「カワサキだけ」無い!? ベテランライダーが口にする「レプリカ」って何? スーパースポーツと違う?
キャリアの長いライダーは、よく「レプリカ」という言葉を口にします。正しくは「レーサーレプリカ」のことで、なんとなくイメージはできますが、現代のスーパースポーツ車とは何が違うのでしょうか。
スーパースポーツと似てるけど異なる存在?
「レプリカ:Replica」とは、複製や複製品のことを指します。「レーサーレプリカ」をそのままの意味で捉えると「レーシングマシンの複製」になります。
しかし実際には複製ではなく、レーシングマシンによく似たスタイルだったり、レーシングマシンと同じ(または近しい)メカニズムや、それによって得られる性能を有したバイクのことになります。
そう聞くと、ジャンル的には現代のスーパースポーツ車とあまり変わらない気がしますが、なぜ「レプリカ」と呼ばれたのでしょうか?
その辺りは、レースのカテゴリーや変遷も関係していると思われます。

レプリカには「モチーフ」がある
レーサーレプリカは、レーシングマシンを模したスタイルやメカニズムを持つバイク、ということは、モチーフになるレーシングマシンが存在するわけです(今回はロードレースに絞って解説)。
ロードスポーツ車にとって速さは大きな魅力であり、そこを突き詰めればレーシングマシンに行きつき、その中でも特に速いのがメーカーが作成したワークスマシンやファクトリーマシンと呼ばれるものです。
また、多くのライダーがレースに参戦しやすくするために、メーカーがレース専用に作った市販バイク、いわゆる「市販レーサー」も、ワークスマシンには及びませんが、やはり公道用のバイクと比べたら速く走るために特化されており、そこに大きな魅力があります。
となると、スポーツバイクは「レーシングマシンに似ているほどエラい」という風潮が現れます。これはある意味、1960年代頃に英国で生まれた「カフェレーサー」の文化も近いかもしれません。
さて、日本が空前のバイクブームを迎えた1980年代の初頭頃は、世界GP(現在のMotoGPの前身)や全日本ロードレースに参戦するレーシングマシンはすでにフルカウル装備でしたが、日本メーカーが国内販売する市販車は、今で言うネイキッドのスタイルでした。
当時はカウル付きのバイクは「高性能=飛ばす=事故の増加や暴走族を助長する」という理由で、認可が下りなかったからです。
そんな時代ですが、ヤマハが1980年に発売した「RZ250」は、当時のバイク雑誌の記事で「レーサーレプリカ」と表現され、大人気を博しました。

「RZ250」はネイキッドスタイルなのでフルカウルを装備するワークスマシンの「YZR500」はもちろん、市販レーサーの「TZ250」とは一見してルックスこそ異なるものの、新開発の水冷2ストロークエンジンや、リア1本ショックのモノクロスサスペンションやフレーム構成などが「TZ250」に酷似していたからです。
「RZ250」は1977年から開発が始まり、当時の市販レーサー「TZ250」の最新技術が数多く投入されて俊足を誇ったので、カウルは非装備でしたがレーサーレプリカと呼ばれたわけです。
もちろん「RZ250」以前にもレーシングマシンの技術を投入したバイクは存在するので、ライダーの世代によっても、どれが「元祖レーサーレプリカ」なのかは変わると思われます。
ちなみに海外では、ドゥカティが1979年に発売した「900マイク・ヘイルウッド・レプリカ」が有名です。車名にレプリカと入っていますが、これは前年1978年のマン島TTで、マイク・ヘイルウッド選手が駆って劇的な優勝を収めたTT-F1マシンを模して、市販モデルの「900SS」をベースに作成されました。
当時はもちろん、現在でもマニアの間で高い人気を誇っています。
カウル認可でレプリカブームが沸騰!
1982年の中頃、ついに日本国内でカウリング装備が認可されるようになると、ロードスポーツ車の「レーサーレプリカ化」に一気に拍車がかかり、最初に登場したのがスズキの「RG250Γ」です。世界初のアルミフレームなど市販量産車では想像できない装備でした。

