超精密!! エンジンのカムシャフトを駆動する「カムギアトレーン」とは

エンジンのカムシャフトはチェーン駆動が一般的ですが、なかには組み合わせたギア(歯車)で動かす「カムギアトレーン」という方式があります。どんなバイクに使われていて、どんなメリットがるのでしょうか?

文字通り「歯車でカムシャフトを駆動」

 バイクの4ストロークエンジンは、ガソリンと空気の混合ガスを吸い込んで燃焼・爆発することでパワーを発揮します。そのため混合ガスを吸気したり排気するタイミングが重要になり、かつ高回転まで回すことでより大きなパワーを発揮できます。

カムシャフトをギア(歯車)で駆動する「カムギアトレーン」。画像はホンダ「CBR250FOUR」(1986年)のエンジンのカットモデル
カムシャフトをギア(歯車)で駆動する「カムギアトレーン」。画像はホンダ「CBR250FOUR」(1986年)のエンジンのカットモデル

 そこでシリンダーヘッドに設けた吸気バルブと排気バルブを開閉するのがカムシャフトの役目ですが、近年の多くの4ストロークエンジンは「カムチェーン」によってクランクシャフトの回転をカムシャフトに伝えています。

 しかしエンジンの回転数が高くなると、カムチェーンが遠心力で膨らんでしまい、吸排気バルブの開閉タイミングがズレてしまいます。こうなると高回転まで回せない(パワーが出ない)ばかりか、無理に回すとバルブとピストンが接触してエンジンが破損する危険もあります。

 そのためカムチェーンが膨らまないように張りを適切に保つ「カムチェーンテンショナー」を装備していますが、これはこれでカムチェーンを押さえているため、摩擦によるロスもあります。

 そこで、カムシャフトを超高回転でも正確に駆動し、信頼性や耐久性も高めるために考案されたのが「カムギアトレーン(Cam Gear Train)」です。文字通りギア(歯車)でカムシャフトを駆動する方式です。

かつてのホンダはカムギアトレーン車が目白押し!

 カムギアトレーン方式の歴史はけっこう古く、レーシングマシンでは2輪4輪問わず、かなり昔から使われていました。

ドゥカティがカムギアトレーンを初採用した「グランスポルト100マリアンナ」(1955年)
ドゥカティがカムギアトレーンを初採用した「グランスポルト100マリアンナ」(1955年)

 イタリアのドゥカティは、主任設計者の天才技師ファビオ・タリオーニ氏が「ベベルギア」(傘歯車)でカムシャフトを駆動するエンジンを設計し、1955年に「グランスポルト100“マリアンナ”」を設計し、レースで優れた成績を収めました。その後、このカムギアトレーン方式は「べべル」の愛称で単気筒のロードスポーツモデルや、L型2気筒エンジンの「750GT」~「900MHR」などの市販スポーツバイクに採用されました。

 日本ではホンダがワークスマシン「RC160」に初めてカムギアトレーンを採用し、1959年の浅間火山レースでデビューウィンを遂げます。そして1961年の世界GP250クラスでは、カムギアトレーンの「RC162」がメーカーおよびライダーチャンピオンを獲得しています。

 それからホンダはしばらく間を置きますが、1984年に発売した「VF1000R」に初めてカムギアトレーンを採用します。こちらは輸出専用モデルのため、国内ではあまり馴染みがありませんが、1986年に発売した排気量250ccクラスの4気筒エンジンを搭載する「CBR250FOUR」に、国内モデルで初めてカムギアトレーンを装備しました。

「CBR250FOUR」は最高出力の45馬力を、現在でも破格の高回転である14500rpmで発揮し、レッドゾーンはなんと17000rpmからでした。

 超高回転が生み出すパワーと4気筒の排気音、そしてカムギアトレーン特有のエンジンが発する「ギアの唸り」が多くのライダーを魅了したのは言うまでもありません。

カムギアトレーンを採用したホンダ「CBR250FOUR」(1986年)
カムギアトレーンを採用したホンダ「CBR250FOUR」(1986年)

 その後、「CBR250FOUR」は「CBR250R」、「CBR250RR」へと進化しますが、カムギアトレーン方式は2000年の最終モデルまで踏襲されます。

 また1991年には「CBR250RR」の4気筒エンジンをベースにしたネイキッド車「JADE(ジェイド)」が登場し、1996年には後継モデルの「ホーネット(250)」が発売されますが、いずれもカムギアトレーンです。

 というワケで、ホンダが過去に販売した250ccクラスの4気筒モデルは、すべてカムギアトレーンになります。

 400ccクラスでも、「CBR250FOUR」に次いで同年の1986年に発売された「CBR400R」にカムギアトレーンを採用し、モデルチェンジを重ねて「CBR400RR」の最終モデル(2000年)まで続きます。

 そして1989年発売のネイキッド車「CB-1」にも「CBR400RR」ベースのカムギアトレーン4気筒エンジンを搭載しています。しかし1992年に登場した「CB400 SUPER FOUR」では、カムチェーン方式の新型エンジンに変更されました。

 他にも、並列4気筒エンジン車では1987年発売の「CBR750スーパーエアロ」にもカムギアトレーンを採用しています。

 またホンダは、1980年代~90年代はロードレースや、そのベースとなる市販スーパースポーツ車の主力をV型4気筒エンジンとしましたが、1986年発売の「VFR」シリーズ(VFR400R、VFR400Z、VFR750F)はすべてカムギアトレーンです。

