じつはカワサキが最初!? 現行バイクのほとんどが燃料供給に「フューエルインジェクション」を採用するようになったのはナゼ?
エンジンがパワーを生み出す元となるのが、空気とガソリンを混ぜた「混合ガス」で、いまどきバイクのほとんどが「フューエルインジェクション」で混合ガスを作っています。それを市販バイクで最初に採用したのは、じつはカワサキでした。
「バイクのFI化」は意外と遅かった?
バイクのエンジン(内燃機関)の燃料はガソリンですが、燃焼・爆発してパワーを生み出すには、空気とガソリンを最適な割合で混ぜた「混合ガス」が必要になります。内燃機関のバイクの登場以来100年程の長きにわたり、混合ガスを作るのは「キャブレター」の役目でした。
キャブレターは、基本的に物理現象のみで稼働する非常に効率の良い装置ですが、よりパワーを求めたり、排出ガスや燃料消費量などの環境性能を高めるうえで、より緻密に混合ガスを作る(燃料供給する)必要が出てきました。
そこで登場したのが「フューエルインジェクション(Fuel Injection)」です。頭文字を取って「FI(エフアイ)」と呼ぶこともあります。

キャブレターが圧力を利用してガソリンを吸い上げて霧状にして空気に混ぜていたのに対し、フューエルインジェクションは燃料ポンプで加圧したガソリンを、インジェクターで噴射して空気と混ぜるのが大きな違いです。
大元はディーゼルエンジンの燃料噴射装置から発展し、第2次世界大戦のドイツの戦闘機が採用したことでフューエルインジェクションの優位性が確認されました。
当時は機械的に制御していましたが、後に電子的(初期のマイコン)なECU(エンジンコントロールユニット)でガソリンの噴射量をコントロールするようになりました。
現在はすべて電子制御なので、正式には「電子制御式燃料噴射装置」となりますが、省略してFIと呼ぶのが一般的とも言えます。
クルマにおいては、日本国内でも1970年頃からFI化が始まりましたが、バイクにおいては世界的に見てもクルマより遅れていました。
カワサキが世界初のFIバイクを発売
1980年、世界で初めてフューエルインジェクション装備のバイクが登場します。カワサキが発売した「Z1000H FUEL INJECTION」です。
このバイクは名車「Z1」こと「900Super4」を祖とし、角型のスタイルで人気を博した「Z1000Mk-II」をベースに、当時の四輪車用に開発されたボッシュ社のLジェトロニックを転用した「K-EFI(カワサキ-エレクトリック・フューエル・インジェクション)」を装備しました。
このシステムは吸入した空気量を基本データに燃料噴射量を決めており、現行バイクのFIで主流のスロットルの回度とエンジン回転数を基本データにする方式とは異なりますが、燃料噴射という仕組み自体は同じです。

そしてカワサキは、1981年にはZ系のエンジンをリファインかつ排気量を拡大した「Z1100GP」[B1型]にもK-EFIを装備しますが、翌年1982年の「Z1100GP」[B2型]では新開発した「DFI(デジタル・フューエル・インジェクション)」に変更されました。
ここまではすべて輸出モデルですが、1982年には国内初のフューエルインジェクションモデルである「Z750GP」を発売します。当時のカタログではDFIシステムを詳細に解説し、先進性と性能の高さを謳っていました。
ところが……発売されてからの評判はいまひとつでした。性能面ではスムーズさやレスポンスの良さに定評がありましたが、当時のトラックなどが使っていた高出力な違法無線機などの電波に反応して誤動作を起こし、突然エンジンが止まるなどの症状が出たからでした。すぐに対策(コントロールユニットのシールドなど)が取られたようですが、口コミでの悪い噂がぬぐえなかったと思われます。
また翌1983年には、カウリングを装備した流麗なスタイルと、リアモノショックなど足まわりを強化した「GPz750」が発売されたため、「Z750GP」は非常に短命でした。しかも新型の「GPz750」はDFIからキャブレター仕様に戻ったにも関わらず、エンジンのリファインによって最高出力が2馬力アップしました。これもDFIの魅力が伝わらなかった一因かもしれません。
というワケで、フューエルインジェクションにいち早く取り組み注力していたカワサキですが、輸出モデルでは「750Turbo」や「Z1300G」などに採用したものの、それ以降は1999年までフューエルインジェクションは採用しませんでした(国内モデルでは1999年の「バルカン1500ドリフター」に採用)。
FI登場するも、いまひとつマイナー……
「Z750GP」にわずかに遅れますが、ヤマハも1982年8月に発売した「XJ750D」にフューエルインジェクションを採用しました。大型のフルカウルやマイコン制御のデジタルメーターなど先進性を強調したモデルにとって、フューエルインジェクションも欠かせない装備だったのかもしれません。