とはいえ当時のスズキは250ccクラスのレーシングマシンは存在せず、モチーフとしたのはWGP500に参戦するワークスマシンの「RGΓ500」でした。
さらにスズキは、1984年に「GSX-R」(400)、1985年に「GSX-R750」を発売しますが、こちらは1983年に世界耐久ロードレースで大活躍したスズキフランスの「GS1000R」がモチーフになっています。
とはいえ「GSX-R」(400)は排気量が全く違うし、「GSX-R750」は新開発の油冷4バルブエンジンなので、空冷2バルブの「GS1000R」と異なります。しかしスズキのイメージ戦略は大成功で、「RG250Γ」に続いて両車とも大人気を得ました。
そしてこの頃から、250ccクラスの2ストローク車はより高い戦闘力を発揮するために、選手権レースに参戦するワークスマシンや市販レーサーと同時開発するようになりました。
こうなると、単純にレーシングマシンを模しているワケでは無いので、レプリカと呼ぶのも正確ではない感もありますが、一般的にはレーサーレプリカと呼ばれていました。
また当時は4ストロークエンジンの400ccクラスの4気筒のスポーツモデルも、いわゆるネイキッドスタイルからフルカウル装備に移行して行きます。前出の「GSX-R」(400)が皮切りと言えますが、元々このクラスにモチーフとなるレーシングマシンがあったのではなく、高性能な400ccクラスの4ストローク車が多数登場したことで、これらのマシンをベースとするTT-F3などのレースが盛り上がった、という順番のようです。
その意味で考えると、レーサーのレプリカ(複製)ではないのですが、もはやレーシングマシンのようなフルカウルのルックス由来で、4ストロークの400ccクラスの4気筒スポーツ車もレーサーレプリカと呼んでいました。
レースも市販車がベースに
こうして1980年代中頃から爆発的に盛り上がった「レプリカブーム」ですが、高性能化に伴う車両価格の高騰や、カワサキの「ゼファー」の登場によって「ネイキッドブーム」へ移行した影響もあり、1990年代に入ってからは250~400ccクラスのレプリカ人気は徐々に薄まっていきます。
また750ccを超える大排気量レプリカにおいては、市販車ベースでも「排気量とクランクケース以外は何でもアリ」的な「TT-F1レギュレーション」から、1990年代にはベースの市販車からの改造範囲がかなり狭い「スーパーバイク」のレギュレーションに変わっていきます。そうなると、こちらもワークスマシンを模すのではなく、純粋にベースとなる市販車の性能を高める方向にシフトしました。

こうしてレーサーレプリカという呼び方(カテゴリー)は消えて行き、代わりにスーパーバイクレースのベースとなる市販バイクや、フルカウルを纏ったスポーツ度の高いバイクを総称して「スーパースポーツ」と呼ぶようになりました。
とはいえレーシングマシンのようなフルカウルを纏ったルックスや、スポーツ性能を優先したシャシーやエンジンなどの作りにおいては、レーサーレプリカもスーパースポーツも基本的に大きな違いはありません。
人気のレプリカ・カラー
車両の「生い立ち」としてのレーサーレプリカは姿を消してしまいましたが、レーシングマシンのカラーリングを模した「レプリカ・カラー」のバイクは、比較的近年でも登場しています。
たとえばホンダは、MotoGPに参戦するワークスマシンのカラーリングを施した「CBR1000RR」を幾度も限定販売しています。
またヤマハも2019年の「YZF-R25/R3」に、MotoGPワークスマシン「YZR-M1」イメージの「Monster Energy Yamaha MotoGP Edition」を限定発売しています。
これらはカラーを模した限定モデルであり、レーサーレプリカとは呼べませんが、じつは2015年にホンダから究極のレーサーレプリカとも言える「RC213V-S」が登場しています。
このバイクは2013年、2014年のMotoGPを連覇したワークスマシン「RC213V」と同様のメカニズム(公道仕様に則さない一部の構造は変更)や工作精度で仕上げながら、灯火類やミラーなどを装備して公道走行を可能にしました。
それだけに車両価格も2190万円と群を抜くプライスが付きました。かなり別格な存在なので、レプリカと呼ぶのは申し訳ない気もしますが、正しい意味で「複製」と呼べると感じます。
バイクの魅力は様々ですが、憧れのレーシングマシンにルックスや性能が似ていることに大きな魅力を感じるライダーも少なくないでしょう。
とくにバイクが日々進化していたバイクブーム真っ盛りの1980年代頃ならなおさらで、その意味でも「レーサーレプリカ」の呼称には、どこか懐かしさを感じさせます。
Writer: 伊藤康司
二輪専門誌『ライダースクラブ』に在籍した後(~2005年)、フリーランスの二輪ライターとして活動中。メカニズムに長け、旧車から最新テクノロジー、国内外を問わず広い守備範囲でバイクを探求。機械好きが高じてメンテナンスやカスタム、レストアにいそしみ、イベントレース等のメカニックも担当する。