 その後も「RC30」の呼び名で有名な「VFR750R」や「RVF」(400ccのNC35型、750ccのRC45型)もカムギアトレーンを採用します。

 さらに「VFR750F」からの進化系となる排気量800ccクラスの「VFR」も、2001年までカムギアトレーンを採用し、2002年のフルモデルチェンジでカムチェーン方式に変わります。

 ちなみに、1992年にはかつてのワークスマシンに採用した「楕円ピストン」の集大成とも言える、排気量750ccクラスのV型4気筒楕円ピストンエンジンの「NR」もカムギアトレーン方式です。

 そして2000年にはワールドスーパーバイクのレギュレーションに合わせたV型2気筒のスーパースポーツモデル「VTR1000SP-1」を、2003年には後継モデルの「VTR1000SP-2」を発売しますが、これらもカムギアトレーン方式になります。両車ともに輸出専用モデルですが、ホンダの量産市販車でカムギアトレーンを採用した最後のバイクになると思われます。

いま買えるカムギアトレーンのバイク

 カムギアトレーン方式は、基本的に高回転・高出力を達成するために登場したメカニズムですが、別の観点から採用されたパターンもあります。それは1999年にカワサキが発売した「W650」です。

カムギアトレーンを採用するカワサキ「W650」の空冷2気筒エンジン
カムギアトレーンを採用するカワサキ「W650」の空冷2気筒エンジン

 当時はネオレトロやネオクラシックと呼ばれる「旧車風」なスタイルのバイクの人気が高まりつつありました。そこでカワサキも開発に着手しますが、かつての名車「W1」をそのまま踏襲するのではなく、新たな価値観で構築しようと考えます。

 そこでトラディショナルな空冷2気筒エンジンに、カムチェーン方式ではなく敢えてカムギアトレーン方式を採用しました。シリンダーの右側面に、カムシャフトを駆動するベベルギアのシャフトトンネルとギアカバーを設けることで、既存の空冷2気筒とは異なる意匠を凝らしたワケです。

 2006年には普通自動二輪免許で乗れる兄弟車の「W400」も登場します。いずれも2008年の排出ガス規制の強化によって生産を終了しますが、2011年にFI化(電子制御式燃料噴射)と排気量アップした「W800」となって再登場。さらに2020年にはバリエーションモデルの「MEGURO K3」も発売されます。

 こうして「W800」と「MEGURO K3」は、現在新車で購入できる数少ないカムギアトレーンのバイクになっています。

高コストだが、レーサー直系の憧れのメカニズム

 構造図やカットモデルなどで、一般的なカムチェーン方式と見比べるとなんとなく素人目にもカムギアトレーンの方が正確で耐久性もありそうな感じもします。しかし実際に作るのはかなり難易度が高いと言えます。

カワサキ「W650」のカムを駆動するための「まがりばかさ歯車」と呼ばれるベベルギア。製作するには高い加工技術が求められ、生産コストもかかる。「W800」や「MEGURO K3」も同様
カワサキ「W650」のカムを駆動するための「まがりばかさ歯車」と呼ばれるベベルギア。製作するには高い加工技術が求められ、生産コストもかかる。「W800」や「MEGURO K3」も同様

 じつは歯車と歯車を組み合わせるには、ホンのわずかな「隙間(バックラッシュ)」が必要になります(まったく隙間がないと噛み合って動かない)。しかし隙間があると騒音や振動が発生したり、本来の目的である「カムシャフトの正確な駆動」にも問題が出てしまいます。

 そこでカムギアトレーン用の歯車には、「まがりばかさ歯車」と呼ばれるベベルギア(ドゥカティのベベル系やカワサキのW650、W800など)や、スプリングでテンションをかけた2枚重ねの「ノーバックラッシュギア」(ホンダのカムギアトレーン車全般)といった、特殊な歯車を用います。コレには高い工作技術や高度な設計が必要で、必然的に生産コストが高くなります。

 また、現在ではカムチェーン方式でも、パーツや設計の進化によってカムギアトレーンと同等以上のパワーを得られるようになりました。それらの総合的な理由から、近年は(ルックス重視のW800を除いて)カムギアトレーンは採用されなくなったと考えられます。

 ただし「速さ」のために惜しみなくコストをかけるMotoGPマシンのエンジンはカムギアトレーンを採用しています。そのためホンダ「RC213V」のフルレプリカである「RC213V-S」や、ドゥカティのMotoGPレプリカである「デスモセディチRR」もカムギアトレーンを装備しています。

 というワケで、市販スポーツ車においては、いまやカムギアトレーンは無用な装備かもしれませんが、レーシングマシンを彷彿させる夢のあるメカニズムであることは間違いありません。

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Writer: 伊藤康司

二輪専門誌『ライダースクラブ』に在籍した後(~2005年)、フリーランスの二輪ライターとして活動中。メカニズムに長け、旧車から最新テクノロジー、国内外を問わず広い守備範囲でバイクを探求。機械好きが高じてメンテナンスやカスタム、レストアにいそしみ、イベントレース等のメカニックも担当する。

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