カワサキ「Ninja ZX-10R」6年連続スーパーバイク制覇を果たす10Rの最新モデルはコーナリングの基本に則った特性

カワサキは愛知県のスパ西浦モーターパークにおいて「カワサキプラザスタッフ向けNinja Team Green Cup講習会」を開催しました。そこでは新型の「Ninja ZX-10R」が展示されるとともに、コース使用の合間を縫って新型10Rを走らせることができました。ここではジャーナリストの和歌山利宏さんが新型モデルのハンドリングやコーナリング性能について解析します。

無敵の強さを誇るJ・レイ×10Rのパッケージ

 カワサキ「Ninja ZX-10R」(以下:10R)のハンドリングには、ライバルマシンとは一線を画す特徴があります。そのハンドリング特性が、スーパーバイク世界選手権における6年連続チャンピオンの「ジョナサン・レイ」のライディングスタイルともマッチングし、無敵の強さを発揮していると考えて差し支えないでしょう。だからと言って、10Rがレイ専用マシンであるというわけではありません(※レースでは上位グレードの10RRを使用)。あくまでもコーナリングの基本に則ったものであり、レイはその特徴を生かし切っているということなのです。

カワサキ「Ninja ZX-10R」最新モデルに試乗する筆者(和歌山利宏)

 ですから、10Rに乗るライダーはそのことを知ったうえでライディングに取り組めば上達も早いと思いますし、さらに言えば、空力性能を高めた新型10Rは、そうした持ち味を体感しやすくなっています。コーナーでマシンが抵抗なく軽快に素直に振る舞ってくれるおかげで、特性を感じ取りやすいのです。

 ここではまず、コーナリングのセオリーというものについてお話ししましょう。安全で速いコーナリングを実現するには、ただ、寝かし込めばいいというものではありません。1次旋回で舵角を入れ、2次旋回でフルバンクに向かって寝かし込むことになります。

カワサキ「Ninja ZX-10R」最新モデルに試乗する筆者(和歌山利宏)。1次旋回(左)で舵角を入れ、2次旋回(右)でフルバンクに向かって寝かし込んでいきます

 この身体操作は、ゴルフのスイングや野球のピンチングなど、多くのスポーツに通じるもので、最初に骨盤が動いてダウンスイングするのが1次旋回、上体がしなるように追随していくフォロースルーが2次旋回に相当します。両者の間にはタメを入れてインパクトするタイミングがあるのですが、これがいわゆる1.5次旋回とも呼ばれ、舵角を入れるタイミングになります。つまり、「グイーッ・ウッ・グイーッ」というリズムになるのです。

コーナリングのリズムにシンクロしやすいNinja ZX-10Rの車体構成

 そこで次に、10Rの車体構成に注目してみましょう。実は、エンジンのクランク軸が前方低めにあるのに対し、エンジン重心は高めに設定されており、こうしたコーナリングのリズムにシンクロしやすくなっているのです。

カワサキ「Ninja ZX-10R」最新モデル。クランク軸が前方低めにあるのに対し、エンジン重心は高めに設定されています

 1次旋回においてバイクは、後輪の接地点を基準にフロント回りが扇形を描くような運動を見せます。そこでは、前方低めに置かれたクランク軸のジャイロ効果がそうした運動や挙動に抵抗を与えてくれます。そのことによる寝かし込みにくさを利用して、舵角を入れやすくなるというわけです。

 続く2次旋回では地表を軸にマシンがリーンしていくことになりますが、そこでは高めの重心によって倒し込みやすく、マシンにストレスを与えることなくフルバンクを目指せることになります。

 こうした特性が、1次旋回と2次旋回の組み立てが明確なレイのライディングスタイルに合っているのです。でも、こうした乗り方をしなかったら、初期に寝かし込みにくいわりに、中間バンクから急激に倒れ込むことになり、怖い思いをすることになりかねないでしょう。

カワサキ「Ninja ZX-10RR」で6年連続チャンピオンを獲得しているジョナサン・レイ選手。1次旋回と2次旋回の組み立てが明確なライディングスタイルと10Rのマッチングは言わずもがな。見事な結果をのこしています

 すると、10Rのハンドリングはクセがあって、サーキット指向が強いと思われるかもしれませんが、決してそんなことはありません。ワインディングでは2次旋回で中間バンクまでの自然に軽快に寝ていく領域を使って、リズミカルに楽しむことができるのです。

 さて、こうした特性の10Rとは、対極的なハンドリング特性を狙ったと思われるマシンも存在します。それは、CBR1000RR-Rファイヤーブレードです。10Rとは対照的にクランク軸は後方高めにあって、エンジン重心は低めにあると私(筆者:和歌山利宏)は見ています。

ホンダ「CBR1000RR-Rファイヤーブレード」

 CBRにはまだ試乗したことがないのですが、そうした車両構成から、寝かし込みは軽快で、フルバンクに至るまでリニアなリーン特性が実現されているのではないかと推測しています。10Rの強さに注目したホンダがその欠点を分析、10Rとは真逆の方法論で戦闘能力を追究したのではないかと邪推したくなるほどです。

 そうした意味でもスーパーバイク選手権からは目が離せそうにありませんし、一般ライダーにとってマシンチョイスへの興味は、ますます尽きないものになりそうではありませんか。

【了】

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Writer: 和歌山利宏

1954年2月18日滋賀県大津市生まれ。1975年ヤマハ発動機(株)入社。ロードスポーツ車の開発テストにたずさわる。また自らレース活動を始め、1979年国際A級昇格。1982年より契約ライダーとして、また車体デザイナーとして「XJ750」ベースのF-1マシンの開発にあたり、その後、タイヤ開発のテストライダーとなる。現在は、フリーのジャーナリストとしてバイクの理想を求めて活躍中。

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