4輪のサーキットレースは、ピレリがほぼ独占状態に? ~木下隆之の、またがっちゃいましたVol.204~

レーシングドライバーの木下隆之さん(筆者)は、ピレリタイヤがレースの世界で主要カテゴリーを独占していると言います。どういうことなのでしょうか?

ワンメイク化の、メリットとデメリット

 4輪のサーキットレースでは、ワンメイクタイヤ化が進んでいます。F1は「PIRELLI(ピレリ)」タイヤに限定されています。古くはグッドイヤーの時代が続きましたが、いまでは独占的にイタリアのピレリ社の使用が認められています。近い将来には日本のブリヂストンがワンメイクタイヤとして認定されると噂されています。日本人としては、日本のタイヤメーカーの活躍を期待したいところですね。

ピレリの新タイヤ「DIABLO SUPERCORSA V4 SC」
ピレリの新タイヤ「DIABLO SUPERCORSA V4 SC」

 F1に次ぐカテゴリーであるF2もピレリのワンメイクですし、さらに下位カテゴリーのF3もピレリに限定されています。

 その流れはツーリングカーにも波及しており、スーパーカーレースとも言えるファナテックGTワールドシリーズもビレリが独占しています。その意味では、世界の主要カテゴリーは、ピレリが支配しているように思えます。

 ただし、誤解を恐れずに言うならば、性能が優れているからピレリのワンメイク化が進んでいるとは限らないのです。程よく性能低下します。これがレースを混乱させます。つまり、レースがヒートアップするのです。

 例えばF1では、レースごとに「ソフト」、「ミディアム」、「ハード」の3種類のタイヤがチームに供給されます。その中の2種類をレース中に使用しなければなりません。

 F1は走行距離300kmに設定されており、耐摩耗性の観点からスタートから無交換で走り切ることができません。途中でピットインし、新品タイヤに交換してレースを続行することになります。

 その際に、仮にソフトでスタートしたのであれば、途中でミディアムかハードを履かなけレばならないと規定されています。あるいはハード、ソフト、ソフトと2回のタイヤに交換しなければなりません。それをどう組み合わせるかは、チームそれぞれの戦略なのです。

 興味深いのは、チームにデリバリーされた3種類のタイヤは、性格が全く違うことです。例外もあるのですが、ソフトは速いけれど10周程度で性能低下します。かと言ってハードの耐久性が優れているかといえば、逆にすぐにグリップダウンしてしまうこともあります。

 ドライバーにとっては厄介な特性でしょうが、観客からすれば興奮を誘います。レース展開が混乱することで、勝敗の行方が定まらない。

 ピレリを擁護するならば、定まらない特性は技術力が低いのではなく、ワンメイク規定であることで、あえて仕掛けているとも噂されています。タイヤ戦争があるのであれば、それぞれのタイヤメーカーは理想的なタイヤを持ち込むことになります。10周でグリップダウンするタイヤなど、開発するはずがありません。

 ですが、ワンメイクであることはつまり、イコールコンディションであるわけで、仮に性能が不安定でも許されるわけです。それが4輪レースでバトルを生むのであれば、歓迎できるというわけです。

 4輪のレーシングマシンは、当然ながらバイクより大柄です。コーナーごとの抜きつ抜かれつの順位変動が、バイクより少なくなります。それは、4輪レースが興行として観客を興奮させるための致命傷でもあります。

 ですが、タイヤの不安定な特性によって、レースが白熱していることも確かなのです。

 MotoGPはミシュランのワンメイクです。微細にレベルでは性能変化はあるのでしょうが、10周でズルズルになってタイヤ交換を余儀なくされるということはないようです。それでも、レースごとに激しいバトルを繰り広げています。

 ある意味で、F1のピレリワンメイク化は、MotoGPへの憧れなのかもしれません。

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Writer: 木下隆之

1960年5月5日生まれ。明治学院大学卒業後、出版社編集部勤務し独立。プロレーシングドライバーとして全日本選手権レースで優勝するなど国内外のトップカテゴリーで活躍。スーパー耐久レースでは5度のチャンピオン獲得。最多勝記録更新中。ニュルブルクリンク24時間レースでも優勝。自動車評論家としても活動。日本カーオブザイヤー選考委員。日本ボートオブザイヤー選考委員。

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