新型コロナ影響 世界最古の公道を利用したロードレース「マン島TT」2020年中止を発表
1907年から続く、公道を利用した世界最古のロードレース「マン島TT」は、毎年5月末から6月初旬にかけて開催されています。2020年は新型コロナウイルスの影響で中止が発表されました。
マン島TTレースも新型コロナウイルスの影響で中止に
2020年3月16日、マン島政府は新型コロナウイルスの影響で2020年の「マン島TTレース(Isle of Man TT Races)」中止を発表しました。

マン島ではまだ感染者は見つかっていませんが(2020年3月19日時点)、TTレースが中止になるのは第一次・第二次世界大戦を除くと、2001年の口蹄疫問題以来19年ぶり2度目です。
マン島はグレートブリテン島とアイルランド島の間にある島で、人口は約8万人、淡路島ほどの大きさの、UKには属さない独立地域です。
TTレースは1907年から続く世界最古のモーターサイクルレースで、現在も1周60kmの公道を閉鎖して行う公道レースとして開催しています。
マン島はモーターサイクルの聖地、TTレースはモータースポーツの中心地とも呼ばれ、毎年5月末から6月はじめのTTウィーク2週間に、世界中から4万から5万人ものTTファンが集まります。
TTの知名度はオリンピックやFIFAワールドカップに匹敵するとも言われるほど高く、マン島の重要な観光資源であるとともに、テレビ放映料やゲーム、映画、公式ウエアやグッズなどの権利料にもつながっています。

2019年は約4万6000人の観客が訪れ、3750万ポンド(1ポンド140円換算で約52億5000万円)を支出したといいます。
今回のTT中止決定の背景にはいくつかの理由があります。
・マン島には大きな病院がひとつしかなく、レースと同時に新型コロナウイルスへの対応は不可能
・先進医療や救急の場合、リバプールなど島外の病院を利用する患者も多いが、主要な航路を持っていた航空会社Flybeが3月5日に倒産し、すでに混乱が起きている
・1周60kmの公道コースの安全を見守るマーシャル(=コースオフィシャル)やドクターマーシャルなどは、島外からも含めて1000人以上のボランティア参加を必要とするが、確保するのが極めて難しくなった
・延期するなら夏の「マンクスグランプリ」(略称MGP)との併催が考えられるが、すでに「クラシックTT」というテイストオブツクバのマン島バージョンのようなレースが併催になっており、スケジュールがいっぱいで不可能
これらの理由が重なり、早めに中止の判断を下したようです。

TTレースの前哨戦とも言える北アイルランドの公道レース「ノースウエスト200」(略称NW200)も延期を発表しました。公道レースが盛んなアイルランドではNW200のほか「クックスタウン100」「タンドラジー100」の各レースイベントが延期になっています。
また、TTウィークの前後にマン島の別の公道コースで行われる「プレTTクラシック」と「ポストTT」も中止になりました。

2020年のTTレースは、現役最多勝利を誇るレジェンドライダー、ジョン・マクギネス選手のカワサキ系チームへの移籍や、マクギネス選手に迫る勝利数歴代3位のマイケル・ダンロップ選手のドゥカティ「パニガーレV4R」起用など話題に事欠かなかっただけに、中止の報は残念でなりません。
【了】
Writer: 小林ゆき(モーターサイクルジャーナリスト)
モーターサイクルジャーナリスト・ライダーとして、メディアへの出演や寄稿など精力的に活動中。バイクで日本一周、海外ツーリング経験も豊富。二輪専門誌「クラブマン」元編集部員。レースはライダーのほか、鈴鹿8耐ではチーム監督として参戦経験も。世界最古の公道バイクレース・マン島TTレースへは1996年から通い続けている。