体重移動でグッと楽しくなるライディング ~木下隆之の、またがっちゃいましたVol.141~

レーシングドライバーの木下隆之さん(筆者)は、クルマと違ってバイクは体重の活かし方で走りが楽しくなると言います。どういうことなのでしょうか?

自分の体重移動で変わる、分かる、バイクの面白さ

 排気量250ccクラスにして現在日本メーカーで唯一の並列4気筒エンジンを搭載するカワサキ「Ninja ZX-25R SE」にしばらく乗っていたところ、バイクの総質量に対して自分(筆者:木下隆之)のウエイトの影響度がはっきりわかるから面白いということに気が付いた。

カワサキ「Ninja ZX-25R SE KRT EDITION」
カワサキ「Ninja ZX-25R SE KRT EDITION」

 カタログスペックによると車両重量は184kgとなっている。ライダーの体重が62kgで身に着けるウエアやブーツなどを含めても70kgほど。つまり、僕がまたがっちゃっている時には、満タンで15リットルのガソリンやオイル類など、なんやかんや含めて総重量はだいたい270kgとなり、全質量の4分の1くらいが自分の体重ということになる。

 となれば、操縦性に対する体重の影響度は高い。その70kgがマシンのどこかに固定されているのではなく、グラグラと不安定に動くのだから無視できないはずだ。

 タイヤのグリップ性能は、接地荷重の影響を強く受ける。荷重が加われば性能は増す。タイヤを路面に強く押しつければグリップ性能は高まり、荷重を抜けば低下する。

 ブレーキングすればフロントグリップは高まる一方、リアのトラクションは抜け気味になる。下り坂での制動は、さらにフロントのグリップが高くなる。その一方でリアはスカスカになる……という原理を利用すれば、全質量の4分の1である体重を、体を前傾にしてフロントに加えれば前輪の性能が高まる。リアのトラクションを得たければ着座位置をちょっとだけ後ろにずらせばいい、ということになる。

 というわけで実践してみると、アラ不思議、マシンが体重移動によってコロコロと特性を変えるではありませんか。これが面白い。

 ブレーキングから旋回しようとする時には、フロント荷重にしてグイグイとノーズをインに食い込ませる。加速時には腰をずらしてトラクションを稼ぐ。すると走りやすくなったのである。理論的に合っているのかどうかは、青木タカオ先生の解説を待とう。

 じつは4輪のレースの世界でも同様に、前後荷重はドライビングの基礎である。ただし、ドライバーがバケットシートに固定されているという事情で、コーナー開始時には体をフロントに……ができない。仕方なくブレーキングで無理やりフロント荷重を高めたり、アクセルオンで抜いたりするのである。

筆者(木下隆之)が乗るレーシングカーは、シートを限りなく後退させた仕様となっている
筆者(木下隆之)が乗るレーシングカーは、シートを限りなく後退させた仕様となっている

 ちなみに、僕が乗るレーシングカーはシートを限りなく後退させている。それでは手がハンドルに届かなくなるから、インパネから伸びるステアリングシャフトを延長させている。メーターも遠くて見えないので、ステアリングに表示させている。スイッチも手前に寄せ、足元のペダルも届かないから手前にずらしている。

 フロントエンジンのマシンゆえに、前後重量配分的に前荷重が増え過ぎるから、ドライバーの70kg分のウエイトでさえ後退させているのだ。1.3トンにもおよぶレーシングカーであっても70kgをどう活かすかに知恵を絞っているわけで、どうりで184kgの「Ninja ZX-25R SE」に対する70kgの移動が操縦性に影響するわけである。

 バイクを走らせる楽しみのひとつに体重移動もあったのかと、あらためて実感した。

【画像】カワサキ「Ninja ZX-25R SE KRT EDITION」を見る(6枚)

画像ギャラリー

Writer: 木下隆之

1960年5月5日生まれ。明治学院大学卒業後、出版社編集部勤務し独立。プロレーシングドライバーとして全日本選手権レースで優勝するなど国内外のトップカテゴリーで活躍。スーパー耐久レースでは5度のチャンピオン獲得。最多勝記録更新中。ニュルブルクリンク24時間レースでも優勝。自動車評論家としても活動。日本カーオブザイヤー選考委員。日本ボートオブザイヤー選考委員。

最新記事