鈴鹿8耐4連覇!! ホンダ「VTR1000SPW」は勝つために生まれたV型2気筒エンジンのファクトリーマシンだった

1990年代後半のスーパーバイクレースはルールで縛られ、2気筒エンジンでなければ勝てなくなっていました。そこでホンダはV型2気筒ファクトリーマシン「VTR1000SPW」を開発し、栄光を取り返したのです。

公道用に市販された、常識破りのV型2気筒

 排気量999ccのV型2気筒エンジンを搭載したホンダのファクトリーマシン「VTR1000SPW」(2000年)は、2000年から2003年に鈴鹿8時間耐久ロードレース(以下:鈴鹿8耐)やワールドスーパーバイクレース選手権で大活躍しました。

2000年の鈴鹿8耐で宇川徹選手と加藤大治郎選手が駆り、優勝を獲得した「VTR1000SPW」
2000年の鈴鹿8耐で宇川徹選手と加藤大治郎選手が駆り、優勝を獲得した「VTR1000SPW」

 時代的にはV型4気筒エンジン搭載の「RVF/RC45」と、並列4気筒の「CBR1000RR」の間に販売されたスーパースポーツ車が「VTR1000SP」で、そのレース仕様車が「VTR1000SPW」です。

 鈴鹿8耐やスーパーバイクレースで使用するバイクは、市販車をベースにチューニングしたマシンです。1990年代は様々な市販車が参加してレースが盛り上がるように、エンジン形式によって排気量や最低重量の格差が設けられていました。

 このルールにより、1990年代後半になると2気筒の優位性が強まり「もはや2気筒でないと勝てない」という状況から、欧州車が何年もタイトルを連覇することになります。

 ホンダはそれまでの伝統とも言えるV型4気筒から、この車両規則の中で勝つことを超重要視したV型2気筒の新型スーパースポーツ車を開発します。

 V型2気筒と聞いて、1997年に登場した「ファイアーストーム(VTR1000F)」を思い浮かべるファンも多いと思いますが、開発が進むにつれて車体もエンジンもまったく違う新型車になりました。

 スーパーバイクと言えどもまずは「高性能な市販車」があり、それをベースにして「レース用マシンに改造」します。さらに「メーカーならではの高度なチューニングを施したのがファクトリーマシン」というのが普通の流れです。したがってエンジン形式やフレームの大幅改造は許されていません。

 ところがこのV型2気筒マシンは、まずホンダとHRCがライバルに勝てる性能を持ったテスト車(=ファクトリーマシン)を開発し、それを元に市販車を作り上げました。

 つまり「一般ライダー向けの超高性能な公道用バイクを販売」ではなく、「数人のワークスライダーしか乗らないファクトリーマシンを先に作り、それを公道市販車にした」ということなのです。

 そのとんでもないバイクが「VTR1000SP」です。あまりお馴染みではなく、知っている人はかなりのレースマニアでしょう。ホンダにしては控えめな台数が海外向けに輸出され、日本国内では2002年に、ライトなど保安部品を外したレース用車両のみが限られた台数だけ販売されました。

タコメーターはまだアナログの時代。HRCのロゴの下には小さなデジタルメーターも
タコメーターはまだアナログの時代。HRCのロゴの下には小さなデジタルメーターも

 市販車としては重心がかなり高く、ハンドル切れ角も狭いので公道では乗り難い場面もあったと思われますが、そのコンセプトがワインディグロードでの走りでも期待を裏切らないとも言われています。

 そしてこの市販車「VTR1000SP」をベースに、と言うか元のファクトリーマシンに戻したのが「VTR1000SPW」です。

 2000年にホンダとHRCがガチで開発した「VTR1000SP」の販売が開始されるとすぐに、「VTR1000SPW」は世界中のレースに参戦しました。その年のワールドスーパーバイク選手権の開幕戦でデビューウインを飾り、タイトルも獲得します。

 続くル・マン24時間耐久では5年ぶりの優勝をホンダにもたらし、鈴鹿8耐では2000年から2003年まで、4年連続で優勝するという無敵の強さを誇りました。

 当初の目標であるワールドスーパーバイク選手権のタイトルも2回も獲得しますが、今度は車両規則が4気筒1000ccの時代に突入し、ホンダのファクトリーマシンも「CBR1000RR」へと引き継がれていきます。

「レースの規則と時代に翻弄された」という印象のあるファクトリーマシンですが、勝ち獲ったトロフィー数が、他を圧倒するポテンシャルを物語ります。

 写真はデビューイヤーの2000年に、鈴鹿8耐で宇川徹/加藤大治郎選手組の走りで優勝した「VTR1000SPW」です。その輝きを堪能してください。

■ホンダ「VTR1000SPW」(2000年型)主要諸元
エンジン種類:水冷4ストローク90度V型2気筒DOHC8バルブ(1気筒当たり4バルブ)
総排気量:999cc
最高出力:180PS以上
車両重量:167kg(乾燥)
燃料タンク容量:24L

【取材協力】
ホンダコレクションホール(栃木県/モビリティリゾートもてぎ内)
※2023年12月以前に撮影

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Writer: 柴田直行

カメラマン。80年代のブームに乗じてバイク雑誌業界へ。前半の20年はモトクロス専門誌「ダートクール」を立ち上げアメリカでレースを撮影。後半の20年は多数のバイクメディアでインプレからツーリング、カスタムまでバイクライフ全般を撮影。休日は愛車のホンダ「GB350」でのんびりライディングを楽しむ。日本レース写真家協会会員

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