【GSX-RRの進化 エンジン・空力編】コーナリング性能を求めて直列4気筒を選択。コントロール性に徹底してこだわる開発方針

 最高峰クラス2年目のジョアン・ミルがライダーズタイトル、チーム・スズキ・エクスターがチームタイトルを獲得し、混乱の2020年シーズンを制したスズキ・ファクトリーは、他のメーカーに比べて少ない予算の中で、“ステップ・バイ・ステップ”のやり方で頂点にたどり着いた。

 前回の車体編に引き続き、今回はエンジン・空力に的を絞り、進化のプロセスを見ていこう。

不等間隔爆発と逆回転クランクが採用された直列4気筒エンジン

 参戦休止前の2011年まで使われたGSV-Rは、2000年にケニー・ロバーツ・ジュニアがタイトルを獲得した、2サイクル500ccのRGV-ガンマの車体におよそ2倍の排気量を持つ4サイクルエンジンを積むことを初期コンセプトに開発が進められた。

2004年型GSV-Rを駆るケニー・ロバーツ・ジュニア

 だが、GSX-RRはその名が示す通り、市販車のフラッグシップ、GSX-Rと同じ直列4気筒を選択。ヤマハが先鞭をつけ、トラクション性能やタイヤの耐摩耗性能にメリットがあるとされる不等間隔爆発、タイヤの回転方向と反対にクランクを回すことでハンドリングを軽快にし、ウィリーを抑える効果もある逆回転クランクが採用され、エンジンの横幅は、V4とほぼ同寸法に収められた。

 アクラポビッチ製エキゾーストシステムの集合方式は、中低速域でのパワー特性を重視した4-2-1。スポット参戦した2014年最終戦仕様から2016年までは微妙に形状を変えながらも短めのメガホンタイプとされた。

2016年まで微妙に形状を変えながらアクラポビッチ製エキゾーストシステムは4-2-1の集合方式を採用した(写真:2016年型)

 フル参戦再開初年度となる2015年の第7戦カタルニアGPには、ニュースペックのエンジンを投入。1ランク柔らかいタイヤを使える優遇措置を受けた中ではあったが、アレイシ・エスパルガロがポールポジションを獲得し、当時ルーキーのマーベリック・ビニャーレスも2番手と続いた。

 常に駆動力がかかり続け、ごくわずかな空走時間を削ることで、コーナー脱出からの加速、最高速の伸びに効果を及ぼすシームレス・トランスミッションを搭載した2016年は、第12戦イギリスGPでビニャーレスが初優勝。計4回表彰台に登壇するなど、トップを狙えるスピードを徐々に発揮し始めた。

 前年の活躍によって、シーズン中のエンジン開発が認められる優遇措置を失った2017年は、開幕前に仕様を選択したトップエンドのパワーを重視したエンジンのコントロール性がもうひとつで、2016年より成績を落とすこととなってしまった。

エキゾーストパイプの長さが伸ばされた2018年型GSX-RR

 フリクションロスの低減など、内部パーツの改良により毎年進化を遂げていたパワーユニットに、見た目上の大きな変化が見られたのは2018年。エキゾーストパイプの長さが伸ばされた。フレアタイプになり、斜めにカットされたエンド部分は、六角形のハニカム構造のパーツによりふさがれた。

2019年型は、エキゾーストエンドが2本に分かれたタイプに形状を変更した(MotoGP第12戦イギリスGP優勝車両)

 アレックス・リンスが第3戦アメリカズGP、第12戦イギリスGPで優勝した2019年のエキゾーストは、エンドが2本に分かれたタイプに形状を変更し、パワー特性の最適化が図られた。エンジン本体も事前にベンチテストでパワーが出ていたものではなく、実戦を走るライダーたちのコメントを重視してコントロール性に優れた仕様を1カ月ほどで急きょ開発し、シーズンの開幕に間に合わせた。

