2輪系ライターの、仕事とお金 ~ベテランと中堅の狭間にいる伊丹孝裕の場合~ Vol.6

バイク専門誌の編集長を経て、フリーランスのライター(テストライダー)、ジャーナリストとして2輪メディア業界で活動する伊丹孝裕さんの、仕事とお金のリアルなお話です(全11話)。

Vol.6「日当について」2輪系ライター、伊丹孝裕さん(筆者)のおはなし

 日当。「ひあたり」と読むとほのぼのとしますが、ここでは「にっとう」。これがあるか、ないかでライターと編集部の関係は、ひえびえとしたものになるかもしれません。

連載コラム「2輪系ライターの、仕事とお金 ~ベテランと中堅の狭間にいる伊丹孝裕の場合~」

 試乗を行なった場合の原稿料は、紙媒体で10円/字前後、ウェブ媒体は記事1本で2万円から2万5000円が相場、という話を前回しました。ここに追加されるのが日当です。

 意味合いとしては「撮影と試乗で時間を拘束するのだから、肉体的な負担を金銭で補償しましょう」というもので、一般的な会社で言えば、出張手当や残業手当、休日出勤手当と同じです。

 ライターによってそこそこ開きがあるのが、この日当です。逆に原稿料に極端な差はなく、業界20年以上のベテランと、デビュー1年目の新人がほぼ同じというケースは珍しくありません。

 これは、ベストセラー作家と、初めて小説を上梓した若手の印税率が変わらないのと似ています。売れる作家なら、そのぶん多くの印税が得られるからいいでしょ? という理屈ですが、雑誌にその仕組みはなく、だったらせめて日当に差をつけてやらんでもない。そういう媒体側の配慮が日当のランクになって表れるのです。

 僕(筆者:伊丹孝裕)の場合、試乗日当の幅は2万円から4万円です。ただし、これは役割がライダーだった時に限ります。開発者のインタビューやショップ取材など、バイクに乗る技術を必要としない場合は金額が下がり、9000円から1万2000円前後で推移。原稿料そのものは、ライダーの時もライターの時も変わりません。

 ヘルメットを被った瞬間、たとえ撮影が15分で終わっても2万円。中には8時間までは2万円、8時間以上12時間未満で3万円、12時間を超えたら4万円と、拘束時間によって変動する媒体もあります。

 この場合、拘束時間の計算がどこからスタートするのか。編集部集合、編集部解散の場合は、集合時間を拘束の始まりとし、解散時間でそれが解かれたものとします。

 12時間超の撮影と聞くと、ややハードなイメージがあるかもしれませんが、案外そうでもありません。撮影場所までの移動、朝・昼・夕の食事、休憩といったすべてがその中に含まれていますから(高速代や燃料代、食事代といった経費は媒体が支払います)、実働時間は少ないこともしばしば。ライターとしては比較的効率がいい、そして大切な収入源と言えます。

 例えば朝6時に編集部に集合し、夜7時に解散。日中、3台のバイクに乗って、それぞれ3000文字の原稿を紙媒体向け書いた場合、収入は次の通りです。

 日当4万円+3000文字×10円×3台×消費税10%=14万3000円

 もっとも、これは最大値というか理想値に近い概算で、いつもこうではありません。日当は一律2万円というところもありますから、それを受け入れたり、交渉したりしながら仕事を選んでいます。

 冒頭、日当はライターによって開きがある、と書きました。日当が発生しないライターもいるからです。

これまで3度、アメリカ・コロラド州のパイクスピークで開催される『パイクスピーク・インターナショナル・ヒルクライム』に参戦した筆者(伊丹孝裕)。参戦3度目となる2016年はハスクバーナ「701スーパーモト」を駆り、決勝5位という結果に

 格差が生まれる要因は、多くの場合、スキルやキャリアでしょう。より正確には、ライターとしてではなく、ライダーとして一定の下地があるかどうか。つまり、人並み以上に上手く乗れるか、どうかってことです。

 バイクの走行シーンは身体能力の差が露骨に表れます。速いバイクならより速そうに、軽いバイクならより軽やかに見えることが大切で、作り手としては格好よく見せたいし、見られたい。

 そういう思いが編集者にもライターにもカメラマンにもあり、必然的にスキルのあるライダーに仕事が集中。そこにワンランク上の説得力を添えるのが、レース経験があるかないか。あれば、それがメジャーなレースかどうかというキャリアです。

 こういうスペックが高ければ高いほど信用につながり、日当が上乗せされたり、試乗会に呼ばれる確率が上がります。

 これ以外にも、撮影されるライダーは一種のモデルでもあるため、体格や体型がそのバイクにふさわしいかどうかも求められます。身長185cmのライダーならビッグアドベンチャーとの相性がいいでしょうし、体重100kgのライダーとイタリアンスーパースポーツはミスマッチです。高くも低くもなく、やせ過ぎでも太り過ぎでもない、ちょうどいいバランスだと誌面的に都合がよく、さらに声が掛かる機会が多いでしょう。

 僕が一定以上の日当と仕事量を得ているのは、国内外のレースに参戦してきたことと、身長174cm体重63kgの平均的な体格がなにかとちょうどいいからだと考えています。

 しかしながら、これはあくまでも紙媒体のケースで、ある意味、前時代的なものかもしれません。なぜなら、ウェブ媒体の多くは日当を設定していないからです。このあたりの事情は、次回にでも。

【了】

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Writer: 伊丹孝裕

二輪専門誌「クラブマン」編集長を務めた後にフリーランスとなり、二輪誌を中心に編集・ライター、マシンやパーツのインプレッションを伝えるライダーとして活躍。マン島TTやパイクスピーク・インターナショナル・ヒルクライムなど、世界各国のレースにも参戦するなど、精力的に活動を続けている。

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