カワサキ「Ninja H2/H2R」動画チラ見せ伝説!? 当時のティーザー動画を考察してみた
2014年にティーザー動画で登場を仄めかしていたカワサキ「Ninja H2/H2R」は、スーパーチャージドエンジンを搭載するカワサキ独自の新開発バイクです。登場と同時にオーナーとなった小林ゆきさんが、当時の様子を振り返ります。
ティーザー動画も独特なカワサキの演出について行けない!?
2014年9月1日、カワサキ「Ninja H2」の伝説はここから始まりました……。
突如としてYouTube上に公開された、わずか38秒のティーザー動画。バイクのどの部分かもよくわからない、うっすらとしたシルエットしか見えないこの動画、タイトルに『Ninja H2: Vol.1 BUILT BEYOND BELIEF(信念を超えて造る)』とある通り、Vol.1からじわじわと発表されていきました。
発売から2020年で6年目となった「H2」シリーズ。あらためて、この一連のティーザー動画を深堀りしていきましょう(まずは初期の数本から)。
一連の動画は2014年9月1日から11月4日まで、全23本のシリーズで構成されています。
現在公開されているものを整理すると、Vol.17とVol.19が欠番になっていて、ナンバーが付いているものはVol.23までとなっています。その後、ナンバーが付いていない短い動画が2本追加されているので、欠番になっている動画を差し替えたのかもしれません。
年明けの2015年には「H2R」のまとめ動画とも言うべき1本も追加されました。各動画は短いもので31秒、長いものは4分7秒ですが、多くは1分程度の内容で、少しずつ全容を明らかにするとともに、「H2」「H2R」の背景や設計思想までもを伝えるものとなっています。
2本目のティーザー動画は、1本目から1日空いて2014年9月3日に公開されました。
『Ninja H2: Vol.2 Mysterious Sound』とある通り、カワサキが真っ先に伝えたいH2の一番の核心は「音」にあるのだとわかります。ただ、当時はまだH2が何のエンジンを使っているのか明らかにはなっていませんでした。
さて、動画を開始すると黒バックに浮かび上がるのは「Howling and Chirping」の文字です。「ハウリング」は何か大きな音だ、ということは何となくわかるのですが、「チャーピング」は聞き慣れない単語です。辞書で調べると、鳥の鳴き声とか光学用語の波長の一種とのこと。
そのまま動画を見ていると、バイクのエキゾーストノートがフェードインしてきます。よくあるビッグバイクの直4の音なのですが、12秒から何やら聴こえる「キュルっ」とか「ヒュヒュっ!」という聞き慣れない高音。
クラッチが滑っているのか? はたまた、V-TECのような可変式バルブの作動音なのか?
真っ暗な画面で「音」しか聞こえないわずか40秒の動画にも関わらず、センセーショナルに登場した1本目の動画からすでに世界中で話題となり、1本目の倍近い視聴回数になりました。
3本目の動画も、1日空けての2014年9月5日の公開でした。この頃バイク業界はH2の話題でもちきりとなっていて、私(小林ゆき)も毎晩、新しいティーザーが発表されないかどうかYouTubeのKawasakiのチャンネルをチェックするのが日課になりつつありました。
『Ninja H2: Vol.3 136 Years of Technological Prowess (136年の技術力を誇る)』と題した動画のオープニングには「Kawasaki’s dream, to become a technological leader, began. (川崎の夢は、技術的なリーダーになるために始まった)」とあり、1878年に創業した川崎正蔵の写真から紹介しています。
続いて株式会社川崎造船所の初代社長・松方幸次郎の写真。そして船、蒸気機関車、飛行機、四輪自動車、ヘリコプター、橋梁、ロボット、トンネル掘削機、ジェットスキー、オートバイなど、川崎重工業の多角的な製品を次々に写真で紹介しています。
いや、ちょっと待てよ。このティーザー動画は新製品のバイクの宣伝のために作っているはずなのに、なぜ飛行機が? なぜガスタービンが?
いまでこそ「H2」「H2R」は飛行機からガスタービンまでカワサキの全ての技術の粋を結集し実現したマシンなのだということがわかります。しかしティーザーが発表された当時、まだそれを理解する人は少なく、視聴回数も2本目の10分の1に激減。3本目のティーザーでそれをやるのは早かったのかもしれません。
動画の33秒あたりでは1984年発売の「GPz900R」がどーんと登場します。「Ninja」のペットネームが名付けられたマシンが登場するのですから、扱いが大きくなっても当たり前でしょう。それに比べて、「H2」と名付けているわりにH1の写真は小さめです。
初代ニンジャの写真のあとは、「ZX-10R」と思われるスーパースポーツマシンの走りのシーン。続いてATVとモトクロッサーの走り、船の進水式のシーン、LNG運搬船、飛行機、ガスタービン、産業用ロボット、新幹線、ジェットホイル……。サブリミナルのように、カワサキ製品全部盛りで紹介されていきます。
いや、だから、ニューモデルはどうした(苦笑)? と思っているうちに画面はまた真っ暗になり、「Based on 136 years of innovative thinking and cultivated technology… (136年の革新的な思考と培った技術を元に……)」の文言だけが表されました。
「ええ~!? これで終わり!? ニューモデルのチラ見せがまったくない!」
この頃はまだ何部作のティーザー動画かも判明しておらず、多いに焦らされたのです……(つづく)。
【了】
Writer: 小林ゆき(モーターサイクルジャーナリスト)
モーターサイクルジャーナリスト・ライダーとして、メディアへの出演や寄稿など精力的に活動中。バイクで日本一周、海外ツーリング経験も豊富。二輪専門誌「クラブマン」元編集部員。レースはライダーのほか、鈴鹿8耐ではチーム監督として参戦経験も。世界最古の公道バイクレース・マン島TTレースへは1996年から通い続けている。