【MotoGP】KTM・RC16が新採用の燃料で大幅パワーアップ! カタルニアGPで今季初優勝を飾った改良型マシンの秘密とは?

KTMのミゲール・オリベイラ(レッドブル・KTM・ファクトリー・レーシング)が、カタルニアGPで今シーズン初優勝を飾った。KTM陣営好調の要因とは、果たして何なのだろうか?

M・オリベイラがカタルニアGPで今季初優勝

 2021年のMotoGP・第6戦イタリアGPでは、KTMのファクトリー・チームに所属するミゲール・オリベイラ(レッドブル・KTM・ファクトリー・レーシング)が、陣営に今季初の2位表彰台をもたらした。翌週行われた第7戦カタルニアGPでもポルトガル出身の26歳は好調をキープ。4番グリッドからスタートし、昨年の最終戦ポルトガルGP以来となる自身2勝目を飾った。

第7戦カタルニアGPで優勝したミゲール・オリベイラ(レッドブル・KTM・ファクトリー・レーシング)

 序盤戦、ホンダと共に思ったような結果を残せずにいたKTM勢が、ここに来て調子を上げてきた要因とは、果たして何なのだろうか?

ETSレーシングの燃料がパワーアップに貢献

 今シーズン、ミシュランが持ち込んだタイヤは、昨季と同じくフロントに比べてリアのグリップが高く、前後重量配分が前寄りの直列4気筒エンジンを積むヤマハ、スズキに合っているとされ、相対的にバランスが後ろ寄りのV4マシンとのマッチングはあまり良くないと囁かれてきた。
 
 V4勢の中でもホンダとKTMはその影響を大きく受け、それが奮わない原因のひとつだと見られてきたが、MotoGPの覇権を狙うオーストリアのメーカーは、5月の第4戦スペインGP直後にヘレスで行われたオフィシャルテストで試した改良型のフレームをイタリアGPから投入。効果はすぐ発揮された。

ブラッド・ビンダー(レッドブル・KTM・ファクトリー・レーシング)

 フレームだけでなく、エンジンの搭載位置なども見直されたRC16を駆った、同じくファクトリー・ライダーのブラッド・ビンダー(レッドブル・KTM・ファクトリー・レーシング)は、イタリアGPのFP3でムジェロ・サーキットにおけるレコードとなるトップスピード362.4km/hを記録。これはデスモセディチGP21を走らせるヨハン・ザルコ(プラマック・レーシング・ドゥカティ)が、今年のカタールGP・FP4でマークした史上最高速度に匹敵する驚異的なスピードだ。

KTMのモータースポーツディレクター、ピット バイラー

 KTMのモータースポーツディレクター、ピット バイラーが“新世代”と呼ぶマシンは、コーナー脱出での安定感が飛躍的に向上し、それによってライダーがコーナー立ち上がりでアクセルを早めに開けられることからストレートスピードアップにつながったが、これまでのエルフに変えて新しく採用されたETSレーシング社製の燃料もパワーアップに著しく貢献した。KTMとETSレーシングは長年オフロードレースで協力関係にあり、MotoGPでの提携は理にかなったものといえるだろう。ちなみにスズキも2019年の途中に燃料をETSレーシングに切り替えている。

 新型コロナウイルスによる経済的な影響で、コンセッション(優遇措置)を受けるアプリリアを除くメーカーは、シーズン開幕後のエンジン開発が凍結されているため、新しい燃料に合わせて点火時期を変更し、電子制御を煮詰めることでパワーアップを実現した。

アレイシ・エスパルガロ(アプリリア・レーシング・チーム・グレシーニ)

 KTMの出力向上を目の当たりにしたアレイシ・エスパルガロ(アプリリア・レーシング・チーム・グレシーニ)は「ドゥカティとKTMは最高のエンジンを持っていて、まるで(直線での速さを競い合う)ドラッグレースのマシンのようだよ!」とカタルニアGP後にコメントしている。

 剛性バランスが変更された改良型フレームは、コーナー進入からスムーズにコーナリングスピードを維持することでフロントタイヤへの負担を減らすことにも成功した。

 ふたりのライダーとも好感触のようで、オリベイラは「新しいフレームはコーナー出口での安定感が増したことに加え、タイヤにも優しいんだ。だから落ち着いて周回を重ねられ、良いパフォーマンスを見せることができるんだ」、ビンダーは「改良型バイクは自然にコーナリングできる。自然に曲がるようになるとタイヤの端を長く使わなくて済むからタイヤマネジメントの面にも良い影響を与えるんだ」とそれぞれ印象を語っている。

