エンジンの中は“猛烈”に過酷!? オイルは大切(大変)!! その理由(ワケ)とは
エンジンオイルは昔から「血液」と呼ばれるほど重要です。なぜなら動いているエンジンの猛烈に過酷な環境の中で様々な役目を追っているからです。具体的にどれくらい過酷なのでしょうか?
「耳タコ」だけど「エンジンオイルは血液」
エンジンオイルの役目といえば、まずはエンジン内部で擦れ合う部品の「潤滑」ですが、その他にも汚れを吸着する「洗浄」や、金属部品がサビないための「防錆」、爆発(燃焼)で生じた熱を吸収する「冷却」や、エネルギーを逃がさないための「密閉」など、多くの役割を持っています。
そのため、どんなに優れた設計や高価な素材で作られたエンジンでも、エンジンオイルが無ければ性能を発揮するどころか簡単に壊れてしまいます。これがエンジンオイルは「バイクの血液」と呼ばれる所以でしょう。
エンジンオイルが仕事をしているエンジンの中がどれくらい凄い状況なのか、パワーを生み出す源のピストンやシリンダーを中心に検証してみましょう。
猛烈に熱いなか狭い隙間でスゴイ勢いで擦れ合うピストンとシリンダー
バイクのエンジン(内燃機関)は、ガソリンと空気の混合ガスを燃焼室に吸い込んで、ピストンで圧縮したところに点火プラグで火花を飛ばして燃焼(爆発)させてパワーを生み出します。

まずは燃焼室内の温度ですが、爆発時にはおおむね2000℃くらいになります。とはいえピストンやシリンダーは爆発の火炎との間にある空気の層(断熱境界層)に守られるため、ピストンの頭頂部で300~400℃くらい、ピストンの側面やシリンダーの壁は140~250℃くらいの温度になります。
燃焼温度の2000℃よりはずいぶん低いですが、エンジンが稼働している間は常にこれくらいの高温になっています。
そして混合ガスの爆発した圧力を逃がさないように、ピストンとシリンダーの隙間(ピストンクリアランス)は非常に狭く作られています。
エンジンの種類で若干異なりますが、空冷エンジンだと5/100~7/100mm(0.05~0.07mm)くらいで、水冷エンジンだと3/100mm(0.03mm)くらいです。
そう聞くと「すごく狭いんだろうな……」とは感じるものの、ピンとこないでしょう。例えば一般的なコピー用紙の厚さは0.09mm前後で、人間の髪の毛の太さは0.07~0.08mm(日本人の平均)です。
しかもピストンにはシリンダーと密閉するためのピストンリングが嵌っています。要するにコピー用紙や髪の毛よりも狭い隙間に塗布されたエンジンオイルが、常に擦れ合っているピストンリングとシリンダーを高温下で潤滑しているワケです。
それではどれくらいの「勢い」で擦れ合っているのでしょうか? これは少々専門的ですが「ピストンスピード」という用語があります。
読んで字のごとくピストンが動くスピードのことで、エンジンの種類や回転数によって変わってきますが、以下の簡単な計算式で求められます。
【ピストンスピード(m/s)=回転数(rpm)÷60×ストローク(m)×2】
たとえばホンダの「レブル250」で、最高出力を発揮する9500rpmまでエンジンを回している時のピストンスピードは17.4m/sになります。「1秒間に17.4m」動く、と言われてもピンときませんが、時速に換算すると約62km/hになります。
ちなみに、この計算で導き出せるのは、正しくは「平均ピストンスピード」です。エンジンのピストンは上下運動をしているので、いちばん上(上死点)といちばん下にいる時は速度がゼロになります。
そのため、爆発の圧力でピストンが上死点から押し下げられて、クランクシャフトが80度くらい回転した辺りが「最高ピストンスピード」になり、おおむね平均ピストンスピードの約1.5倍の速さになるそうです。
すると、仮に「レブル250」をアクセル全開(9500rpm)で走らせると、最高ピストンスピードは約93km/hになります。
ということは、シリンダーとピストンリングは時速60~90キロくらいで擦れ合ってることになり、もしエンジンオイルで潤滑していなければ、すぐに摩耗して擦り減ってしまう……ではなく、あっという間にピストンがシリンダーに焼き付いてエンジンが壊れてしまいます。
エンジン内は金属パーツのせめぎ合い!
エンジンの潤滑の中で、ピストンとシリンダーは代表的な部分ですが、他にもシリンダーヘッドの中ではカムシャフトが高速で回転して吸気バルブや排気バルブを押し下げているので、当然ながらカムシャフトの軸受けやバルブと接する部分の潤滑が必要です。そして吸排気バルブと、それを支えるバルブガイドも潤滑しています。

また、クランクケースの中では爆発(燃焼)で押し下げられるピストンとクランクシャフトを連結するコンロッドや、クランクシャフトの軸受けには大きな力が加わるので、やはり潤滑する必要があります。
現行バイクの多くは(ハーレーダビッドソンの一部を除けば)、変速機(トランスミッション)がクランクケースと一体になったエンジンケース内に収められており、トランスミッションのギアもエンジンオイルが潤滑しています。
これらのどの部分も、ピストンの頭頂部ほどではありませんが、燃焼(爆発)の熱が伝わってくるので常に高温です。またトランスミッションのギアが噛み合う部分などには、強い力が加わっています。そんな環境下でもエンジンオイルが役目を果たしてくれるからエンジンは動くことができるわけで、エンジンオイルが無ければあっという間に壊れてしまいます。
あまり減らないけれどチェックと交換は必須
近年の4ストロークエンジンは、こんなにも過酷な状況にも関わらず、エンジンオイルの消費はかなり少なく、目に見えて減るようなことはありません。
とはいえ、エンジンが何らかのトラブル(“オイル上がり”や“オイル下がり”、またはエンジンケースの破損などによるオイル漏れなど)を抱えると、エンジンオイル量が急劇に減少することはあります。
エンジンオイルが規定量より減ると、オイルポンプがエンジンオイルを吸い上げられなくなるため「油圧」が低下します。するとメーター内のエンジンオイル警告灯が点灯します(4ストロークエンジン車の場合)。
ただし、エンジンオイルの油圧を監視しているセンサーは、エンジン底部のオイルパン付近に設置されている場合が多く、じつはエンジンオイル警告灯が点灯した時点では、すでにエンジンオイルの量がかなり減少しているため、エンジン上部のシリンダーヘッドなどに十分にエンジンオイルが送られていない(=何らかのダメージを受けている)……という可能性もあります。
というワケで「ほとんど減らない」エンジンオイルですが、日常的にオイルの量のチェックを行うように心がけることが大切です。とくにツーリングなど、ある程度距離を走る時は、出発前に毎回チェックすることをオススメします。
また量が十分であっても、エンジンオイルは走行距離や時間の経過で徐々に「劣化」するため、油膜切れを起こすなど潤滑性能が低下します。なのでバイクメーカーが指定する走行距離を守って、オイル交換することが必須です(もっと短いサイクルでもOK)。それくらいエンジンオイルは大切な存在なのです!
Writer: 伊藤康司
二輪専門誌『ライダースクラブ』に在籍した後(~2005年)、フリーランスの二輪ライターとして活動中。メカニズムに長け、旧車から最新テクノロジー、国内外を問わず広い守備範囲でバイクを探求。機械好きが高じてメンテナンスやカスタム、レストアにいそしみ、イベントレース等のメカニックも担当する。









