カオスが過ぎる!? マン島でもっとも歴史の長い“バイク博物館”がオモシロイ【マン島TTレース2026】
1周約60kmの公道を使用して行われる、現存する世界最古の公道バイクレース「マン島TTレース(Isle of Man TT Races)」が2026年も開催されました。今年も現地取材で訪れた小林ゆきさんが、「MURRAY'S MOTORCYCLE MUSEUM(マレーズモーターサイクルミュージアム)」についてレポートします。
カオスな空間に飲み込まれてみる
2026年も「マン島TTレース」が開催されましたが、マン島にはいくつかのバイク関連の博物館があることをご存じでしょうか。その中でもっとも歴史が古いのが、個人運営の「MURRAY’S MOTORCYCLE MUSEUM(マレーズモーターサイクルミュージアム)」です。
オーナーのピーター・マレー氏の父、チャーリー・マレー氏が1953年にマン島へ移住し、バイクや記念品の収集を始め、その後、首都ダグラスと空港の間に位置する小さな村、サントンでバイク博物館を開館しました。
1960年代には、TTマウンテンコースの山頂付近にある象徴的なスポット「バンガロー」へ移転し、TTコースを訪れるライダーや、観光客の聖地として人気スポットとなりました。
その後、運営上の事情から山頂エリアを離れ、現在は再びサントンで営業しています。

オーナーのピーターさんの人柄や、おびただしいバイクや資料の展示を求めて、たくさんのバイクファンがここを訪れます。
初めて訪れた人はたいてい、入口を進むと訝しげな表情に変わります。まず圧倒されるのは、おびただしい展示物の数々で、バイクそのものはもちろん、エンジンやフレーム、カウル、サインボードや昔のガソリンスタンドのポンプ、写真やポスター、ヘルメットや革ツナギ、ブーツにゴーグル、トロフィー、看板、標識……。
それらが壁や天井にまでびっしりと並べられ、まさに「カオス」と呼ぶべき世界が広がっているからです。
受付がどこにあるのかすら分からないほどの展示物に囲まれ、キョロキョロしていると奥からオーナーのピーターさんが現れ、英語が苦手な外国人にも分かりやすい明瞭な英語で、ユーモアを交えながら話しかけてきます。すると、来館客の表情が一転、みな笑顔で中に吸い込まれてゆくのです。
入館時には記念品のステッカー、リストバンド、フェアリーチャームが配られ、入場料10ポンド(2026年現在、日本円で約2300円)を払うと、コーヒーや紅茶、ビスケットやクッキーもいただくことができます。
入場料を支払うカウンターまでで、すでに尋常ではない量の展示物に圧倒されるのですが、本番は展示場です。古いものは19世紀のバイクから、歴史あるレーシングマシン、サイドカー、比較的近年のバイクまで、150台以上ものバイクがギッチギチに並んでいます。
天井には昔のレースのバナーやヘルメット、カウル、フレームがぶら下がり、壁ぎわには、古いバイクのエンジンやパーツ、カットモデルが並んでいます。

日本人として見逃せないのが、日本製の市販レーサーが並んでいるエリアです。そのうちの1台には、鈴鹿サーキットやTIサーキット英田(現・岡山国際サーキット)の車検シールが貼られており、かつてこのマシンが、日本で走っていたことをうかがわせます。おそらく、1990年代に中古車が日本から輸出され、マン島にたどり着いたものと思われます。
当時は日本から良好な中古車が海外に輸出されていた時代で、日本製の2ストロークの市販レーサーや、レーサーのベースマシンのレーサーレプリカはもちろん、イギリス国内で発売されていなかった4ストローク400ccクラスも多数輸出され、400ccクラスのレースカテゴリーが開催されていたほどです。
2階の展示場には、女性向けバイクのエリア、レーシングマシンのエリア、オフロード車のエリア、イタリアや日本車のエリアなどがあります。
また、ガラスのショーケースには昔のゴーグルやメーター、ヘッドライト、キャブレター、プラグやオイルなどのコレクションも。
そして柱という柱、壁の隙間という隙間には、これまたぎっちりと訪問者のサインが書かれていたり、名刺、手紙が貼り付けられています。
気をつけなければならないのは、ピーターさんは手紙や名刺をそのまま貼り付けてしまうこと。今のようにインターネットやスマホがなかった時代の素朴な慣習ですが、もし博物館に手紙を送る際には、住所や電話番号が出ないようにする工夫が必要かもしれません。
博物館に隣接して牧場があり、2頭のかわいいロバと、2匹の犬、そして猫がいます。運が良ければ、人懐こい彼らにも会えるかもしれません。
ピークの日程や時間以外は、とてものんびりとした時間が流れる場所でもあります。もしマン島を訪れることがあったら、ぜひ遊びに行ってみてください。
展示を眺めたあとは、カウンターの前でゆっくり紅茶やビスケットを楽しむことができますよ。
Writer: 小林ゆき(モーターサイクルジャーナリスト)
モーターサイクルジャーナリスト・ライダーとして、メディアへの出演や寄稿など精力的に活動中。バイクで日本一周、海外ツーリング経験も豊富。二輪専門誌「クラブマン」元編集部員。レースはライダーのほか、鈴鹿8耐ではチーム監督として参戦経験も。世界最古の公道バイクレース・マン島TTレースへは1996年から通い続けている。




























