扱いが難しいミシュランの左右非対称タイヤ

 KTMのマシンにとって、特にフロントエンドで柔らか過ぎたミシュラン・タイヤの構造が変わったことも味方をし、シーズン序盤はハード・コンパウンドですらしっかりとしたフィーリングが得られなかった非対称タイヤを上手く使えるようにもなってきている。

「MotoGPではタイヤのアロケーション(配分)が重要なポイントなので、それに対応するテクニカルな方法を見つけることが我々の仕事なんですよ」と話すKTMのテクニカルディレクター、セバスチャン・リッセは、オリベイラが左右非対称タイヤのグリップを最大限引き出していたことに目を見張る。

KTMのテクニカルディレクター、セバスチャン・リッセ

「非対称のフロントタイヤで厄介なのは、コンパウンドの切り替えです。ライダーが特性を理解し、対処法を身につけていなければ、遅くなるか、あるいはクラッシュしてしまうかのどちらかでしょう」

 少なくともイタリアGP、カタルニアのGPでは、2名のファクトリー・ライダーはタイヤを十分に機能させてコーナリングスピードで直列4気筒勢に迫り、ピークパワーと直進性、ブレーキング性能に優れるV4エンジンの利点を生かしていた。

3Dプリンターで製作可能なスチールフレーム

 同じV4エンジンということで、RC16はRC213Vとの類似性をしばしば指摘される。リッセも「私たちがMotoGPプロジェクトをスタートさせた当時、ホンダはグリッド上で最強のV4を持つ存在でした。MotoGPでは馬力が必要なので、我々もV4エンジンを選びました」と意識していることを認めるが、スチール製のトレリスフレームを採用しているのことが全く異なっている。

 オリベイラのクルーチーフ、ポール・トレバサンは、スチール素材の特性について説明する。

「スチール製のフレームを使うことは、3Dプリンターを活用している現在では非常に有効です。以前は正しい厚みのチューブをまず調達しなければなりませんでしたが、今では好きなようにプリントできるので、さらに良い状況になっています。RC16のフレームに使用されるチューブは、一見単純そうに見えますが、肉厚は何通りにもなっていて、必要な部分には、ねじれるポイントが作られているんですよ」

 また、スチール製のフレームは、溶接後に熱処理が必要なアルミ製のフレームに比べ、短い時間で製作できるため、KTMはどのメーカーよりも素早く問題に対応することが可能だ。

2019年からKTMのテストライダーを務めるダニ・ペドロサ

 昨年、躍進した際にも盛んにいわれていたが、長らくホンダでMotoGPクラスを走り、V4マシンを知り尽くすダニ・ペドロサが、引退した翌年の2019年からテストライダーを務めている点も見逃せない。

 当初はエンジンの激しい振動に閉口し、「評価できない」とコメントしたとされるが、メインフレームの断面形状を真円からオーバルに変更するなどの対策が施され、以前の“野獣のようなバイク”とは別物になっている。

 その恩恵にあずかっているオリベイラも「ダニは素晴らしい仕事をしています。週末のフィードバックは全て彼らに届き、彼とテストチーム全体が僕たちの指摘に注意を払ってくれます」と称賛。レースの翌日に実施されたオフィシャルテストのためにカタルニア入りしていたペドロサもKTMのピットでゼッケン“88”の優勝を喜んだ。

 ドイツGP、オランダGPを挟んで、8月には昨シーズン、オリベイラがキャリア初優勝を果たしたKTMのホームサーキット、レッドブルリンクでの2連戦が控えており、今後もKTM勢の活躍からは目が離せなくなりそうだ。

【了】

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Writer: 井出 直人

ロードレース専門誌時代にMotoGP、鈴鹿8耐、全日本ロードレース選手権などを精力的に取材。エンターテインメント系フリーペーパーの編集等を経て、現在はフリーランスとして各種媒体に寄稿している。ハンドリングに感銘を受けたヤマハFZ750がバイクの評価基準で、現在はスズキGSX-R1000とベスパLX150を所有する。
Twitter:@naoto_ide

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