世界最高峰の電動バイクレース『MotoE』第5戦 全5周の超スプリントレースで大久保光選手が自己ベストの5位フィニッシュ

電動バイクによるチャンピオンシップ『FIMエネルMotoEワールドカップ』の第5戦オーストリアの決勝レースが2021年8月15日にレッドブルリンクで行なわれました。MotoEに参戦する唯一の日本人ライダー、大久保光選手は自己ベストリザルトの5位を獲得しています。

勝負は7周から5周へ、ただでさえ短いレースで先を走る難しさ

 電動バイクの世界選手権『MotoE(モト・イー)』第5戦は、MotoGP第11戦オーストリアGPに併催で行なわれました。レッドブルリンクは加速区間が長いレイアウトのサーキットです。MotoEのタイムは単気筒250ccバイクで争われるMoto3クラスと比較し、全サーキットで約1.5秒から3秒落ち(2021年の最速タイムでの比較)ですが、レッドブルリンクでは唯一、Moto3クラスの最速タイムを上回っています。一方でアップダウンが激しいため、下り区間のハードブレーキングポイントでは、車重262kgのMotoEマシンを減速させる、より繊細な操作が必要になります。

MotoEに参戦する唯一の日本人ライダー、大久保光選手(#78)

 MotoEの前に行なわれたMotoGPクラスの決勝レースでは、レース終盤に雨が降り、路面はウエットコンディション。MotoEの決勝レースのスタート前には路面は回復していたということですが、こうした状況により、当初全7周の予定だった周回数は全5周となりました。

 スタートで飛び出したのは、2番グリッドスタートのルーカス・トゥロビッチ選手でした。大久保選手は2列目4番グリッドからスタートすると3番手に浮上し、1コーナーのブレーキングで2番手に浮上します。しかし、9コーナーでややラインを外してはらみ、1周目を3番手で終えました。大久保選手は2周目にさらに後退し、7番手までポジションを落とします。

 一方、トップのトゥロビッチ選手は1周目から後方を引き離し、独走体勢を築いていました。2番手との差は、2周目を終えて1.5秒以上。全5周の超スプリントレースのため、このタイム差は大きなアドバンテージとなります。そんなトゥロビッチ選手の後方では、激しい2番手争いが展開されていました。

大久保選手は1周目、2番手を走行したが9コーナーでミス。ポジションを落とした

 残り3周に入ると、13番グリッドから追い上げていたエリック・グラナド選手が4番手に浮上し、2番手争いに加わります。最終ラップでは3人のライダーが2番手、そして表彰台を争い、コーナーごとにポジションを入れ替える熾烈なオーバーテイク合戦が繰り広げられました。

 トゥロビッチ選手は全5周のレースでトップを守り切り、ポール・トゥ・ウインで優勝。そして大激戦の2位争いを制したのはグラナド選手、13番グリッドから猛烈な追い上げを見せ、表彰台を獲得しています。3位はスーパースポーツ世界選手権(WSS)にも参戦する、ドミニケ・エガーター選手でした。

 大久保選手は2周目以降にポジションを回復していき、自己ベストリザルトの5位でフィニッシュを果たしています。

 レース後の会見では、2位のグラナド選手のクルーチーフが新型コロナウイルス感染症で陽性となり、いつもとは異なる状況のレースウイークだったことを明かしました。

「今週はクルーチーフがコロナで陽性になってしまい、ここにいなかった。だから、二人のメカニックがバイクを仕上げてくれたんだ」

グラナド選手(#51)、エガーター選手(#77)、フェルミン・アルデグエル選手(#54)の3人によって激しい2番手争いが展開された

 また、11ポジションを上げたグラナド選手に、直線区間の長いレッドブルリンクでのオーバーテイクにはどのくらいスリップストリーム(前のライダーの背後を走ることで速度を上げるテクニック)が効果的だったのかと聞くと、グラナド選手は最終ラップでの激しいバトルについてこう説明しました。

「最終ラップは、唯一スリップを使わないでオーバーテイクしたんだ。(2番手を争っていた)フェルミン(・アルデグエル)とドミ(ドミニケ・エガーター)がサイド・バイ・サイド(横並び)だった。そういうときは後ろの気流に乱れがあるから、前に進まない。

 彼らの肘が当たったのを見て、僕は反対側からいこうと思った。最終コーナーでは3コーナーでドミが限界すれすれで僕を交わした。4コーナー前で、また僕たちはサイド・バイ・サイドになった。そして、4コーナーで(エガーター選手を)オーバーテイクできたんだ」

 次戦はMotoGP第14戦サンマリノGPに併催で行なわれる第6戦。2レース開催となり、これが今季のMotoE最終戦となります。チャンピオンシップは大詰めです。ランキングトップのライダーとランキング2番手のライダーであるグラナド選手は7ポイント差。今大会で3位のエガーター選手は11ポイント差のランキング4番手です。2レースで優勝すれば合計50ポイントを獲得でき、チャンピオンシップのランキングを大きく変動させることも可能になります。

予選では自己ベストグリッドの4番手を獲得した大久保選手

 MotoEは、MotoGP.comの有料ビデオパスを購入することで、予選、決勝レースが視聴可能となっています。2021年シーズンのMotoE最後のレース、チャンピオン決定戦に注目です。

■MotoEとは……

 MotoEは、2019年にスタートした電動バイクによるチャンピオンシップです。MotoGPのヨーロッパ開催グランプリのうち数戦に併催されており、2021年シーズンは開幕戦スペインを含む6戦7レース(最終戦は2レース開催)が予定されています。すべてのMotoEライダーが走らせるマシンはイタリアの電動バイクメーカー『Energica Motor Company(エネルジカ・モーターカンパニー)』の電動レーサー『Ego Corsa(エゴ・コルサ)』。タイヤはミシュランです。2021年のMotoEには11チーム18名のライダーが参戦しており、16歳の若手ライダーから元MotoGPライダーまで、様々な経歴を持つライダーが参戦。日本人初のMotoEライダーとなる大久保光選手がエントリーしていることでも注目を集めています。

【了】

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Writer: 伊藤英里

モータースポーツジャーナリスト、ライター。主に二輪関連記事やレース記事を雑誌やウエブ媒体に寄稿している。小柄・ビギナーライダーに寄り添った二輪インプレッション記事を手掛けるほか、MotoGP、電動バイクレースMotoE取材に足を運ぶ。

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