現在のハーレー・カスタムシーンで高い人気を誇るモデル「FXR」開発ストーリー “不人気車”から復権した理由とは
1982年に登場したハーレー・ダビッドソン製「FXR」は、エンジンをラバー(ゴム)を介して搭載することで振動低減を狙った同社の革新的モデルです。一度は“不人気車”のレッテルをはられるも、近年ではハーレーの絶版車の中でも特に人気のあるモデルとしてその地位を復権しています。
“走りを追求した”カスタムに最適なベース車「FXR」とは
現在のハーレー・ダビッドソン(以下:ハーレー)・カスタムシーンで高い人気を博している“クラブスタイル”は、米国で2008から2014年までシーズン7に渡って放映されたドラマ、“Suns of Anarchy(サンズ・オブ・アナーキー)”の劇中でアウトローバイカーが駆る“走りを追求した”カスタムが起因となり流行となったスタイルです。
米国においては、ドラマが始まる以前から、こうした姿のカスタムバイクはひとつのスタイルとして浸透していますが、“サンズ・オブ・アナーキー”の放映により、その人気が再燃し、世界中にひろまることとなりました。

そんな“クラブスタイル”のカスタム車両のベースとして、絶版車となった今なお多くのマニアから支持されるモデルが“FXR”ではないでしょうか。
ハーレーがオールアルミ素材のエヴォリューション・モーターを発表する以前、鉄シリンダーを有するショベルヘッド・エンジンが現役の時代である1982年にリリースされたこのモデルは、それまでの同社の車両とは、まったく違う発想である“エンジンをラバー(ゴム)を介して搭載する”という“ラバーマウント”というシステムを採用しました。

これにより、ハーレーの魅力であると共にネガティブな要素となっていた“振動”を打ち消す構造となっているのですが、それが今までのハーレーとは違う次元での“走り”を生み出す大きな要因となっています。
ちなみに1971年に登場したスーパーグライドというモデルから採用された“FX”という型式名に“Rubber(ゴム)”を意味する“R”を追加した“FXR”というモデルは、1979年に開発計画がスタートしました。バイクのエンジンからの振動をゴムブッシュを介して軽減する“Isolastic(アイソラスティク)方式”は、それ以前に英車のノートン・コマンド(1969~1977年生産)でも採用されていましたが、これに似た方式をハーレーが採用することは当時、画期的な出来事でした。
プロジェクト・メンバーにはあの“エリック・ビューエル”の姿も
そのプロジェクトの第一歩として当時のハーレー社は、これまでとは違う発想で設計する新モデルの開発メンバーとして若きエンジニアたちを集めることになったのですが、そこに名を連ねたのが1986年にハーレーダビッドソンのエンジンを搭載したスポーツバイク“Buell(ビューエル)”を世に送り出したエリック・ビューエルだったとのことです。
ハーレーのラバーマウントシステムの実質的な開発者であるエリックは当時、同社のR&Dチームに属する新顔のエンジニアだったのですが、まずは最初のラバーマウントモデルである“FLTツアーグライド”を開発。
メインとなる骨格はエンジンが三点支持されるダイヤモンド・シェイプフレームとなり、歴代ハーレーの中でいち早く5速ミッションを採用し、ショートホイールベース化も果たされた画期的なモデルでありながら、プロモーション不足や、それまでのH-Dとは大きくかけ離れたスタイルが要因となってか大きな成功を収めることはなかったようです。

とはいえ、このFLTこそが現行のツーリングモデルの始祖といえる存在であり、1982年からスタートしたFXRシリーズに続く礎となったのは紛れもない事実です。またこの1982年ハーレー社がAMF社(アメリカン・マシン・ファンダリー社:1968年から1982年までハーレー社を傘下に治めた総合機械メーカー。ボウリングのピンセッターなどの生産で知られる)から再び独立した年であり、FXRというモデルが、まさに新時代のハーレーであることを象徴しています。
特に1984年にアルミシリンダーを採用したエヴォリューション・モーターが登場して以降、信頼性の高いエンジンと高剛性のシャシーという組み合わせは多くのライダーに受け入れられました。