ヤマハ日髙祥博社長 バイクの未来を語る キーワードは「支持」と「規制」 道は電動化だけじゃない
バイクは環境性能に優れていると言われます。それでもカーボンニュートラル対応という難しい課題を乗り越えなければ、バイクの将来は先細りです。一気に電動化にシフトが進むのか。それとも第三の道があるのか……。時代の転換点を予感させる2023年を、業界を牽引する日本自動車工業会(jama)・日髙副会長(ヤマハ発動機社長)が語ります。
最高出力区分、合意形成が必要
バイクは環境性能に優れていると言われます。それでもカーボンニュートラル対応という難しい課題を乗り越えなければ、バイクの将来は先細りです。いまも排気量50ccのバイクは瀬戸際に立っており、ファンバイク領域でも、いくつかの電動化計画がコミットされています。バイクはどんな進化を遂げるのか。一気に電動化にシフトが進むのか。それとも第三の道があるのか……。時代の転換点を予感させる2023年を、業界を牽引する日本自動車工業会(jama)・日髙副会長(ヤマハ発動機社長)が語ります。

「もちろん我々としても、電動化に取り組んでいきます」
2023年1月5日、ヤマハ発動機・日髙祥博社長は、都内ホテルで行なわれた自動車5団体の賀詞交歓会で、電動化への意気込みを見せました。日本自動車工業会副会長、二輪車委員会委員長を務める日髙氏は、カーボンニュートラル対応という難局で長年、業界対応を牽引してきました。
2023年、最初に訪れる難関は、原付バイクの「排気量」から「最高出力」への車種区分変更です。今年の早い段階で官民で合意できなければ、排出ガス規制強化が始まる2025年に間に合いません。最悪、ガソリン原付バイクの生産ができない状況に陥るのです。日髙氏は言います。
「今日も関係省庁に話をしてきました。何が許容できて、何を譲れないのか。最高出力への区分変更はそこが問題で、それを超えることができればね」

バイクには排気量とは別に0.6kW以下という「定格出力」による基準がありますが、最高出力は定格とは別モノ。「原付とは何か」という「物差し」を根本から変える前例のないチャレンジですから、例えば現状の125ccバイクの最高出力を落として原付とするのは適当か、原付の最高出力をどこで線引きするかさえ、簡単には決まりません。
バイクにバイオ燃料の可能性
バイクにも押し寄せるカーボンニュートラルの波を乗り越えることも大きな課題です。日髙氏がポイントに上げるのは、ユーザーの「支持」と「規制」です。

「電動バイクはできます。しかし、これを市場投入し、ガソリンバイクと競合しても、お客様に支持されないと広がらない。これを一気に変える可能性があるとすれば“規制”です。すでに、そうしている国もあるわけですからできなくはない」
しかし、それが日本のユーザーが望むことなのか。それが前述の125ccバイクを「最高出力区分」で原付バイクとする提言です。エンジンの最高出力を下げることで排気量125ccのエンジンを積んでいても原付免許での運転を可能にする。生活の足を守りながら、新たな技術革新を模索する。バイクの進化は四輪車にくらべて緩やかですが、それでも動き続けています。
「カーボンニュートラルは、世界を通じて合理的、現実的にいろいろな手段で実現しなければならない。電動化もひとつの方法ですが、電力供給の安定しない地域では、それよりもっといい方法があるかもしれない」
日髙氏が例示するのは、植物から精製するバイオエタノール燃料です。化石燃料にエタノールを混合、その割合によりE10(10%)、E20(20%)と呼ばれ、2024年にはMotoGPでも最低40%を非化石由来にすることを決めています。
「化石燃料を輸入に頼る地域では、バイオエタノール燃料を使えるようにすることで、電力供給の心配がいならいだけでなく、化石燃料の輸入量を削減することもできる。すでにブラジルでは実用化されているし、インドやインドネシアなどでは、この方法は向いていると思う」
ただ、現状ではバイオ燃料も電動も、ガソリン車の経済性には及びません。日髙氏は話します。
「いずれね。化石燃料の価格は上昇し、バイオ燃料の価格は下がって、ちょうどいいところで、必ずシフトが始まっていきます」

バイクは市場規模も車体の積載性も四輪車とは比較になりません。カーボンニュートラル対応は困難を極めます。
そんな中で国内4メーカーは、バッテリー交換方式による電動バイク構想で合意。自工会が調整役となり実証実験を重ね、2022年は実証事業へと踏み出しました。カーボンニュートラルの実現は、競争と協調を織り交ぜた挑戦です。
日髙氏をはじめとする「調整役」の手腕が、今後も欠かせません。
Writer: 中島みなみ
1963年生まれ。愛知県出身。新聞、週刊誌、総合月刊誌記者を経て独立。行政からみた規制や交通問題を中心に執筆。著書に『実録 衝撃DVD!交通事故の瞬間―生死をわける“一瞬”』など。