大切な愛車のメンテナンス オイルもグリスも締め付けも「過ぎたるは猶及ばざるが如し」とは?

愛車をいつも、そして永く快調に保つにはメンテナンスが大切です。潤滑不足や締め付け不足はトラブルの原因になります。そして先を見越して「多め・強め」も同様です。「過ぎたるは猶及ばざるが如し」です。

メンテナンスに「どうせ減るから」は御法度

 たとえばエンジンオイルは、走っていれば(エンジンが動いていれば)ほんの少しずつ減っていきます。タイヤの空気も、ほんの少しずつ抜けていき、空気圧が低下しまます。日頃からメンテナンスを行っている人は、良く知っていることではないでしょうか。

 ところがある程度経験値が増すと、ともすれば「どうせ減るんだから、少し多めに……」と、一度は考えることもあるのではないでしょうか。その方がメンテナンスのサイクルも長く、合理的にも感じます……が、じつはNGです。

 孔子の教えではないですが、メンテナンスも「過ぎたるは猶及ばざるが如し」です。適正値より過剰だと、不足と同様にバイクを傷める原因になってしまいます。

入れ過ぎ注意!

 近年の4ストロークエンジンの場合、エンジンオイルはほとんど減りません。逆の言い方をすれば、ほんの少しずつ減っていきます。そこで自分でエンジンオイルを交換する際に、少し多めに入れておこう……はNGです。

 エンジンオイルを入れ過ぎると、内部抵抗が増加して燃費が悪化したり、パワーダウンする可能性があるだけでなく、旧車などはアイドリングが不安定になったり、エンストしやすくなることもあります。

 いまどきのバイクはエンジンオイルの量を確認するチェック窓を装備している車両が多く、そこには上限(Hi)と下限(Low)のラインが刻んでありますが、上限(Hi)を大きく超えるほど入れたら危険です。

 意図的に過剰に入れるのはもちろんNGですが、車体が真っすぐに立っていない状態でオイル量をチェックして入れ過ぎているミスもあるので注意が必要です。

エンジンオイルの入れ過ぎは燃費の悪化やエンジン故障の原因に。レベルチェックの際は車体を垂直に立てて確認する。車体が傾いていると、意図せずに入れ過ぎる危険アリ
エンジンオイルの入れ過ぎは燃費の悪化やエンジン故障の原因に。レベルチェックの際は車体を垂直に立てて確認する。車体が傾いていると、意図せずに入れ過ぎる危険アリ

 たとえばエンジン右側にオイルチェック窓を配置するバイクの場合、もしサイドスタンドで立てた状態で上限(Hi)と下限(Low)の間になるまでエンジンオイルを入れたら、猛烈な入れ過ぎ状態で、エンジンが始動できなかったり、始動できても壊れてしまうかもしれません。

 他にも、水冷エンジンのバイクだと、冷却水のリザーバータンクにも上限(Hi)と下限(Low)のラインが刻んでありますが、これも入れ過ぎ注意です。

 エンジン内の冷却水経路から「戻り」があった際に、リザーバータンクの空き容量が足りないためにオーバーフローします。冷却水(クーラント)は滑りやすいので、漏れた冷却水がタイヤに付着するとけっこう危険です。

 また燃料タンクにガソリンの入れ過ぎもご法度です。給油の際はできるだけ口元まで入れたいのが人情ですし、冬場などあまり乗らない時期はタンク内をできるだけガソリンで満たした方が結露を防ぎサビ防止の効果もあるのですが……。

燃料キャップの口元ギリギリまでガソリンを入れると、溢れてエバポレーターを傷める可能アリ
燃料キャップの口元ギリギリまでガソリンを入れると、溢れてエバポレーターを傷める可能アリ

 近年のバイクは環境対策のために「エバポレーター」と呼ばれるガソリン蒸発ガス排出抑止装置を装備しています。ガソリンを入れ過ぎると、燃料タンクから溢れてエバポレーターに流れ込むことがあり、エバポレーターが故障する原因になります。

 そして「入れ過ぎの代表格」が、タイヤの空気圧かもしれません。季節にもよりますが、タイヤの空気は1カ月でおおむね4~5%ほど自然に抜けます。頻繁にチェックして補充する必要がありますが、面倒なので空気圧を高めに入れておこう……になりがちです。

 タイヤの空気圧は、高めの方が路面との接地面積が減少するので転がり抵抗が減り、わずかに燃費が向上します。しかし空気圧が指定より高過ぎると、適正に変形しないためグリップ性能が低下してスリップの危険が増し、ブレーキの効きも悪くなります。指定空気圧より20%高くすると、タイヤの寿命が90%に落ちるというデータもあります。

塗り過ぎ注意!