しかしヤマハもコレ1台で、その後は「GTS1000A」(1993年)や「OW-02」こと「YZF-R7」(1999年)など、エポックモデルやレースのホモロゲーションモデルでフューエルインジェクションを採用しましたが、いずれも輸出モデルでした。
ホンダも1980年頃に精力的にバイク用フューエルインジェクションを研究・開発しており、1981年の市販量産車世界初のターボバイク「CX500 TURBO」はフューエルインジェクション仕様でした。
そして1992年発売の「NR」や1994年の「RC45」こと「RVF750」もFIでしたが、いずれも輸出モデルや激プレミアム車、レース用ホモロゲーションモデルと、あまり一般的ではありませんでした。
スズキが1982年に発売したターボ車「XN85」も、フューエルインジェクションでした。ちなみにホンダ、スズキ、カワサキのターボ車はFI仕様で、ヤマハのターボ車「XJ650 turbo」(1982年発売)のみがキャブレター仕様でした。
ターボは吸気を「押し込む」構造ゆえに、「吸い込む」のが基本構造のキャブレターよりも、噴射するFIの方が制御しやすかったからだと思われます。
ともあれ、スズキもその後にフューエルインジェクションを装備したのは、1997年発売の「TL1000S」になります。
このように、1980年代初頭にフューエルインジェクションが登場したにもかかわらず、バイクは1990年代終盤まではキャブレターが主流でした。
フューエルインジェクションは燃料ポンプやインジェクターを稼働するため、電気や電子制御を必要とし、センサー類も必要なため、装備が複雑化して重量が増えたり(最初期のカワサキ「Z1000H」はベース車に対して約10kg増)、当然ながら製造コストも上昇するため、プレミアムなモデルにしか採用できなかったのだと思われます。
対するキャブレターは、基本的に電気や電子制御を必要とせず、当時としては性能的にもフューエルインジェクションとそれほど大きな差が無かったので使われ続けたのではないでしょうか。
排ガス規制に対応するため、ほとんどのバイクがFI仕様に
そんな「登場したのにマイナーなフューエルインジェクション vs 使われ続けるキャブレター」の図式を変えたのが、「排出ガス規制」です。
国内では1998年から始まり、施行ごとに厳しさを増しましたが、とくに2006年の平成18年排出ガス規制は、キャブレターでは規制をクリアするのが困難になりました。
そのため2000年頃からキャブレター車は減少し、混合ガスを緻密な制御で作り排出ガスの有害物質を減らせるフューエルインジェクションに切り替わっていったのです。
スポーツ車はもちろんですが、当時人気のあったビッグスクーターなども例外でなく、スズキは2002年型の「スカイウェイブ250」で、クラス初のフューエルインジェクションを採用しました。この頃から原付1種、原付2種のスクーターやビジネス車もFI化していきました。

他にも、たとえばヤマハはロングセラーの人気車である「SR400」を、2009年にフューエルインジェクション化しています。
カワサキは2009年に、ビッグネイキッド「ZRX1200R」(キャブレター仕様)をFI仕様の「ZRX1200DAEG」にモデルチェンジしました。
このように、国内のバイクはおおむね2000年~2010年頃にはキャブレター仕様からフューエルインジェクション仕様に切り替わり、現在では公道用の市販モデルはすべてFI仕様になりました。
昔ながらの「機械いじり」が好きな層にとっては、キャブレター車の消滅は少々残念かもしれませんが、環境性能向上に必須のフューエルインジェクションを、日本メーカーがいち早く手掛けていた事実は、少し誇らしい気もします。
Writer: 伊藤康司
二輪専門誌『ライダースクラブ』に在籍した後(~2005年)、フリーランスの二輪ライターとして活動中。メカニズムに長け、旧車から最新テクノロジー、国内外を問わず広い守備範囲でバイクを探求。機械好きが高じてメンテナンスやカスタム、レストアにいそしみ、イベントレース等のメカニックも担当する。




















