バイクのシート高、気にし過ぎ? ~木下隆之の、またがっちゃいましたVol.142~

レーシングドライバーの木下隆之さん(筆者)は、バイクのシート高は実際にまたがってみないと分からないと言います。どういうことなのでしょうか?

憧れの大型バイク、シート高の数値でまず萎える?

 最近、足つきの悩みネタが続く。大変心苦しい。しかるに、僕(筆者:木下隆之)の股下の短さと股関節の硬さに端を発した悩みで、きわめて個人的な事情だ。足がビョーンと長い人には、まったくどうでもいい話だろう。

ホンダの新型スポーツツアラー「NT1100」のシート高は820mmあるが、実際にまたがってみると印象が異なる
ホンダの新型スポーツツアラー「NT1100」のシート高は820mmあるが、実際にまたがってみると印象が異なる

 僕にとっては深刻な問題であるが、どうやら僕個人だけの問題ではなさそうである。バイクのスペック表を見ると、たいがい上位に「シート高」という項目がある。「車両重量」より上なのだから、気にする人が少なくない証明であろう。だからホンダの新型「NT1100」のカタログを開いてまず確認したのはそこだ。

 東京モーターサイクルショーで目にした瞬間に一目惚れ。にわかに、海岸線を颯爽とツーリングしている自分を想像してしまったわけだ。だが、NT1100はスポーツツアラーである。ロングツーリングを得意とすることでも想像つくように、シート高は低くない。長旅での疲労を抑えるために、乗車姿勢は正しく、風圧を避けるために上下可動式のスクリーンが備わっている。つまりは、僕にとって手強いタイプなのである。

 カタログには「シート高820mm」と記されていた。致命的である。これまでの経験から僕は800mmを上限としている。820mmは、やっぱりね……の数値なのだ。

 ところが、厚底ブーツを履いてまたがっちゃってみると、なんとかつま先が地面に届く。ちょっと体を斜にすると、片足ならば余裕なのだ。そう、地面から着座位置までの高さを計測すれば820mmなのかもしれないが、シートの形状によっては、820mmが800mmほどに感じるわけだ。数字だけで決めつけてはならない。実際にまたがっちゃってみないと、実際のところは判断できないのである。

ライダーの青木タカオさん(身長175cm)がまたがってみると、両足のつま先が地面に届く
ライダーの青木タカオさん(身長175cm)がまたがってみると、両足のつま先が地面に届く

 というあたりは、ライダーならば常識なのだろうが、だったらもっと足つきを数値化する方法はないだろうか。『バイクのニュース』でも、新車インプレッションではたびたび、乗り手による足つき写真を掲載している。参考にはなる。だができれば、メーカーの公表スペックとして、シート幅、断面形状も含めた足つきの良し悪しが判断できる数値を出して欲しいのだ。

 自動車の世界では、ダミー人形の存在がある。衝突安全用のモデル人形で、たいがい衝突実験のモルモットにされる。それにも規格があり、身長174cmの男性となっている。ダミー人形のドライビング姿勢から、およその着座感覚が想像できるのだ。

 という感じで、規格が統一されたバイク用ダミー人形があれば、それを基準に自分がまたがっちゃった姿を誰もが想像できるのではないだろうか。

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Writer: 木下隆之

1960年5月5日生まれ。明治学院大学卒業後、出版社編集部勤務し独立。プロレーシングドライバーとして全日本選手権レースで優勝するなど国内外のトップカテゴリーで活躍。スーパー耐久レースでは5度のチャンピオン獲得。最多勝記録更新中。ニュルブルクリンク24時間レースでも優勝。自動車評論家としても活動。日本カーオブザイヤー選考委員。日本ボートオブザイヤー選考委員。

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