水冷90度V型4気筒エンジン搭載!! バイクの近未来を示したホンダ「VF750セイバー」とは
1982年にホンダが示した大型バイクの新概念とも言える「VF750 SABRE(セイバー)」は、水冷V型4気筒エンジンと数々の新技術、エレクトロニクスを採用したバイクの近未来でした。
バイクの近未来を切り拓く、V型4気筒エンジンと電子機能搭載
2025年のモビリティショーでは、未来のバイクであるホンダ「EVアウトライヤー・コンセプト」が展示されました。未来のバイクはどうなるのか、気にする人は少なくないでしょう。

では40年以上前に「近未来バイク」と銘打って登場したホンダ「VF750 SABRE(セイバー)」(1982年)を振り返り、未来となった現在のバイクと比較するのも面白いものです。
「VF750セイバー」の最も注目すべき特徴は、市販バイクでは世界初の水冷V型4気筒エンジンです。4気筒ながら並列2気筒並みにスリムなエンジン幅で、当時は750ccクラスで最も軽量なパワーユニットでした。
現在のMotoGPマシンの多くがV型4気筒であることからも、その優位性をいち早く採用した先進性が伺えます。
Vバング90度という「VF750セイバー」のエンジンは振動が少なく、バランサーが不要でその分だけ重量軽減できます。さらにエンジンはラバーマウントで搭載され、徹底的に振動を追放しています。
ホンダの大型2輪では「GL」シリーズに続く水冷エンジンですが、10.5という圧縮比を実現し、当時クラス最高の72PSというハイパワーを38km/Lという低燃費とともに実現しています。
もうひとつの注目点はエレクトロニクスを導入したことです。「デジタル化」あるいは「電子制御」の夜明け的な技術で「ライダーとバイクのより高度なコミニケーションを追求」と宣伝されています。
「一体どんな情報が?」と気になりますが、現在では常識的にメーターに表示される、エンジンや車体各部の警告サインです。
メーターはアナログな指針式ながら、トリップメーターと時計はデジタル表示、燃料計と水温計は液晶インジケーター式でした。
中央にはデジタルワーニングシステムが配置されています。エンジンを始動するとテールランプの断線、ヘッドライトの断線、ラジエター液不足、ガソリン残量不足、油圧異常を自動的に点検します。
異常を検出するとデジタル絵図で表示してライダーに点検整備の必要を知らせてくれます。全てが正常な場合はギアポジションを表示するディスプレイに変わります。
そのメーターはパルスセンサーからの電気信号で作動(現在では定番)しており、ケーブルレスのためメーターユニットの角度をライダーの目線に合わせて自由に調整できました。

車体に目を向けると、コンピューター解析をフルに導入した新ダブルクレードルフレームやプロリンクサスペンションなど、その後数年間の車体構成の先駆けとも言えます。
デザインは同年に発売された「FT500/400」や「CB650LC」にも似た独特のストリームラインで、北米向けスポーツバイクの方向性を感じさせるものです。
「VF750セイバー」のユニークな装備は、こちらも世界初の光ファイバーを利用した盗難防止装置です。光ファイバーを組み込んだロック用ワイヤーを駐車場のポールなどに巻き付け、先端のコネクターを車体のボックスに差し込みます(解除にはキーが必要)。ワイヤーが切られるとブザーが鳴り警告するというものでした。
さて「VF750セイバー」がもたらしたバイクの未来は現在どのように実現されているでしょうか。自動的な各部点検や警告システム、油圧クラッチなどのさまざまな技術が、今では世界中のバイクに標準装備されています。
一方、V型4気筒エンジンはその後スーパースポーツからアドベンチャーバイクまで、さまざまな車種に採用されたものの、現在ホンダではMotoGPマシンだけが採用するレアなエンジン形式となっています。
また「VF750セイバー」開発時には、「従来テストライダーの勘に頼っていたフレーム強度や操縦安定性の味つけも、コンピューター解析で詳しく分析しベストなもの選定」と宣伝されました。
それは当時の最新技術のアピールだったと思われますが、現在でもテストライダーに限らず、多くのエンジニア達によって解析し、分析されながら開発されていることにバイクの面白さを感じます。
「セイバー」シリーズはより大きな排気量の「VF1100Sセイバー」が輸出向けに生産されました。国内ユーザーの好みはスポーツ志向の「VF750F」に集中し、「VF750セイバー」直系の後継車が無いまま1986年発売の「VFR750F」に統合されました。
ホンダ「VF750セイバー」(1982年型)の当時の販売価格は69万5000円です。
■ホンダ「VF750 SABRE」(1982年型)主要諸元
エンジン種類:水冷4ストロークV型4気筒DOHC16バルブ(1気筒あたり4バルブ)
総排気量:748cc
最高出力:72PS/9500rpm
最大トルク:6.1kg-m/7500rpm
全長×全幅×全高:2245×830×1165mm
シート高:770mm
始動方式:セル
燃料タンク容量:20L
車両重量:242kg
フレーム形式:ダブルクレードル
タイヤサイズ(F):110/90-18 61H
タイヤサイズ(R):130/90-17 68H
【取材協力】
ホンダコレクションホール(栃木県/モビリティリゾートもてぎ内)
Writer: 柴田直行
カメラマン。80年代のブームに乗じてバイク雑誌業界へ。前半の20年はモトクロス専門誌「ダートクール」を立ち上げアメリカでレースを撮影。後半の20年は多数のバイクメディアでインプレからツーリング、カスタムまでバイクライフ全般を撮影。休日は愛車のホンダ「GB350」でのんびりライディングを楽しむ。日本レース写真家協会会員










