタートアップ、株式会社PathAhead(パスアヘッド)は、2026年3月31日に創業会見を開きました。同社は、世界初の人工骨材「Rising Sand(ライジングサンド)」を開発していますが、どのようにして生み出されたのでしょうか。
ホンダの「ワイガヤ」から生まれた革新的アイデア
ホンダの新事業創出プログラム「イグニッション」から誕生したスタートアップ、株式会社PathAhead(パスアヘッド)は、2026年3月31日に創業会見を開きました。
同社は、これまで利用が困難とされてきた砂漠の砂を、高耐久な道路舗装材へと転換する世界初の人工骨材「Rising Sand(ライジングサンド)」を開発し、アフリカにおける持続可能な道路網の構築を目指します。
代表の伊賀将之氏は、「人と社会の無限の可能性を広げる」というミッションを掲げ、事業への強い意欲を示しました。
PathAheadの代表取締役を務める伊賀将之氏は、2012年に本田技術研究所へ入社して以来、10年以上にわたり四輪ボディの金属材料研究開発に携わってきた技術者です。

同氏の転機となったのは、2023年に新設された「材料研究センター」への配属でした。この組織は、モビリティ分野に限定されず、新しいビジネス創出に貢献する材料技術を基礎から探求する部署であり、伊賀氏にとって新たな挑戦の始まりとなりました。
事業の着想は、役職や年齢に関係なく自由に議論を交わすホンダ独自の企業文化「ワイガヤ」から生まれました。ある会議で、一人のスタッフが「これからはアフリカが成長する」と提言し、別の技術者が「砂漠の砂を利活用する技術がある」と発言したことがきっかけです。
伊賀氏がこの二つのアイデアを結びつけ、「砂漠の砂で道路を建設すれば、人々に移動の喜びを継続的に提供できるのではないか」という革新的なコンセプトが誕生しました。
このアイデアの背景には、世界的な資源問題が存在します。現在、コンクリートやアスファルトの製造に不可欠な砂や砂利は、水に次いで資源リスクが高いと指摘されています。建設に適した川砂や山砂は、採掘による環境破壊への懸念から規制が強化されており、その結果として価格の高騰が続いています。
アフリカの多くの国々では、道路の舗装率が依然として極めて低い水準にあります。未舗装の道路は激しい交通渋滞や物流の非効率化を招き、輸送コストは先進国の3倍以上に達するとされています。
この問題は、現地に進出する企業にとっても深刻であり、ホンダが2023年に設立したガーナの四輪工場では、雨季になると工場のエントランスがぬかるみ、部品の搬入や製品の出荷に支障をきたすという事態に直面しています。
アフリカ各国は道路建設に年間約8000億円もの巨額な投資を行っていますが、建設された道路の多くは1年から5年という非常に短い期間で損傷してしまいます。例えば、ケニアの主要幹線道路ですら路面は穴だらけの状態であり、これが慢性的な渋滞と輸送コスト高騰の大きな原因となっています。
この道路の「短寿命」の根本的な原因は、舗装材の品質にあります。アスファルト混合物の約95%は、大小の石である「骨材」で構成されています。これらの骨材が石垣のように強固に噛み合うことで、道路の耐久性は維持されます。しかし、アフリカでは品質の低い粗悪な骨材が使用されるケースが多く、これが道路の早期劣化を招いているのです。
砂漠の砂を革新的資源へ変える人工骨材「Rising Sand」
この深刻な課題を解決するためにPathAheadが開発したのが、人工骨材であるRising Sandです。砂漠の砂は粒子が細かく丸い形状をしているため、そのままでは骨材として使用できませんでした。
しかし、同社は「増粒」という独自の技術を確立し、砂漠の砂の粒子を大きくすることで、高強度な人工石を生成することに成功しました。
Rising Sandの最大の特徴は、工業製品のように均一で高い品質を安定して製造できる点にあります。その耐久性は、ホイールトラッキング試験において、日本の良質な天然骨材と比較して2.5倍以上という極めて高い数値を示しました。これは、一般的な設計耐用年数が10年とされる日本の道路に適用した場合、20年以上の寿命が期待できることを意味します。

この技術により、道路のライフサイクルコストを劇的に低減できるだけでなく、川砂や砕石の採掘が不要になるため、環境負荷の低減にも大きく貢献します。耐久性向上を目指す競合技術の多くは、調達性に課題のある特殊な添加剤を用いるアプローチですが、Rising Sandは豊富に存在する砂漠の砂を主材料とすることで、「高耐久」「低コスト」「高い調達性」という独自の強みを確立しています。
PathAheadは、今後の事業展開の最初のターゲット市場として、舗装率が低く、砂漠が存在し、ビジネス環境が整っているアフリカの3カ国を選定しています。特にケニアでは、すでに同国の都市道路局とMOU(基本合意書)を締結しており、実証実験に向けた準備が着々と進められています。現地の建設業者からも、政府の認可が下り次第すぐにでも購入したいという声が寄せられており、期待の高さがうかがえます。
同社は、2028年に量産を開始し、事業を本格的にスケールさせる計画です。そして、2034年には400億円の営業利益を達成するという目標を掲げています。当面の課題は、現在ラボスケールで数kg単位に留まっている製造技術を、トン単位で安定生産できる量産技術へと確立すること、そして実際の道路環境下でその卓越した耐久性を実証することです。
この壮大な挑戦を成功に導くため、強力なチームが結成されました。CEO兼CTOを務める伊賀氏のもと、数々の上場企業で事業開発を成功させてきた守谷実氏が事業顧問に、元首都高速道路株式会社のエンジニアでインフラ維持管理のスペシャリストである永田佳文氏が技術顧問に就任しました。
さらに、アフリカの現役ベンチャーキャピタリストや海外契約の専門家もチームに参画しています。資金面においても、日本を代表するベンチャーキャピタルであるインキュベートファンドとサイバーエージェント・キャピタルからの投資実行が決定しており、事業への高い評価と期待が寄せられています。
伊賀氏は、事業の原点となったケニアでの経験を振り返ります。現地で道路工事を行った際、地元の子どもたちが心から喜んでくれた姿に感銘を受け、そこで「Barabara nzuri Maisha nzuri (バラバラ ンズーリ マイシャ ンズーリ)」というスワヒリ語のことわざを教わったといいます。これは「道が良くなれば人生が良くなる」という意味の言葉です。
伊賀氏は、「道づくりは、国づくりや街づくりの起点です。道ができ、インフラが整い、病院や学校、工場が建つことで人々の生活は向上していきます。その最も基盤となるのが、我々の材料なのです」と語ります。技術の力で人々の生活を飛躍的に向上させることができるという確信を胸に、PathAheadの挑戦は今、始まったばかりです。

