 ちなみにエンジンのコントロール性に徹底してこだわるスズキは、復帰当初から排気デバイスを採用しているようだ。

2000年型のGSX-RRでヘレステストに参加したジョアン・ミル

 2020年のエンジンは、オイルの点検窓がひとつからふたつに増えた程度にしか外観上の違いはないが、内部パーツの細かな改良によりさらに進化。事前にバレンシアとヘレスでテストしたミル、リンスは、トップエンドでのパワー、パワー特性の両方に納得の表情を浮かべたという。

“口ひげ”タイプからコの字タイプへと進化したウィングレット

 見た目上の変化が最もわかりやすいのは、フェアリングや空力付加パーツだろう。

 2015年もシーズン中にカウル形状が変更されたが、エアロダイナミクスが本格的に注目され始めた2016年には、2種類の空力付加パーツを投入した。いずれもマシン正面のエアインテーク両サイドにウィングレット、サイドカウルに2枚のフィン(両サイドで計4枚)を装着したもので、シーズン後半に登場したタイプは、ウィングレットを大型化し、迎角をつけることで、より多くのダウンフォースを発生した。

2016年シーズン途中から2種類の空力付加パーツを投入した

 ボディーワークから飛び出した空力付加パーツが禁止された2017年は、レースによって複数のタイプを装着したが、“口ひげ”のようにウィングレットが垂れ下がり、下端で内側に弧を描くU字タイプへと落ち着いた。また、この年より元から空力的に優れた、スリムなシートカウル両脇の内側を空気が抜けるようにインテーク及びスリットが設けられた。

ウィングレットとサイドカウルのフィンをつなげた2018年型

 2018年のカウルは、ウィングレットとサイドカウルのフィンをつなげた2017年のドゥカティに近いデザインを採用。シーズン序盤は、サイドカウルに大きく描かれた“SUZUKI”の文字にかからないサイズだったが、シーズン終盤には、ツインリンクもてぎなど、より大きなダウンフォースを必要とするサーキット向けに“SUZUKI”に半分ほどかかる大型のタイプも持ち込まれた。

第10戦チェコGPでホンダに似たコの字タイプのウィングレットが登場

 2019年は、2種類のウィングレットを使用した。序盤は前年タイプを改良し、垂れ角をより大きくしたようなデザインだったが、第10戦チェコGPでホンダに似たコの字タイプが登場。その後、シーズンを通して使われた。加えてドゥカティが持ち込んだ、スイングアーム下に取り付けられる通称『スプーン』も採用された。このパーツはリアタイヤの冷却だけでなく、ダウンフォースを発生し、前後の空力バランスを整える役割があると考えられている。

2019年型に近い形状のウィングレットを採用した2020年型(写真:MotoGPセパンテスト)

 2020年2月のセパンでのテストでは、サイドカウルにもう1対、小さなコの字型ウィングレットを追加したフェアリングも試されたが、2019年に近い形状のカウルとウィングレットで十分と判断。2020年を戦い、栄冠へと輝いた。

 2017年にエンジン仕様の選択が外れるなど、必ずしもスズキのMotoGPプロジェクトは順風満帆だったとはいえない。しかし、“小さなことからコツコツと”の精神が功を奏し、世界GP参戦60周年、創業100周年を迎えた2020年シーズンは、大きな果実を得ることができた。マルク・マルケス不在により未勝利に終わったホンダ、好スタートを切りながら失速したヤマハ、新しいミシュラン・タイヤとの相性に苦しんだドゥカティ……これらのチームの挽回も見物だが、GSX-RRの進化からこれからも目が離せない。

【了】

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Writer: 井出ナオト

ロードレース専門誌時代にMotoGP、鈴鹿8耐、全日本ロードレース選手権などを精力的に取材。エンターテインメント系フリーペーパーの編集等を経て、現在はフリーランスとして各種媒体に寄稿している。ハンドリングに感銘を受けたヤマハFZ750がバイクの評価基準で、現在はスズキGSX-R1000とベスパLX150を所有する。
Twitter:@naoto_ide

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