カワサキ新型「KLX230」「KLX230R」は、誰もが気軽にダートを楽しめるオフ車のスタンダードモデル

気がつけば、ラインナップから姿を消してしまっていたカワサキのナンバー付きオフロードモデル。かつてはエンデューロブームを牽引した「KDX」、闘う4スト「KLX」、そのもっと前なら「KMX」という具合に、排気量を問わず、カワサキのトレールバイクは欠かせないカテゴリーでした。まさに待望の復活です。

フレンドリーでやさしい味付け

 トコトコと歩くようなスピードでも走れて、過激ではないスタンダードに位置づけするナンバー付きオフロード車。これが新車で買えるようになったのは、朗報でしかありません。

カワサキ新型「KLX230(2020年型)」に試乗する筆者(青木タカオ)

 各社のトレールモデルが姿を消し、中古車市場で昔のものがけっこうな値を付けて取引されている現状を考えると、ユーザーから熱望されていたことがわかります。

 気負わず長く付き合えるキャラクターなのも嬉しいかぎりです。かつての水冷4バルブエンジンを積む「KLX250」は、2016年のファイナルエディションをもって生産終了となっていますが、「KLX230」はそのリニューアル版ではなく、もっとフレンドリーでやさしいモデルです。

「KLX250」のように車体は大柄ではなく、ひとまわり小さい。とくに1999年式までは高回転までギャンギャン回して、2スト勢に対抗するスペックを持ち合わせ、それも上級者たちには好評でしたが、ビギナーにはダートで持て余しがち。

 今回の「KLX230」では、基本コンセプトを「誰もがオフロードライディングを楽しめる」としていて、乗ればすぐに扱いやすいと感じるのでした。

カワサキ新型「KLX230(2020年型)」

 ユーザーフレンドリーなオフ車となると、シート高を優先してショック長が短く、肝心のダート走破性がイマイチとなりがちですが、インナーチューブ径37mmの正立フォークは220mm、プリロード調整機構付きのモノショックは223mmのストローク量が確保され、オフロード性能も侮れません。

 シート高は885mmと高めですが、カカトまでベッタリと足が届いてしまうと、オフ車らしいカッコ良さがなくなってしまうと感じる筆者(青木タカオ)は、このくらいは大歓迎。車体は軽いので取り回しに苦労はしません。ツマ先立ちで乗る姿を優先したい筆者のような人には、このシート高で不満はないはずです。

 空冷4ストローク、排気量232ccの単気筒SOHC2バルブエンジンは完全なる新作で、67.0×66.0mmはトルクを重視したボア×ストローク比とし、低中回転域から粘り強く力を引き出します。スロットルボディ径32mmのフューエルインジェクションが緻密なスロットル制御を実現し、イメージ通りにコントロールできるパワーユニットです。

 開発責任者である和田浩行さん(川崎重工 技術本部 第二設計部)によると「信頼性と整備性を重視しました」とのこと。「より幅広い人にオフロードを楽しんでもらいたい」という願いもあって、穏やかな出力特性のSOHC2バルブが選ばれています。

双子の“R”が走りの次元を高めた

 オフロード性能も充分。それは一卵性双生児の「KLX230R」(※公道走行不可)の存在があるからです。

カワサキ新型「KLX230R(2020年型)」に試乗する筆者(青木タカオ)

 2つのモデルは同時に開発され、エンジンは基本設計と同一としながらバランサーシャフトを省略。灯火器類が備わっていないだけでなく、可倒式チェンジペダルを採用するなど、純粋にダートライディングが楽しめるよう仕上がっています。

 ホイールベースも「KLX230」より20mm短縮され、リアのホイールトラベルは251mmと長い。スイングームもアルミ製にグレードアップされ、バネ下の軽量化が図られています。オフロードを走れば、足まわりの動きがスムーズで頼もしくなった印象です。

 ホイールサイズは両モデルともフロント21インチ、リア18インチのオフロード走行に適したもの。

 車重は20kg近く軽い115kgで、当然ながらワンランク上のライディングが楽しめて、ダートで遊ぶのに夢中になってしまうではありませんか。スロットルレスポンスもシャープになり、装着タイヤもオフロード向き。燃料タンクは軽量な樹脂製で、容量は「KLX230」より0.9リットル少ない6.5リットルとなります。

 ただしイージーさは変わらず、モトクロッサーやエンデューロ競技車のような気難しさはまったくありません。ダート初心者にも最適なファンバイクになっていて、あくまでも入門用ということも、誤解を招かないよう付け加えておきましょう。

 ジャンプなどの立体的な動きに対応していないことは言うまでもありませんが、このセグメントにしてはかなりの戦闘力を持ち合わせいるのです。

カワサキ新型「KLX230R(2020年型)」※公道走行不可

 始動は両モデルともセルボタンで一発なのもありがたいところ。車体がさほど大きくないから、スタックをおそれず奥深く入っていけるのも楽しさの秘訣になっています。

 雨上がりのフィールドで、ヌタヌタになったところに入って身動きが取れなくなってしまいましたが、それでも楽しいと笑っていられるのは、始動性に優れ、車体がコンパクトだからでしょう。

 どんな姿勢であってもエンジンはすぐにかかるし、脱出するのに疲れてしまったらサイドスタンドを立てて一休みすればいい。これはナンバー付きの「KLX230」でも同じです。

林道ツーリングへ出掛けたくなる

「KLX230」では街乗りやツーリングも想定したモデルということで、舗装路も走り込みました。

舗装路でも軽快な走りを体感できるカワサキ新型「KLX230(2020年型)」

 軽快なハンドリングでワインディングもすばしっこい。排気量を考えれば無理もありませんが、急坂のある上りはエンジンを高回転まで引っ張り上げなければなりません。最高出力19PSを発揮するのは7600回転あたりで、SOHC2バルブながら高回転域でもジンワリと力をふり絞ります。

 下りは軽い車体とクセのないステアリングフィールを活かしてスイスイ走り、ツーリングもそつなくこなすでしょう。IRC製のタイヤ「GP-22」もオールラウンドな「KLX230」にマッチし、速度が上がっても安定性に欠けるなんてことがありません。

 試乗を終えて思うのは、出来の良いトレール車が登場したな、ということです。メインステージである舗装路での走りをしっかり想定しつつ、ダートでの走破性も期待以上。冒頭に述べたとおり、待ち焦がれていたオフ車好きには待望の復活と言えるでしょう。

「KLX230」は2019年10月15日より発売となり、価格(消費税10%込み)は49万5000円、2019年10月1日より発売の「KLX230R」は51万7000円です。カラーバリエーションは「KLX230」がライムグリーンとエボニーの2色設定、「KLX230R」はライムグリーンのみとなっています。

【了】

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Writer: 青木タカオ(モーターサイクルジャーナリスト)

バイク専門誌編集部員を経て、二輪ジャーナリストに転身。自らのモトクロスレース活動や、多くの専門誌への試乗インプレッション寄稿で得た経験をもとにした独自の視点とともに、ビギナーの目線に絶えず立ち返ってわかりやすく解説。休日にバイクを楽しむ等身大のライダーそのものの感覚が幅広く支持され、現在多数のバイク専門誌、一般総合誌、WEBメディアで執筆中。バイク技術関連著書もある。

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