発進から停止まですべてバイクがやってくれる? BOSCHの最新電子制御をKTMのプロトタイプマシンで体感
高速域からの停止、ゼロ発進から加速までをすべてバイクが制御!?
ACC S&Gは、これをさらに進化させ、一時停止(STOP)とそこからの発進(STOP)もサポート。トランスミッションのAT(オートマチック)機構を組み込んだKTMのプロトタイプ車で、その機能を試させてもらいました。
まずはテストコースの高速周回路で、ACCを起動します。KTMは、すでにこれを1290スーパーアドベンチャーで実装しているため、車間の取り方や、その時の振る舞いに違和感はありません。加減速時のレスポンスは、BMWやヤマハとは異なるKTMならではのもの。メリハリが強く、なにかにつけてスポーティさ優先するメーカーのキャラクターが反映されています。

さて、本題はここから。100km/h前後で先行車を追従していた高速周回路から外れ、低速走行のスペースに入っていきます。車速が60km/h、30km/hとぐんぐん低下する中でも、先行車とは一定の距離を維持。そのままさらに減速し、先行車が止まると、自車であるKTMも近づきすぎることなく、ゆっくり停車。ATゆえ、その時はギヤも自動的に一速までダウンしています。
では、そこからの発進はどうなるか。先行車の動き出しをシステムが検知しても、勝手に自車が発進することはありません。スイッチボックスに備えられたボタンを押す、もしくはスロットルを軽くあおると、ライダーに発進の意志があると判断。先行車の追従を再開するという仕組みです。

ACCは、あくまでも高速域の運転支援だったわけですが、このACC S&Gによって、低速域どころか0km/hまで制御が拡大。ここに至るまでわずか数年のことですから、技術の進歩スピードに驚かされます。
もっとも、車両もプロトタイプなら、システム自体もまだ開発段階ゆえ、さらに精度を高める必要はあります。ライダーがブレーキを握らなくても、車速0まで誘導してくれるとはいえ、その停止フィーリングは均一ではなく、状況によって変化。
停止時のピッチングを抑制し、「カックン」とならないよう、最後の最後にタイヤが微妙に転がって、減速Gをいなそうとするのですが、その転がり量がタイヤ1/4回転くらいだったり、1/8回転くらいだったりとまちまち。乗り手の意識と制御にズレがあると、「おっとっと」というふらつきにつながる場面がありました。
また、このズレは発進時も同様で、先行車の加速に追従して、自車の速度も上がるつもりでいると、どういうアルゴリズムなのか、想定以上に車速が制限されることがあり、このあたりの不均一感が気になるところ。もちろん、システムに任せっ放しの自動運転を目指したものではなく、あくまでも支援というスタンスながら、現実の道路環境を踏まえて、もう少し作り込む余地があります。
ほとんど違和感を感じさせないRDA(ライディング ディスタンス アシスト)
このACC S&Gの一方、ほとんど違和感のないシステムがRDAでした。これはACCをより簡略化した制御、もしくは自由度を増した制御で、「自車の速度維持」と「先行車との距離確保」を管理するACCの制御から「自車の速度維持」の機能を省略。高速道路ではなく、街中やワインディングでも使えるようにした仕様と言えます。

速度を上げたり下げたりするスロットル操作の大半は、ライダーが主体的に行いつつ、先行車との距離が一定のレベルを超えて詰まった時だけ、速度を抑制し、必要なら減速。それによって、衝突の危険を軽減してくれるというものです。
たとえば、「サンデードライバー」と揶揄される人はアクセル操作が極めて不規則で、加速すべきタイミングを判断できなかったり、なにもないところで必要以上に減速して、後続車両のリズムを狂わせるものです。RDAはそんな不測の動きに追従し、自車の加速と減速を調整して、先行車との距離を確保。ただし、その介入は控えめで、接近をさりげなく引き留めてくれる印象でした。
開発者はそれを「距離のトラコン」と言います。スロットルを開けた時、タイヤのスリップを検知して加速を制限するのが、いわゆるトラクションコントロールですが、RDAは先行車との距離を検知した時に、同じように加速を抑制してくれるからです。

また、そのフィーリングを「先行車と自車の間に柔らかいクッションがあるイメージ」と表現します。ACCの場合は、先行車との距離があまり変化せず、その意味で「硬いクッション」が挟まっている感覚ですが、RDAの場合はスロットル操作の大部分がライダー側に託されているため、じわじわと開ければ、先行車との距離が限りなく縮まり、反対に緩めれば、離れることも可能です。
車両と車両の距離を可能な限り固定しようとするACCに対し、RDAはその管理が柔軟なため、柔らかいクッションに飛び込んで、大きく沈み込むような動きに例えられるというわけです。
とはいえ、ちょっと意識しておかなければいけないこともあります。それが自車のブレーキランプです。必要に応じて自動的に減速してくれるのはいいものの、その減速にエンブレだけでなく、通常のブレーキ加圧も加わった場合、当然、ブレーキランプが点灯することになります。後方を走っている車両からすると、その頻度によっては「なんであのバイクはあんなにしょっちゅうブレーキを掛けてんだ?」という見られ方にもなりかねず、逆に周囲の車両のリズムを崩しかねないからです。
ともあれ、RDAを作動させながらのライディングは、ライダーにとって安楽なことは間違いなく、早々の実用化が期待できそうです。

この他のGRA(グループライドアシスト)、RDW(リアディスタンスワーニング)、RCW(リアコリジョンワーニング)、EBA(エマージェンシーブレーキアシスト)といった機能は、冒頭に記した通りに機能。これら以外にも、地図データと連携した次世代アシスト機能など、新たな技術開発の片鱗を垣間見ることができました。
このように、どんどん高度になる電子デバイスに対しては、必ず不要論も出てきますが、ボッシュのエンジニアは例外なくライダーであり、つまり、2輪ならではの醍醐味を熟知。この世界が決して無味乾燥なものにならないよう、安全性とスポーツ性、快適性とエンターテイメント性のバランスを図りながら新たな技術開発に取り組んでくれているのです。
Writer: 伊丹孝裕
二輪専門誌「クラブマン」編集長を務めた後にフリーランスとなり、二輪誌を中心に編集・ライター、マシンやパーツのインプレッションを伝えるライダーとして活躍。鈴鹿8耐、マン島TT、パイクスピーク・インターナショナル・ヒルクライムといった国内外のレースにも参戦するなど、精力的に活動を続けている。