高校生の頃、「スカートの女性を横向きに乗せてのニケツ」への憧れは脆く儚く崩れ落ちた ~木下隆之の、またがっちゃいましたVol.20~
バイクの免許を取得した高校時代。昭和のスターたちが後ろに座るスカート姿の女優さんを横向きに乗せて銀幕の中に登場していました。現実は男子校に通っていた筆者、汗臭い同級生にしがみつかれニケツすることに!
女性を乗せてのニケツ! 憧れを抱いていた10代現実は……
バイクの免許を取得した高校生のころ、口に出さぬにしても、憧れていた乗り方があった。「ニケツ」である。しかもそれは、背後のシートに「女性を乗せてのニケツ」。さらに言えば、「スカートの女性を横向きに乗せてのニケツ」である。
それにしてもニケツという言葉がこれほどまで定着するとは思いもよらなかった。「二輪車に二人乗りすること」なのだが、かつては不良言葉だった。善良なバイク乗りのぼくは、口にするのも汚らわしかったのである。
とはいうものの、ひそかに「スカートの女性を横向きに乗せてのニケツ」を夢みていたのも事実。
映画のワンシーンが憧れの源だったと思う。「仁義なき戦い」だったか「幸福の黄色いハンカチ」だったか記憶は薄れているけれど、「高倉健」だったか「鶴田浩二」だったかが、「吉永小百合」だったか「松原智恵子」だったかを横乗りさせて走り去るシーンが目に刻まれて離れなかったのだ。
場所は、河川敷の天端だったと思う。高く盛られた堤防の砂利道を、ヒラヒラスカート姿の大女優が、当代きっての銀幕スターの腰に手をまわして走り去る姿に、ドキドキしてしまったのである。
齢(よわい)キノシタは、16歳である。性にもことさら興味が芽生えており、だというのに体臭のキツイ男子高の生徒だったのだから、それも許していただきたい。
しかも、である。高校生でバイクを所有しているのは少なかったから、僕のリアシートは人気の的だった。体臭のキツイ同級生が、こぞって僕とニケツをしたがった。つまり、ヒラヒラスカートの吉永小百合ではなく、学ランを着たジャガイモが僕の腰に手を回すのである。二の腕を振りほどこうと激しいローリングを繰り返ししても、むしろギュッと力を込められて嫌な思いをした。「スカートの女性を横向きに乗せてのニケツ」への憧れは、日に日に募っていったのである。
とはいうものの、今でそれは本当に夢の世界の出来ごとになったしまった。安全義務違反などという不粋な交通法規によって、「ニケツしたいのなら、マタを大きく開いてしがみつけ」となったからである。
そんな見果てぬ夢に想いを巡らせながら中国・上海のライダーを眺めていると、思いのほか「スカートの女性を横向きに乗せてのニケツ」が多いことに気がついて羨ましくなった。日本男児も大和撫子も地に落ちたものだよなぁ~、と嘆いたのである。
だが、スマホ撮影した写真をみてちょっと安心した。
「豆喰ってるじゃん」
吉永小百合も松原智恵子も、高倉健とのニケツで豆なんか喰っちゃいなかったと思うと、まだまだ日本男児も大和撫子も捨てたものじゃない。
【了】
Writer: 木下隆之
1960年5月5日生まれ。明治学院大学卒業後、出版社編集部勤務し独立。プロレーシングドライバーとして全日本選手権レースで優勝するなど国内外のトップカテゴリーで活躍。スーパー耐久レースでは5度のチャンピオン獲得。最多勝記録更新中。ニュルブルクリンク24時間レースでも優勝。自動車評論家としても活動。日本カーオブザイヤー選考委員。日本ボートオブザイヤー選考委員。