レースというフィールドでも活躍した ハーレーダビッドソンのマシンたち サイドバルブWR編

ゆったりとしたツアラーモデルをメインに展開するハーレー・ダビッドソンは、レースの世界で活躍していました。ここではその歴史を振り返ります。

創業まもない1910年代からレースに参戦しているハーレーダビッドソン

 まるで「馬」に跨っているかのような着座姿勢となるホースバック・ライディング・ポジションで真っすぐな一本道をのんびりと走るクルージング・マシン……おそらく多くの方は『ハーレーダビッドソン』というバイクに対して、多かれ少なかれ、こんなイメージをお持ちだと思いますが、しかし、その一方でアメリカを象徴するこのメーカーには『レース』というフィールドで活躍を続けている、もう一つの顔が存在します。

1940年に登場したWRの750ccサイドバルブエンジンはボア×ストロークで69.9×96.6mmで40psを発揮。フレームはクロモリ鋼を用いられた純然たるレーシングマシンとなっています

 1903年にアメリカはウィスコンシン州ミルウォーキーでビル・ハーレーが設計し、アーサー・ダビッドソンが鋳型を作り、ウォルター・ダビッドソンが組み立て、最後にウィリアム・A・ダビッドソンが加わり、モーターサイクルカンパニーとして産声を上げた『ハーレー・ダビッドソン』は、創業まもない1910年代からレースに参戦。

 当時、バンク(傾斜)のついた板張りのオーバル(楕円形)サーキットで競う”ボードトラックレース”には前後シリンダーに吸気・排気バルブをそれぞれ4つ備えた“8バルブレーサー”を参戦させ、そしてその後の1920年代には吸気がOHV、排気がサイドバルブとなる『オホッツバルブ』のレーサー、JHやJDHといった『2カム』車などで数々の栄冠を勝ち取ってきた過去を持ちます。
 
 そうした中、『レーシング・ハーレー』という存在を確立したモデルと呼べるのが『R』の称号が与えられたマシンたちなのですが、ここでは、その『サイドバルブ』時代のレーサーについて、過去の資料や東京八王子でカスタムショップ、「テイスト・コンセプトモーターサイクル」を営む河内山智氏から伺った意見を参考にし、それぞれをごく簡単ながら解説したいと思います。

サイドバルブモデルのレーシングバージョン「WR」

■WR、WR-TT(1940~1951年)
 1929年に登場したサイドバルブモデルDLと、その高圧縮型のDLD、1934年のRLとRLD、そして1937年にナックルヘッド(ハーレー初のOHVモデル)と同じオイル循環システムを採用したWLへと進化を果たした45キュービックインチ(750cc)サイドバルブ・モデルですが、そのレーシングバージョンといえるのが1940年に登場したWRです。

左からJohnny Butterfield、Billy Huber、Pate Channというハーレーワークスライダーの面々。写真は1947年のミルウォーキーマイルレースでのヒトコマです

 1937年にもWLをレーシングコンペティションにしたモデル、『WLDR』がリリースされていましたが、軽量なクロモリ鋼のフレームを採用したWRとは別物。シリンダーやポート形状、バルブ挟角や、それを押し上げるタペットの形状、カムの受けもローラーベアリングを備えるWRはルックスこそ似ているものの公道用のシビリアン(市販)モデルであるWLとは、まったく違う構造となっています。
 
 たとえば同じサイドバルブでもDLは18.5ps、WLが21.5ps、WLDRが29psだったのに対してWRは40ps。このパワーの違いを見るだけでも別のマシンであるということがお分かりになると思います。
 
 ちなみに基本が左回りの楕円(オーバル)コースながら、ジャンプする地点が1~2か所あり、右カーブが2つほど設定された「TTコース」用の『WR-TT』というモデルも存在するのですが、こちらのフレームはWLの標準フレームと同様の素材。これはジャンプがあるコースでクロモリ鋼の『WRフレーム』では強度が持たなかったゆえ、と河内山氏は推測します。

排気量のアドバンテージを活かし数多くの勝利を獲得

 また、この『WR』が現役最前線だった時代はAMA(アメリカン・モーターサイクリスト・アソシエーション/アメリカのレース団体)のレギュレーションもOHVエンジンを搭載する外国車(主に英国車)は排気量の上限が500ccだったのに対してサイドバルブは750cc。この排気量のアドバンテージも相まって、数多くの勝利を重ねたとのこと。残された文献によるとポール・ゴールドスミスやジミー・チャンなどのライダーが『WR』を乗りこなし、ジョー・ネオナードやエベレット・ブラッシャーなどの若手ライダーも、このマシンで多くのレースに参戦したそうです。

 前時代の8バルブレーサーやJH、JDHなどのマシンが『レッキッグクルー』と呼ばれた選ばれしライダーのみに供給されたことに対して、広く様々な乗り手が走らせ、『ハーレーレーシング』の礎を築いたモデルが『WR』といえそうです。

(参考文献:ハーレーダビッドソン80年史/グランプリ出版 デビッド・K・ライト著 高齋正 訳)

【了】

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Writer: 渡辺まこと(チョッパージャーナル編集長)

ハーレーや国産バイクなど、様々な車両をベースにアメリカン・テイストのカスタムを施した「CHOPPER」(チョッパー)をメインに扱う雑誌「CHOPPER Journal」(チョッパージャーナル)編集長。カスタム車に限らず、幅広いバイクに対して深い知識を持つベテラン編集者。

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