鷹揚にして豪快「ハーレー・ダビッドソン」が放つ“頼れる感” ~木下隆之の、またがっちゃいましたVol.93~
レーシングドライバーの木下隆之さんは、ハーレー・ダビッドソンの魅力に興味を持ち、これはすがりたくなっているのでは? と言います。どういうことなのでしょうか?
変わらず堂々とした存在感に、すがる気になる……
やっぱり大型バイクと言えばハーレー・ダビッドソン、という短絡的な発想で“またがっちゃいました”してみたけれど、鷹揚にして豪快なオーラに対峙して、僕(筆者:木下隆之)は「こりゃどうにもならないね」と白旗を上げたくなった。

またがってみたのは最新の「Iron 883(アイアン883)」だ。自分がまたがる姿を俯瞰で想像してうっとり。編集長に撮ってもらった画像を友人へ自慢げに転送したら、速攻で返信の連打に襲われた。
「スポスタね」
「重いっしょ」
「かっこいいね」
「ラバーマウントね」
「カスタムは?」
バイク素人の僕には、魑魅魍魎とした呪文にしか見えないコメントの応酬なのである。なんでみんな、言葉を省略したがるのか?
「スポスタ」とはスポーツスターの略である。「重いっしょ」は実質的な車重のことではなく、取り回しの重量感のことだ。「かっこいいね」はバイクのことであり、それにまたがる僕のことではないことはわかる。「ラバーマウントね」はエンジンを支持するフレームにラバーを介しているとのことだ。これがV型2気筒の振動をかなり吸収するのだという。ハーレー教の教典に記されているに違いない言葉の数々なのであろう。
そんな神聖な乗り物なのに、「カスタムは?」という。聞けばハーレーは、自らの好みに育ててこそ粋な乗り物だというから腰を抜かしかける。オリジナルの状態ではなく、オーナーがカスタムすることでハーレーは輝きを増すというのだ。頭が混乱する。神聖な教典を誤訳しイタズラ書きしていいなんて話は聞いたことがない。ますますハーレーという孤高の存在と、心酔するハーレー乗りの心持ちが理解できないのであった。

それでも僕は今、ハーレー教に足を踏み入れようとしている。このコロナ禍でも売れ行きが好調なのだとか。厄災の時こそすがりたくなるのが宗教である。つまり、そういうこと(?)なのかもしれない。
【了】
Writer: 木下隆之
1960年5月5日生まれ。明治学院大学卒業後、出版社編集部勤務し独立。プロレーシングドライバーとして全日本選手権レースで優勝するなど国内外のトップカテゴリーで活躍。スーパー耐久レースでは5度のチャンピオン獲得。最多勝記録更新中。ニュルブルクリンク24時間レースでも優勝。自動車評論家としても活動。日本カーオブザイヤー選考委員。日本ボートオブザイヤー選考委員。