雪の無いゲレンデにひっそりと置かれたスノーモービルは寂しそうだった ~木下隆之の、またがっちゃいましたVol.35~

新雪巻き上げて急斜面を駆け上る姿は勇ましいスノーモビル。年末年始長野県に里帰りすると雪がなく、ゲレンデ管理事務所の傍にスノーモビルが哀しげに時間をもてあましていました。

雪の中を豪快に駆け抜けるスノーモービル、土の上は似合わない

 年末年始は義理の両親が住む長野県に里帰りすることにしている。縦にながい長野県の北部に位置する信越地方であり、ちょっと走れば新潟である。だから雪深い。

 年末年始に子供たちが集まるのは、両親にとってはたいそう嬉しいようで、日々歓待の嵐である。そのたびに僕は「お父さま、お元気そうでなによりです」などと歯の浮くような台詞を口にして、できのいい婿を演じるのである。

本来であれば雪の多い長野でスキー三昧の日々を送る予定が……

 たが、本当の目的は、リタイヤ生活を謳歌する両親の生存確認などではない。実家から30分も走ればごきげんなゲレンデが点在しているからだ。タダで泊まってタダ飯食って、「婿殿、婿殿」と歓待を受けて、昼間はスキー三昧を楽しむためなのである。

「亭主元気で留守がいい」は嫁がぼくに言う影口だが、「両親元気で宿がタダ」が僕の本心なのである。

 今年も年末年始は長野ですごした。だが、全世界的な暖冬に見舞われ、ゲレンデは雪不足にあえいでいる。「雪がない」と報道が騒ぐからスキーヤーも敬遠したようで、閑古鳥が鳴いていた。本来なら10本くらい貫いているスキーリフトはその多くが間引かれており、人工降雪機が深夜にフル稼働しても、メインのスロープに雪を積むのがせいぜいのよう。リフトのほとんどが休止状態なのである。

雪のないゲレンデ管理事務所の横にスノーモービルがひっそりと置かれていました

 何が寂しいって、ゲレンデ管理事務所の傍にたたずむスノーモビルが哀しげに時間をもてあましていた。スノーモビルというからには、スノーでなければ絵にならないのである。

 背中に十字のレスキューのダウンジャケットを着て、雪深いゲレンデを颯爽と走る姿はキマっている。新雪巻き上げて急斜面を駆け上る姿は勇ましい。

「レスキューは絶対にモテるよな~」って思わせるオーラ全開だ。そのはずなのに、今年ばかりは出番がなさそうである。

 フロントがソリであり、リアの無限軌道で駆動するスノーモビルは、ほとんどバイクである。だが不思議なことに、普通自動車の免許で操縦ができるというレア物だ。ヘルメットの着用義務もない。

 じつは、その醍醐味を味わいに行ったのに、雪がなければほとんど耕耘機である。雪上のバイクが寂しそうだった。なので本当に、ゲレンデに行くこともままならず、親孝行の婿殿を演じるハメになってしまった。
 
【了】

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Writer: 木下隆之

1960年5月5日生まれ。明治学院大学卒業後、出版社編集部勤務し独立。プロレーシングドライバーとして全日本選手権レースで優勝するなど国内外のトップカテゴリーで活躍。スーパー耐久レースでは5度のチャンピオン獲得。最多勝記録更新中。ニュルブルクリンク24時間レースでも優勝。自動車評論家としても活動。日本カーオブザイヤー選考委員。日本ボートオブザイヤー選考委員。

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