台湾キムコの「レーシングS125」に乗ってみたら? スポーツスクーターとしての理想を徹底追及していた

台湾の大手バイクブランド「KYMCO(キムコ)」のスポーツスクーター「レーシングS125」に試乗したところ、理想を徹底追及した設計に気付かされました。

「HYSK」のKは、キムコ?

 2輪業界で「HYSK」と言ったら、一般的にはホンダ/ヤマハ/スズキ/カワサキのことですが、スクーターの世界では事情が異なり、K=キムコ(KYMCO)という解釈をする人が少なくないようです。

キムコ「Racing S 125」に試乗する筆者(中村友彦)

 確かに、カワサキは昔からスクーターに力を入れていませんし、現在の同社がヨーロッパで販売している「J300」と「J125」というスクーターは、主要部品の多くをキムコの「ダウンタウン」から譲り受けているのですから、スクーター界におけるKの解釈は間違いではないでしょう。

 もっとも世の中には、キムコと日本勢を同列で語ることに、違和感を覚える人がいるかもしれません。とはいえ、2016年以降のキムコが記録している30万台以上という年間生産台数は、ホンダ/ヤマハ/スズキからは遠く離れているものの、カワサキの背後には徐々に迫っているし、BMW MotorradやKTM、ハーレー・ダビッドソンといった欧米メーカーを上回っています。もちろん、生産台数だけでメーカーの規模は語れませんが、近年の2輪業界でキムコが抜群の存在感を発揮しているのは事実です。

 そんなキムコの主戦場と言ったら、母国の台湾を筆頭とするアジア地域を思い浮かべる人が多いですが、同社はヨーロッパでも多くのライダーから支持を集めています。その裏付けを取るべく、現在の同社がヨーロッパ各国で販売しているスクーターの種類を調べてみたところ、イタリア=29、ドイツ=24、フランス=19、スペイン=14と、予想以上に多い数字が確認できました。と言っても、この数字はバリエーションモデルを含んでいるのですが、ホンダやヤマハの倍以上となるラインナップには、近年のキムコの勢いが表れていると思います。

レースでの勝利を意識した構成

 さて、話がワールドワイドな方向に進んでしまいましたが、当記事で取り上げる原付2種クラスのスクーター「Racing S 125(レーシング・エス 125)」は、台湾や日本で開催されるスクーターレースを意識して生まれたスポーツモデルで、仮想敵はヤマハ「シグナスX」と言われています。

排気量124.8ccの空冷4ストローク単気筒SOHC4バルブエンジンを搭載するキムコ「Racing S 125」

 このモデルで興味深いのは、ウェブサイトの車両解説に理想の剛性バランスや振動特性を獲得するための技術、ハイドロフォーミングフレームや水平下吊り式エンジンハンガーなどの詳細が記されていることで、そういった記事を読んでいると、他メーカーのスーパースポーツに通じる意気込みが伝わって来ます。

 また、物理的な可変機構が備わっているわけではないですが、ライディングポジションに関しては標準の「アーバン」、サーキットやワインディングに適した「レーシング」、ロングランに対応する「ツーリング」という、3つの走行シーンを想定していることも、このモデルの面白いところでしょう。

 もちろん既存のスクーターの多くも、乗り手の意識次第でライディングポジションは変更できたのですが、3つの用途を想定してフロアボードやシートを設計したという意味では、「レーシングS125」は貴重な存在なのかもしれません。

スポーツライディングに没頭できる

 台湾本国では41機種のスクーターをラインナップするキムコが、レースを想定して作ったのだから、それなりに過激でシビアなキャラクターに違いない……。試乗前の私(筆者:中村友彦)はそんな先入観を抱いていました。しかし、実際の「レーシングS125」は意外にもフレンドリーでした。

アグレッシブに走るとわかりやすい手応えがあり、スポーツライディングに没頭できる

「バトルアックス」と命名されたエンジンは、低回転域から十分なトクルを発揮してくれるし、現代の125ccクラスのスクーターの基準で考えると、シート位置はやや高く、ハンドリングはクイックですが、だからと言って乗りづらさは感じません。おそらくこの特性なら、ルックスに惚れて購入しても後悔することはないでしょう。逆に言うなら、私はちょっと肩透かしを食らった気分になったのですが……。

 市街地を抜けてワインディングロードを走り始めると、私の気持ちはスッと晴れやかになりました。と言うのもこのスクーター、アグレッシブに走れば走るほど、瑞々しい手応えを返してくれるのです。

 具体的な話をするなら、コーナー進入時は濃厚な接地感を頼りにして、思い切って車体を倒し込めるし、コーナーの立ち上がりでは後輪が路面を蹴るトラクションが明確に伝わってきます。しかも最大バンク角は40度なので、公道ではスタンドやボディが路面と接触する気配はありません。だからひたすら、スポーツライディングに没頭できるのです。

身長182cmの筆者(中村友彦)がシート高790mmの車体にまたがってみると、少し窮屈な印象は否めない

 もっとも、そうやって走った際の「レーシングS125」が、ヤマハ「シグナスX」を筆頭とするライバル勢より速いのかと言うと、それは何とも言い難いところです。とはいえ、ワインディングの快走感という視点なら、このモデルは間違いなく、クラストップの性能を備えているのです。

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 キムコ「レーシングS125」の価格(消費税10%込み)は32万4500円です。

【了】

【画像】キムコのスポーツスクーター「Racing S 125」詳細を見る(14枚)

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Writer: 中村友彦

二輪専門誌『バイカーズステーション』(1996年から2003年)に在籍し、以後はフリーランスとして活動中。年式や国籍、排気量を問わず、ありとあらゆるバイクが興味の対象で、メカいじりやレースも大好き。バイク関連で最も好きなことはツーリングで、どんなに仕事が忙しくても月に1度以上は必ず、愛車を駆ってロングランに出かけている。

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