「万葉の歌に導かれてサイクリング」 富山県高岡市で出会う歌と景色は特別な体験!!
富山県高岡市は、万葉歌人「大伴家持(おおとものやかもち)」が数々の和歌を残した地です。自転車で「二上山」の激坂や「雨晴海岸」を巡れば、千年以上前に歌われた景色を味わう特別な体験が待っています。
サイクリングで感じる、万葉の風
能登半島の付け根に位置する富山県高岡市は、北陸新幹線の駅もあり、アクセスしやすい場所にあります。ここには万葉集に名を刻む大伴家持(おおとものやかもち)の足跡が残り、自転車でこそ体感できる絶景や、知的好奇心をくすぐる体験が待っており、ただの通過点にしてしまうには惜しいエリアです。
「走りながら和歌に想いを馳せる」そんなサイクリングができる場所は、日本でもそう多くありません。家持が詠んだ歌を辿りつつ、高岡のサイクリングスポットを紹介します。

奈良時代の貴族であり歌人の大伴家持(718~785年)は、『万葉集』の編纂に深く関わったことで知られていますが、その生涯の一時期を越中国(現在の富山県)で過ごしました。
越中国守として赴任し、約5年間をこの地で過ごした家持は、雄大な立山や富山湾の景観に心を動かされ、多くの歌を残しました。
現地を走ると、その和歌の情景が不思議とリアルに迫ってきます。ペダルを踏みしめながら、千年以上前の歌人と同じ風景を共有できるのは、この土地ならではの魅力です。
「二上山万葉ライン」のヒルクライムに挑む
「玉くしげ 二上山に 鳴く鳥の 声の恋しき 時は来にけり」
家持が恋の訪れを、鳥の声に重ねた春の歌です。舞台は富山湾の海岸線に聳える「二上山(ふたがみやま)」は、万葉の時代から人々の心を惹きつけてきました。

標高274mとそれほど高くはないものの、侮れないヒルクライムです。スタートこそ緩やかですが、そこから一気に勾配が増し、平均8%、最大では10%を超える斜度が待ち構えています。全長2.8kmの短い登坂ながら、脚にしっかり効いてくる激坂です。
ヒルクライムのフィニッシュは城山園地です。富山湾や北アルプス、小矢部川の蛇行を眼下に望む展望が待っています。ヒルクライムの達成感と共に、家持も眺めたかもしれない景色に心が重なります。
望んでよし、走ってよしの小矢部川
「朝床に 聞けば遙けし 射水川 朝漕ぎしつつ 唱う船人」
「二上山万葉ライン」の「城山園地」展望台から、眼下に広がる射水平野を流れる小矢部川を眺めることができます。家持が詠んだ「射水川」は諸説ありますが、現在の小矢部川と考えられています。

朝、川面を渡る風を感じながら走れば、千年前の歌人が耳にした船人の歌声が、どこからともなく聞こえてくるかもしれません。
堤防の道を走るのも良いですし、展望台から俯瞰すれば、川の蛇行する様子もよく分かります。家持が詠んだ歌の舞台をよりじっくり味わうことができるのです。
富山湾の絶景を走るナショナルサイクルルート「雨晴海岸」
「馬並めて いざうち行かな 渋谷の きよき磯廻に 寄する波見に」
この歌は、家持が仲間とともに海辺へ繰り出そうとする情景を描いたものです。舞台は渋谷(しぶたに)で、現在の「雨晴海岸(あまはらしかいがん)」と伝わります。

ここは「富山湾岸サイクリングコース」の一部で、ナショナルサイクルルートに指定された日本屈指の絶景ロードです。海越しに立山連峰を望む光景は、まさに「世界で最も美しい湾クラブ」に加盟する富山湾ならでは。
走っていると、海岸線に沿って「JR氷見線」が走り、時折、朱色の車体が海と山を背景に駆け抜けます。「道の駅 雨晴」では、ランチやコーヒーを楽しみながら、窓越しに絶景をゆっくり堪能できます。そんなひとときに、家持の和歌がふっと胸に浮かびます。
郷土と和歌を、ペダルでつなぐ旅
ヒルクライムや海岸線を走る合間に訪れたいのが「勝興寺(しょうこうじ)」です。国宝に指定された「本堂」と「大広間および式台」を有し、重厚な歴史を感じさせます。かつてはこの地に越中国庁があったと伝えられ、家持が実際に執務を行った場所とも目されています。
また、「高岡市万葉歴史館」では、家持の生涯や万葉集に関する展示が充実しており、サイクリングの合間に立ち寄れば、走ってきた風景と和歌の背景がより深く結びついていきます。
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高岡のサイクリングは、ただ景色を楽しむだけでなく、和歌を通して千年以上の歴史を跨ぐ体験です。「二上山」の激坂で汗を流し、「雨晴海岸」の海風を浴び、小矢部川沿いで歌人の耳に届いた音を想像する。それはこの土地ならではの特別なサイクリングです。
自転車でこそ感じられる風景とリズムが、万葉の世界をぐっと身近に引き寄せてくれるでしょう。
Writer: 才田直人
1985年生まれ。学生時代に通学用に購入したロードバイクをきっかけにトレーニングを開始。サイクルロードレースの全日本選手権参戦やフランスでの選手生活、国内での社会人兼選手生活を経て2023年に引退。日本だけでなく東南アジアなど自転車旅をこよなく愛し、現在はワーケーション自転車旅を続けている。専門的な知識と経験でTV出演やヒルクライムイベントのアテンド、講師なども務める。












