リアホイールが丸見えの「片持ちスイングアーム」 どんなメリットがある?
バイクの後輪を支える「スイングアーム」は、両側からホイールを挟み込む形の両持ちスイングアームが一般的ですが、クルマのようにホイール丸見えの「片持ちスイングアーム」も存在します。どんなメリットがあるのでしょうか?
スイングアームは「両持ち」が一般的?
バイクの後輪を支えるスイングアームは、ホイールを両側から挟む形式の「両持ちスイングアーム」が主流です。そのため敢えて「両持ち」の文言を付けずに「スイングアーム」と呼ぶのが一般的かもしれません。

しかしバイクの中には、極太のアームが片側から支える「片持ちスイングアーム」を採用する車両もあります。まるでクルマのように(スイングアームが無い側から見ると)ホイールが丸見えなのが特徴です。
「elf」とホンダとの協力から生まれた
どのバイクが最初に片持ちスイングアームを装備したのかは不明ですが、レーシングマシンで採用したのはフランスの「elf(エルフ)」が有名です。elfと言えばエンジンオイルを思い浮かべますが、かつては革新的なマシン「モト・エルフ」を開発してトップカテゴリーのロードレースや耐久レースに参戦していました。

オールドファンには1983年の鈴鹿8時間耐久ロードレースに参戦した「elf e」が有名で、前輪を片持ちする「ハブセンターステア」が注目を浴びましたが、後輪も片持ちスイングアームを装備していました。elfと協力関係にあったホンダがレース用の「RS1000」のエンジンを供給していました。
その後もホンダの協力により、モト・エルフは世界ロードレース選手権(WGP)に場を移し、1980年代後半まで参戦しました。
協力関係にあったホンダは世界耐久選手権マシンの「RVF750」に片持ちスイングアームを採用し、1985年・1986年にチャンピオンを獲得します。
その技術を市販車にフィードバックして、1987年3月発売の「VFR400R」および同年8月発売の「RC30」こと「VFR750R」に「プロアーム(PRO ARM)」の製品名で片持ちスイングアームを装備しました。
極太のスイングアームには「PRO ARM」の銘版が貼り付けられ、そこには「HONDA/elf France」の名前が並んでいました。
片持ちのメリットは?
片持ちスイングアームは耐久レースでタイヤ交換が速やかに行える、というメリットがあります、と言うか「ありました」。
1980年代序盤の耐久レースでは、両持ちスイングアームだと後輪のタイヤ交換に猛烈に作業が速いワークスチームでも約20秒ほどかかりましたが、片持ちスイングアームなら約10秒で交換でき、これは大きなアドバンテージになります。
とはいえ耐久レースでは両持ちスイングアームでタイヤの「クイックチェンジ・システム」が開発され、後輪の交換時間が大差なくなった……と言うより、現在ではむしろ片持ちスイングアームの方が時間がかかるようになりました。

他にも片持ちスイングアームはねじり剛性が強いとか、マフラー(エキゾーストパイプやセンターパイプ)の取り回しの自由度が大きい、などのメリットがあります。
ホンダがV型4気筒エンジンの「VFR」や「RVF」シリーズに、後年まで片持ちスイングアームを採用した理由なのかもしれません(V型4気筒は後方2気筒のエキゾーストパイプの取り回しスペースが厳しい)。
また2ストローク250レーサーレプリカ「NSR250R」の最終型(MC28型:1993年~)も片持ちスイングアームを採用していますが、マフラーの大きなチャンバーが無理なく配置されているように感じます。
そして片持ちスイングアームと言えば、1994年以発売したドゥカティ「スーパーバイク916」も有名です。こちらはマフラー(エキゾーストパイプ)の長さを稼いで、センターアップのサイレンサーまで導くために、非常に有効だったことが見て取れます。
その後は同レイアウトの「998」シリーズまで片持ちスイングアームでしたが、モデルチェンジした「999」(2003年~)で両持ちスイングアームに変更。しかし2007年発売の「1098」で再び片持ちスイングアームを採用し、
その後、エンジンがV型4気筒になった「パニガーレV4」でも片持ちスイングアームを採用していました。
またスーパーバイク以外でも、ドゥカティの多くのモデルが片持ちスイングアームを採用しています。
しかし最新(2025年~)の「パニガーレV4」シリーズは両持ちスイングアームに変更されました。
これはドゥカティコルセ(レースチーム)からの要望があったそうです。「916」が登場してから約30年の間に、タイヤを含め様々な進化や、それに伴う設計思想の変化があったのだと思われます。
そして新型「パニガーレV2」や、これらをベースとする新型「ストリートファイターV4/V2」も両持ちスイングアームになっています。
BMWバイクは片持ち率が高い!?
BMW Motorradは1980年に発売した「R 80 G/S」を皮切りに、以降の水平対向2気筒エンジンの「R」シリーズが片持ちスイングアームを採用しています。
縦置きエンジンの「R」シリーズは後輪の駆動方式がシャフトドライブになっており、ねじり剛性や強度に長けた太いスイングアーム内部にシャフトを通すため、片持ちの方が合理的なのが理由と思われます。

ちなみに「R」シリーズの中で「R 18」ファミリーのみ両持ちスイングアームになりますが、こちらはクラシックなリジッドフレーム風のデザインのためでしょう。
並列6気筒エンジンを搭載する「K 1600」シリーズも片持ちスイングアームです。「K」シリーズも後輪がシャフト駆動なのが理由でしょう。
ホンダの旗艦ゴールドウイングも、排気量を1800ccに拡大した2001年モデルから片持ちスイングアームを採用し、現行モデルも片持ちです。
他にも、市販車で最大排気量を誇るトライアンフの「ロケット3」シリーズも片持ちスイングアームです。これらのモデルに共通するのは、後輪がシャフトドライブというところです。
ちなみに、原付スクーターなどエンジンとスイングアームが一体化した「スイングユニット方式」も、タイヤをホイールの片方だけで支えている車両が少なくありません。……が、こちらは今回の片持ちスイングアームとは構造も目的も異なるので、割愛させていただきます。
このように、現在片持ちスイングアームを採用するのはシャフト駆動のバイクが主流で、エンジンが横置きでチェーン駆動のスポーツバイクは、両持ちスイングアームが一般的です。
とはいえMVアグスタのロードスポーツは全車が片持ちスイングアームですし、カワサキのスーパーチャージドモデル「Ninja H2 SX」も片持ちスイングアームを採用しています。
これらは機能的な優位性だけでなく、ルックスとしてのアピール度が強いのも事実で、趣味の乗りものとしては大切な要素と言えます。
そして「EICMA2024」(ミラノショー)でホンダが公開した、電動過給機を搭載したV型3気筒エンジンのコンセプトモデルも片持ちスイングアームで、やはり多くの人の目を惹きました。
Writer: 伊藤康司
二輪専門誌『ライダースクラブ』に在籍した後(~2005年)、フリーランスの二輪ライターとして活動中。メカニズムに長け、旧車から最新テクノロジー、国内外を問わず広い守備範囲でバイクを探求。機械好きが高じてメンテナンスやカスタム、レストアにいそしみ、イベントレース等のメカニックも担当する。





















