フレームが大きく変化した2021年仕様のホンダRC213V ヤマハとスズキの良いとこ取りでタイトル奪還を狙う!
スペインのへレス・サーキットで実施されたWSBKのテストにMotoGPマシン、RC213Vを持ち込んだHRC。2020年型RC213Vから変更されたと思われるポイントを確認してみる。
幅広になり横剛性を落とした新型フレーム
HRC(ホンダ・レーシング)は、先日2日間にわたってスペインのへレス・サーキットで実施されたWSBK(スーパーバイク世界選手権)のテストにMotoGPマシン、RC213Vを持ち込んだ。
レギュラーライダーによるテストは3月上旬に2度予定されているオフィシャルテストまで禁止されているため、悪天候に見舞われる中、テストライダーのステファン・ブラドルが走行した。
RC213Vはフロントまわりを中心とするフレームの剛性が高く、旋回力を引き出しにくいといわれる。マルク・マルケスの不在もあり、2020年は1勝もできず、桒田(くわた)哲宏レース運営室長が自ら“完敗”と認めた1年だっただけに2021年仕様のマシンは大きな変更を施された。
2020年シーズン終盤にも翌年を見越したフレームを投入していたが、今回テストされたマシンで最も目を引いたのは、全体的に幅広となったフレームだ。特にスイングアーム・ピボット付近が縦に広くなっており、フレーム自体の肉厚も随分と薄くなったようだ。
昨季の最終戦ポルトガルGPでブラドルが走らせたマシンに見られた、剛性バランスを調整するためのカーボンプレートもメインチューブから取り去られており、既存のフレームと比べ、よじれるポイントが変化し、ライダーのフィーリングもかなり異なるだろうことが予測される。
幅広のフレームでエンジンを包み込むような車体構成からはヤマハのYZR-M1と共通するような設計コンセプトが感じられるが、おそらくフレームの横剛性を意図的に落とし、コーナリング中にしならせることで路面への追従性を高め、旋回力を上げると同時に限界領域でのマシンの挙動をつかみやすくすることで、しばしば“マルケス・スペシャル”と揶揄される、RC213V特有の乗りにくさ向上を狙ったと推測される。
また、よくしなるフレームはタイヤに優しく、レース・ディスタンスで速いペースを維持するのに有利だといわれている。その方向を追求したスズキのGSX-RRはレース後半に他のメーカーをしのぐ強さを見せ、2020年にダブルタイトルを獲得した。しかし、その一方でフレームに高い負荷をかけてプッシュした際にはしなり過ぎてタイムにつながらないこともあり、それがスズキ勢の予選での物足りなさにつながっているという見方もされている。
管長を伸ばし、加速性能と出力特性を向上
エキゾーストシステムの見た目も変わった。シートの下から飛び出している排気パイプはエンド形状が真っすぐになり、長さも10~15cmほど延長されている。同様にマシンの右サイドにあるVバンク前側から出るパイプも管長が伸ばされ、わずかだが、パイプ自体の径は細くなっているように見える。
ホンダのエンジンはドゥカティと並んでトップクラスのパワーを誇るが、これらの改良は、コーナー立ち上がりでの加速性能や出力特性を向上させるためのものなのかもしれない。新型コロナウイルスの感染拡大による経済的影響で2021年はエンジンの開発が凍結されるため、こういった細かな煮詰めが例年以上に大切となる。
さらに細かい部分になるが、2020年型では左側にあったタンクカバーのサイドレール上のカーボン製の配線カバーが右側へと移動された。これはマシンの重量バランスを突き詰め、さまざまなエレクトロニクスコンポーネントを再レイアウトしたことが理由だと考えられる。
いずれもカタールのロサイル・インターナショナル・サーキットで実施される、テストライダーとルーキーに参加が限定される3月5日のシェイクダウンテスト、レギュラーライダーも参加する3月6~7日及び3月10~12日のオフィシャルテストの結果で開幕戦カタールGPでの仕様が決まることになるが、それまでにさまざまな情報を入手し、想像を膨らませるのもモータースポーツファンならでは醍醐味だといえるだろう。
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Writer: 井出ナオト
ロードレース専門誌時代にMotoGP、鈴鹿8耐、全日本ロードレース選手権などを精力的に取材。エンターテインメント系フリーペーパーの編集等を経て、現在はフリーランスとして各種媒体に寄稿している。ハンドリングに感銘を受けたヤマハFZ750がバイクの評価基準で、現在はスズキGSX-R1000とベスパLX150を所有する。
Twitter:@naoto_ide