KTM「890アドベンチャー」 乗り手に少し歩み寄ってきたミドルクラスらしい個性派モデル

排気量889ccの水冷並列2気筒DOHC4バルブエンジンを搭載するKTM「890アドベンチャー」は、1000cc超の大型アドベンチャーモデルよりは親しみやすいミドルクラスアドベンチャーです。その特徴を試乗で確かめました。

長距離移動をラクにこなし、オフロードでは万全の装備で乗り手をサポート

 KTMがラインナップするミドルクラスのアドベンチャーモデル、その名も「890 ADVENTURE(890アドベンチャー)」に乗りました。1000cc超のビッグアドベンチャーはワイルドさの象徴ですが、あれもこれもそれもと装備が全部載せになった今、平均的な体格の日本人には少々ツラい乗り物と化しています。

KTM「890 ADVENTURE」(2021年型)に試乗する筆者(伊丹孝裕)

 そこで近年は650ccから900cc前後のミドルクラスの人気が高まり、メーカーも新型モデルを積極的に開発。この「890アドベンチャー」もそういう1台であり、「790アドベンチャー」からの発展型として、2021年からラインナップに加わりました。

 兄貴分の「1290スーパーアドベンチャーS/R」よりはグッと軽量コンパクトに仕上げられ、フレンドリーそのもの……と言いたいところですが、「READY TO RACE」=「レース上等(※筆者の意訳)」をキャッチコピーに掲げるKTMのマシンは、それほど甘くはありません。

 シート高は830mmと850mmに切り換えられ、この数値自体は特別高くはないものの、走行中の快適性やホールド性を重視している座面は、一般的なバイクよりかなり幅が広いのです。なので、身長174cm体重63kgの筆者(伊丹孝裕)が両足をしっかり着くのは830mmの時でもやや厳しく、お尻をズラして、ようやく片足で踏ん張れるかな、というレベル。林道やダートもガンガン走りたい。でも腕にはまだあまり自信がない……というライダーはディーラーなどで事前にチェックしておくことをおすすめします。

シート高830mm(850mmに切り換え可能)の車体に身長174cmの筆者(伊丹孝裕)がまたがった状態

 ただし、KTMは決して無慈悲なメーカーでもありません。ミドルクラスの使われ方をちゃんと分かっていて、不整地でも容易にバランスを崩さない設計が施されているのです。例えばエンジン横に設置されたガソリンタンクが最も分かりやすい部分でしょう。

 給油口から入れられたガソリンは中で左右に振り分けられ、エンジン下部まで大きく垂れ下がった樹脂タンクに溜まっていきます。普通のバイクならエンジン上部にあるため、満タンにした時などは明らかに取り回しや切り返しが重くなりますよね?

 ところが、「890アドベンチャー」の場合はガソリンを入れれば入れるほど低重心になり、車体が安定(容量は20リットル)。ハンドル付近は軽くてヒラヒラ動かせるのに、足元はドッシリと路面を掴み、実に安心なのです。

 その安心感を引き上げてくれるのが、各種電子デバイスです。STREET/RAIN/OFF ROADの3パターンがあるエンジンモードの内、RAINかOFF ROADを選択すればスロットルレスポンスが明確に穏やかになって、右手をラフに開けてもスムーズに前進。KTMのエンジンは基本的にガツガツと前へ出たがるモデルが多いのですが、「890アドベンチャー」のエンジンは終始心地よく、滑らかに吹け上がっていきます。

メーターには5インチTFTフルカラーディスプレイを採用。必要な情報に加え各種電子デバイスの選択と設定を確認できる

 さらにはトラクションコントロールやコーナリングABS(バンク中にブレーキを掛けても挙動が乱れない)も機能しますから、ライダーのスキルをバイクの方で可能な限りサポートしてくれるというわけです。

 サスペンションのストローク量は前後とも200mmずつ確保され、ショックの吸収性は上々。たとえダートに踏み入れるような機会がなくても、乗り心地のよさを日常的に体感することができるはずです。

 このモデルでアドベンチャーの世界に目覚めたなら、上級グレードの「890アドベンチャーR」にステップアップするといいでしょう。こちらは前後サスペンションが強化され、ストローク量も240mmへ増量される他、エンジンモードにはライダーの要求にきめ細かく対応してくれる「RALLY」が追加される本格派になっています。

KTM「890 ADVENTURE」(2021年型)エンジンを左右から囲むように垂れ下がった形状で容量20リットルとなる樹脂製燃料タンクが特徴的

 それはさておき、250ccのオフロードバイクでは長距離ツーリングがツラく、かといって1000cc超のビッグアドベンチャーは扱える気がしない。そういうライダーはたくさんいるに違いなく、まずは「890アドベンチャー」を試乗してみてください。

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 KTM「890アドベンチャー」の価格(消費税10%込み)は162万9000円。車体色にはオレンジとブラックの2色が用意されています。

【了】

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Writer: 伊丹孝裕

二輪専門誌「クラブマン」編集長を務めた後にフリーランスとなり、二輪誌を中心に編集・ライター、マシンやパーツのインプレッションを伝えるライダーとして活躍。マン島TTやパイクスピーク・インターナショナル・ヒルクライムなど、世界各国のレースにも参戦するなど、精力的に活動を続けている。

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