カワサキの高度なセンスが見え隠れするCMの数々~木下隆之の、またがっちゃいましたVol.28~
日本のテレビCMは、30秒で構成されるものが多く、全てをその中で表現しなくてはなりません。そんな中、海外で放映されたカワサキのCMは、驚くほどにクリエーターのセンスが見え隠れします。
比較CMでインパクトを与えるカワサキのセンスに脱帽
日本のテレビCMは、たいがい30秒で構成されている。一般的に流れるのは15秒。その限られた時間の中で、全てを表現しなければならないのだ。
そんな短いCM撮影をドライビングディレクターとして経験していると、30秒はゆったりと長尺にかんじる。だがそれが、陥りやすいワナになる。時間に余裕があるぶんだけ、絵やコメントを詰め込みたくなる。それがついつい説明口調の不粋な作品になるのだ。
僕がお気に入りのカワサキのCMがある。

とあるビルの地下駐車場に、たった一台のポルシェ911が止まっている。空冷リアエンジンの、速さ自慢のスポーツカーだ。
人の気配はない。
そこに、緑色のバイクがやってくる。ライダーはおもむろに、そのポルシェ911の隣の枠にバイクを停める。そしてサイドスタンドを下ろし、ツカツカと静かに立ち去っていく。
映像は、ポルシェ911の背後からのショットに移る。ポルシェ911とバイクのツーショットだ。
ただ、静かにそれを映している。
そして数秒後、ポルシェ911のエンジンがオイルを漏らす。ツーっと糸のように漏れたオイルはやがて、ポルシェ911のリアエンジンがあるその床一面に、小さな池をつくる。
「The Ninja ZX-12R」
「The fastest machine」
「We have ever built.」
世界のポルシェ911ですらビビっておしっこを漏らしてしまうなんて、誰がそのシナリオを描いたのだろう。クリエイターのセンスに脱帽である。
比較広告は、とかく面倒なものだ。だがカワサキは堂々と、ポルシェ911をディスるのだ。
ただそこには、ポルシェ911ファンの方気持ちを逆なでするものではなく、むしろカワサキに選ばれたことの誇りにニヤッとして許せてしまう。カワサキのそんな愛されキャラまで計算させているのだ。
たかがCMである。だが、そこにはカワサキの驚くほど高度なセンスが見え隠れする。
【了】
Writer: 木下隆之
1960年5月5日生まれ。明治学院大学卒業後、出版社編集部勤務し独立。プロレーシングドライバーとして全日本選手権レースで優勝するなど国内外のトップカテゴリーで活躍。スーパー耐久レースでは5度のチャンピオン獲得。最多勝記録更新中。ニュルブルクリンク24時間レースでも優勝。自動車評論家としても活動。日本カーオブザイヤー選考委員。日本ボートオブザイヤー選考委員。






