ハーレーの本場、アメリカに渡り第一線で活躍するメカニック 『バーテルズ』星野充氏が語る『日本と米国、仕事のシステムの違い』とは~前編~

長い歴史を持つバイクブランド「ハーレー・ダビッドソン」が生まれたアメリカの名門ディーラーでは、ある日本人メカニックが活躍しています。いったいどのような人物なのでしょうか。

なぜアメリカに!? ハーレーの本場に挑んだ日本人メカニック

 1903年に創業して以来、現在に至るまで117年もの歴史を持つハーレー・ダビッドソン(以下:H-D)。いうまでもなく、その存在はイチ・バイク・メーカーという枠を超え、『アメリカ』という国そのものを象徴するものです。

地元の『ハーレーダビッドソン山梨』での勤務を経て2004年からアメリカのディーラー、『バーテルズ・ハーレーダビッドソン』で活躍する星野充氏。写真は日本のH-Dショップ「サンダンス」が所有するJ・スプリングスティーンが『バーテルズ』時代に走らせたXR750

 その本場、アメリカのカリフォルニアに店舗を構える正規H-Dディーラー『バーテルズ』は、シルベスタ・スタローンやアーノルド・シュワルツェネッガー、ミッキー・ロークなどのハリウッドスターを顧客に持ち、「ロッキー」や「ターミネーター2」、「ハーレーダビッドソン&マルボロマン」などの映画に登場するバイクを製作。それと同時にジェイ・スプリングスティーンやナイジェル・ゲイルなどの著名ライダーを迎え、ダートトラックやロードレースの世界でH-D社のセミワークス的なレーシングチームとして活動することでも知られています。

 ここでは2004年に渡米し、名門正規ディーラーに勤務する日本人メカニック、星野充氏に『アメリカに渡った理由』と『本場のH-Dシーン』や『日本と異なる仕事のシステム』などについての話を伺ってみました。

──そもそも星野さんがアメリカのディーラーで働こうと思ったのはなぜでしょうか?

 1995年から地元、山梨のH-Dディーラーである「モーターサイクルショップいのうえ」で働きだして、1998年からは井上さんが別店舗として正規ディーラーの「ハーレーダビッドソン山梨」を出店したので、そのままそこでメカニックとして勤務していました。
 
 その頃、H-Dディーラーの若手メカニックの有志が集まった「チーム・スマイル」という活動があったんです。H-Dジャパンのメカニックスクールの講師だった内藤さんが中心になって海外のレースに出場したんですけど、2000年の「バハ2000ラリー」にスポーツスターで出場したり、2002年のボンネビルにV-RODで出場したり。2003年には愛媛の「ハーレーダビッドソン・ブルーパンサー」の重松(健)さんがアメリカのラスベガスでドラッグレースに出場する時にお手伝いさせて頂いたりしました。その時に「アメリカ」という国に直接触れたというか、空気を感じたことが渡米のキッカケですね。

──その中で何故『バーテルズ』に入ろうと思ったのでしょうか?

 もともと『レーサー系H-D』の世界観が好きだったんですよね。昔、雑誌で見たりしていましたので。「チーム・スマイル」での活動を通してアメリカのディーラーを見たんですけど、やはり設備とかも充実していますし、メカニックの数も多い。日本のハーレーディーラーで10年くらい務めていたんですけど、そんな環境を見ているうちに、やっぱり「本場」で腕を試してみたくなったんです。

──たとえばフレンチの料理人がフランス、イタリアンの料理人がイタリアに行って修行をするという感覚に近いものがあると?

 たしかにそれに近い感覚なんですけど、どちらかというと「修行に行く」という感覚ではなく、純粋に「アメリカでハーレーに関わる仕事がしたい」と思ったんです。バーテルズに入ったのは、スポーツスターカップとかで名が知られた店だったので。
 
 凄いディーラーなんだというイメージがあって……働くことになったきっかけはいわゆる「飛び込み」ですね。履歴書を作って、今までのチームスマイルのことや(重松)タケさんのドラッグレースを手伝った経験とかを書いて。

日本とは異なるH-Dディラーの仕組み

──最初から英語は喋れたんですか?

 喋れないですよ(笑)。アメリカに行ってから最初の3か月は英会話の学校に行きました。向こうは常にディーラーが人を募集しているので、色々なディーラーをまわって。その中でバーテルズには5、6回通いましたね。採用されるまで2か月くらいかかりました。面接では技術的な話を聞かれましたね。いわゆる3か月間は試用期間からスタートして。

2003年、ブルーパンサー重松健(たけし)選手のメカニックとしてラスベガスに帯同した際の1枚。この時以来、サンダンスの柴崎武彦氏とも交流を深めたとのこと

 最初のうちは日本と同じような給料制なんですけど、ある程度、スキルが認められると工賃の何パーセントかをメカニックが取ってという歩合制に変わるんです。ショップには見積を出すサービスライターという受付の人が3名いるんですけど、その人たちがメカニックに仕事を割り振りして。技術がある人だけがフラットレート(歩合制)になるんです。逆に仕事が出来ない人間がフラットレートでやるとツブれてしまう場合があるので。
 
 メカニック一人、一人に割り当てられる『ベイ(メカニックブース)』の中のバイクリフトもメカニックのスキルによって数も違いますし。お客さんの相手をするセールス担当がいて、仕事の見積もりを出す受付のサービスライターがいて、パーツ担当もお客さんを相手にする人とメカニックにつく人がいて……完全に分業制ですね。メカニックはお客さんと直接やりとりもしないですし、電話での応対もしませんね。作業に集中できる環境なんです。

──日本の感覚ではピンとこないんですけど、ある意味、完全に分業であり、ひとつのショップの中での独立採算制なんですね? 

 そうですね。やれる人間は稼げますし。お客さんからの指名みたいなこともあります。休みの時は朝の6時くらいからお客さんが並ぶこともありますので。お店は9時にオープンなのに。仕事の量は日本とはケタ違いだと思います。その中で効率の良い仕事をサービスライターから振ってもらうよう自分で交渉もしますし。主張しなければダメなんですね。
 
 フラットレート(歩合制)なので自分で考えて色々やらないとダメなんです。あとサービスライターも歩合制なので、仕事が遅いメカニックに作業を割り振りしても稼げないんですね。だから持ちつ持たれつというか。2時間分の工賃しか貰えないのに5時間作業に掛かってしまう難しい仕事ばかりだとダメなので、その点も自分で交渉しなければならないですし。
 
 作業の途中で必要なパーツが出てきた場合、とりあえずサービスライターにそのことを報告して、お客さんからOKが出たらパーツ担当が発注をかけて……その間に他のお客さんの作業に取り掛かってという感じで効率よく仕事を進めないとダメなんですね。冬場とかで仕事量がスローになると突然、クビになるというのもよくある話なので。アメリカは完全実力主義なんですけど、その方が自分の性分には合っていると思いますよ。

【了】

【画像】ハーレーの本場アメリカで活躍する星野充氏(5枚)

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Writer: 渡辺まこと(チョッパージャーナル編集長)

ハーレーや国産バイクなど、様々な車両をベースにアメリカン・テイストのカスタムを施した「CHOPPER」(チョッパー)をメインに扱う雑誌「CHOPPER Journal」(チョッパージャーナル)編集長。カスタム車に限らず、幅広いバイクに対して深い知識を持つベテラン編集者。

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