 バイクにはたくさん「可動部」があり、スムーズに動くようにグリスなどを塗布して潤滑しています。となると、「いっぱい塗った方がより潤滑できる」と考えがちですが、これも要注意です。

 ステアリングステムやスイングアームピボット、ホイールベアリングの潤滑は重要ですが、これらのメンテナンス(グリスの塗布など)は相応にハードルが高く、プロに依頼するのが一般的でしょう。

 ブレーキやクラッチレバーの取り付け部、シフトペダルのリンク部分などは比較的簡単に分解して清掃・潤滑できます。分解しなくてもスプレーグリスを使えば、体感できるくらい操作フィーリングが向上します。

 しかし潤滑が必要なのは部品同士が接触する部分なので、それ以上塗っても効果は変わりません。というより、ハミ出したグリスに砂埃などが付着するため、可動部に微細な砂粒が入り込んで摩耗が進む=部品の寿命が縮む場合もあります。

 グリスを塗布して部品を組み付けたら、目に見えるハミ出したグリスはキレイに拭き取っておくことが肝心です。

 ちなみに、パーツクリーナーを吹き付ければ一瞬でキレイになりますが、可動部に塗った大切なグリスも流れ出てしまうので、それはNGです。

 そして少々マニアックですが、ブレーキをかけた時にキーキー音がする「ブレーキの鳴き止め」に、ブレーキパッドの背面にブレーキグリスやカッパーグリスを塗ることがありますが、コレも少量を薄く塗布すればOKで、ベッタリたくさん塗るのは絶対にNGです。

 もしも余分なグリスが垂れてブレーキパッドの摩擦材やディスクローターに付着したら、ブレーキをかけても滑って効かなくなってしまい、大変危険です。

 そして清掃・潤滑が重要と言えばドライブチェーンですが、メンテナンスには必ずチェーン専用のクリーナーと潤滑剤(チェーングリス)を使います。汎用のパーツクリーナーや潤滑スプレーの中には、成分に溶剤を含んでいる場合が多く、それらを中~大型車に多いグリス封入式のチェーンに使うと、グリスを封入しているゴム製のOリングを傷めてしまうからです。

 またチェーン専用グリスは飛散しないタイプが多いですが、とはいえ過剰に塗布すると、走ってチェーンが回転する際に遠心力で飛び散って、バイクのテールカウルやリアフェンダー周辺を汚してしまいます。

 さらにチェーンと言えば「張り調整(遊び調整)」も大切ですが、こちらも「どうせ伸びるから」と若干張り気味にしたり、張り過ぎには注意です。

バイクの構造上、チェーンを張り過ぎるとリアサスペンションの動きを制限してしまい、後輪の路面追従性が悪化してスリップする危険が増える
バイクの構造上、チェーンを張り過ぎるとリアサスペンションの動きを制限してしまい、後輪の路面追従性が悪化してスリップする危険が増える

 スポーツバイクはエンジン側のドライブスプロケット軸と、後輪側のドリブンスプロケット軸、そしてスイングアームのピボット軸の3軸の位置関係によって、走行中はドライブ軸とドリブン軸の間隔が常に変化します。

 チェーンの張り具合はその間隔の変化に対応するために必要で、もし張り過ぎるとリアサスペンションの縮む動きを邪魔してしまい、路面追従性が低下してスリップする危険が大きくなります。

締め過ぎ注意!

 ほかにも、バイクの日常的なチェックの中には、部品を組み付けているボルトやナットが緩んでいないか、もし緩んでいた場合は「増し締め」を行うことも含まれています。

 そこで、とにかく緩まないようにと力いっぱい締める人もいるようですが、この「締め過ぎ」のパターンも、もちろんNGです。

 ボルト類には適正な「締め付けトルク」があり、足りなければ緩んで外れてしまうかもしれませんが、過剰に締め付けると部品が傷んだり、ボルトが捩じ切れてしまう危険があります。むやみに強く締めても逆効果になる場合があります。

 そのため、車体やエンジンを構成する重要なボルトには、適正な締め付けトルクがサービスマニュアルに記載されており、トルクレンチを使って締める必要があります。

車体やエンジンを構成するボルトは、トルクレンチを使用してメーカーが定める締め付けトルクを守る
車体やエンジンを構成するボルトは、トルクレンチを使用してメーカーが定める締め付けトルクを守る

 繰り返しになりますが、メンテナンスも「過ぎたるは猶及ばざるが如し」です。「多過ぎ、塗り過ぎ、張り過ぎ、締め過ぎ」など、指定や適正値より過剰な行為は、良かれと思ってやったことがメンテナンス不足と同様の不具合を起こす原因になりかねない……ということを知っておきましょう。

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Writer: 伊藤康司

二輪専門誌『ライダースクラブ』に在籍した後(~2005年)、フリーランスの二輪ライターとして活動中。メカニズムに長け、旧車から最新テクノロジー、国内外を問わず広い守備範囲でバイクを探求。機械好きが高じてメンテナンスやカスタム、レストアにいそしみ、イベントレース等のメカニックも担当する。

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