バイクって、ちょっとかっこいいなと思う瞬間がある ~木下隆之の、またがっちゃいましたVol.63~

レーシングドライバーの木下隆之さんの目には、バイクに乗る人の所作や動きがかっこ良く映る瞬間があると言います。どういうことなのでしょうか?

バイクに乗る動作は、すべてが露わになっている

 ある日の陽射しの和らいだ夕方のこと、東京青山の街路樹が豊かな並木道の歩道の片隅に、ライダー3人がたむろしていた。それぞれのバイクを眺めながら、バイク談議に話を咲かせているのは明らかだ。エンジンを指さしたり、ヘルメットを撫でたりしていたからだ。

ちなみに、青山通りから表参道へ入ると、両側に二輪車路上パーキング(二輪車用パーキングチケット)が34台分設置されている

 向かいの喫茶店にいた僕(筆者:木下隆之)からは、会話の中身を耳にすることはできない。だが、3人はバイク仲間であり、気のおけない関係であることは想像ができた。

 1人はサイドスタンドを立てたバイクに腰掛け、他の2人は歩道のガードレールに体を預けている。なんとはなしに話題を取り囲んでいるその空気感が素敵だった。

 かつて僕がよく目にした暴走族の下品なたむろとは異なり、そうではない(むしろ大多数の)バイク乗りの所作は粋でもある。その様子を向かいの喫茶店からストーカーの如く観察している自分は粋とは無縁で不気味でもある。 

 およそ30分が過ぎた頃、思い立ったように3人は走り出した。あらかじめ時間が決められていたのか、何かの用事ができたのかはわからなかった。だが、3人が戦闘態勢に入るかのようにして走り去って行き、その所作がたまらなく素敵だったのだ。華麗なライディングの様子は、いまだに目に焼き付いている。

 バイクをベンチ代わりに、斜(はす)に腰掛けていたライダーがおもむろにヘルメットを被った。顎紐を慣れた手つきで締めると、ちょっと使い込んだ感のあるグローブをスルスルッと手にはめた。

 すると、あまりにもあっけなく走り出した。いつサイドスタンドをたたんだのか? というよりバイクに跨らずに、斜に腰掛けたままの姿勢でセルスターターを押し、エンジンが目覚めるや否や、そのまま走り出したのだ。

 目で追う僕の視界のなかで、バイクが小さくなっていく。その頃になってようやく大きく右足を跳ね上げ、バイクに跨った姿を確認できた。いつギアをエンゲージしたのかさえわからなかった。その一連の所作がスマートだった。もちろん、これは僕が見たままの率直な印象であり、その動作を推奨するつもりはまったくないことをご理解いただきたい。ただ、そのシーンに見とれてしまっただけなのだ。

『BMW Team Studie』のレーシングドライバーを務める筆者(木下隆之)。コックピットに収まりドライビング操作を見られることはまず無い

 バイクは操縦する者の身体がむき出しだ。だからこそ、ライディングではすべてが露わになる。コックピットに収まり、ドライビング操作が見えないクルマとは異なる。バイクって、ちょっとかっこいいな、って思った瞬間だ。

【了】

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Writer: 木下隆之

1960年5月5日生まれ。明治学院大学卒業後、出版社編集部勤務し独立。プロレーシングドライバーとして全日本選手権レースで優勝するなど国内外のトップカテゴリーで活躍。スーパー耐久レースでは5度のチャンピオン獲得。最多勝記録更新中。ニュルブルクリンク24時間レースでも優勝。自動車評論家としても活動。日本カーオブザイヤー選考委員。日本ボートオブザイヤー選考委員。

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