微笑みの国では、人は優しく、バイクは勇ましい ~木下隆之の、またがっちゃいました vol.2 ~

プロレーシングドライバー木下隆之氏が、タイ王国で勇ましいバイクと人の優しさに癒されます。いったい何があったのでしょうか?

微笑みの国で、女性とバイクに癒される

 僕がレース参戦のために“タイランド詣で”に出向いてまだ3年しか経たない(ブランパンGTワールドチャレンジ・アジアに『BMW Team Studie』からBMW M4GT4で参戦)。だが、すでに心を通わせた仲のタイ人女性がいる。ちょっとふくよかで、よく陽に焼けた肌で笑顔を浮かべる。毎年必ず彼女に会うことにしている。

都心部を離れると勇ましい姿のバイクをよく見かける

 タイの首都バンコクまでは、羽田からだと空路7時間。スワンナプーム空港に降り立ち、国際サーキットのあるブリーラム県までは陸路で5時間もかかる。

 いくら機内で邦画を観ながら怠惰な時間を過ごしているとはいえ、けして舗装が整っているとはいいがたいタイの田舎道を延々5時間も走っては、体の節々が痛くなる。

 幸い、チームは足のいいBMW(クルマ)を準備してくれているから不満を口にはできない。だって、タイでの販売価格は、日本円にすれば3000万円とか4000万円に達するという高級車を、僕の移動のために揃えてくれているのだから、こんな高待遇ありえないのである。車体の半分以上が税金でできているBMWを用意してもらって、不平不満を口にしたらバチが当たるだろう。

未舗装路や悪路でもバイクは日常生活の道具としてよく働く

 とはいうものの、贅沢にできている僕の体は正直で、BMWだろうがレクサスだろうが、荒れた道を3時間ほど連続走行すれば疲れるのだ。

 だがタイは素晴らしい。「そろそろ腰でも伸ばそうかねぇ」という絶妙のタイミングで、風光明媚なパーキングエリアがある。そこにいつも、サイドカーを屋台に改造した売り子が店を構えているのだ。その女性こそ、僕が心を通わせたお相手である。

勇ましいバイクと、優しいおばちゃんに救われる

 このコラムを読むことはないだろうから遠慮なく言わせてもらえば、彼女は「おばちゃん」である。日本語はもちろん、英語も通じない。こっちはこっちでタイ語はまったく理解できない。漢字というのか平仮名というのか、象形文字なら想像がつくのだが、タイ文字は100%判読不能だ。右から読むのか左から読むのかすら知らない。ただただ笑顔で欲しいものを指差すしかコミュニケーション手段がないのである。

ホンダのバイクに連結させた屋台のおばちゃんと木下隆之

 もっとも、おばちゃんも心得たもので、満面の笑顔で冷たいコーラを差し出してくれる。タイは微笑みの国である。心優しい民族である。その優しさに、大いに助けられるのだ。

 それにしても、彼女が屋台と連結させているバイクは勇ましい。ホンダ製で、黒いボディはいつもピカピカに磨き上げられている。

 サイドカーといっても、バランスを考えて製作されているとは思えないもので、リアカーを無理やりサイドにくくりつけて牽引しているに過ぎない強引さだ。

後ろ姿も勇ましい、タイを走るバイク(これもサイドカーか?)

 彼女に会いたければ、パクチョンという村のはずれにある湖のほとりを尋ねればいい。仕事熱心な彼女は、今日もピカピカとのホンダを走らせて、コーラをキンキンに冷やしてくれているはずである。

【了】

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Writer: 木下隆之

1960年5月5日生まれ。明治学院大学卒業後、出版社編集部勤務し独立。プロレーシングドライバーとして全日本選手権レースで優勝するなど国内外のトップカテゴリーで活躍。スーパー耐久レースでは5度のチャンピオン獲得。最多勝記録更新中。ニュルブルクリンク24時間レースでも優勝。自動車評論家としても活動。日本カーオブザイヤー選考委員。日本ボートオブザイヤー選考委員。

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