ボタンひとつでエンジン始動も、味わいに思えてくる!? ~木下隆之の、またがっちゃいましたVol.143~

レーシングドライバーの木下隆之さん(筆者)は、エンジン始動までの少しの“間”が、走り出す前の儀式のようだと言います。どういうことなのでしょうか?

エンジン始動までの“間”が、走り出すまでの儀式

 日産GT-Rは、やや喧しいクルマだとされている。シートに腰掛けてスターターボタンを押す。するとカチャカチャカチャ……ブーブーブー……と、機械音や電子音が複雑に重なり合いながら響く。ボタンを押してからスターターが回り始めるまでの時間は、こうして文字にするほど長くはないのだが、それでもクルマとしては、なかなかの持て余す時間である。

BMW Motorradではイグニッションキーではなく「Keyless Ride」を装備するモデルがある
BMW Motorradではイグニッションキーではなく「Keyless Ride」を装備するモデルがある

 スターターボタンを押してからエンジンが目覚めアイドリングするまでの時間に、僕(筆者:木下隆之)はシートベルトをつけ終えてしまう。それほどの“間”がある。

 だが、その時間をもどかしいと思ったことはない。そしてその様々なノイズを煩わしいと感じたこともない。むしろ、高性能スーパースポーツ特有の、儀式のような時間だと感じている。

 始動までの電子音は、GT-Rが自らの体内のコンディションを確認していることを意味する。機械音は、マシンにとっての血液であるオイルを送り込むポンプの音だ。言うなれば、心臓の鼓動である。GT-Rが無機質な乗り物ではなく、歯車が噛み合い、ポンプが回り、オイルが流れる生きた乗り物であることを再確認させてくれる。

 バイクの場合、跨る、イグニッションキーを捻る、スターターボタンを押す、それが儀式である。だが最近のクルマは、イグニッションキーを捻るという構造ではなくなった。スタンバイの合図は、キーシリンダーではなくボタンに変わってしまっている。そっと触れるだけでは音がしない。電子的情報がコンピューターに運ばれるだけで、そこには音がない。だからこそ、バイクの“捻る”という行為が心地いいのだ。

ホンダのバイクには「Honda SMART Keyシステム」を採用するモデルがある
ホンダのバイクには「Honda SMART Keyシステム」を採用するモデルがある

 もちろん最近のバイクでも、ホンダの「Honda SMART Keyシステム」やBMW Motorradの「Keyless Ride(キーレス・ライド)」などのように、カギをシリンダーに挿して回す必要が無いモデルもあるが、まだ少数派だ。それにボタンはイグニッションを「ON」にするだけで、エンジンの始動には、やはりスターターボタンを押すことに変わりはない。

 カチ……キュルキュルキュル……。スターターボタンを押すと、心臓部であるエンジンが目覚めようとする“音”が響く。エンジンが目覚め、発進するまでの様々な音が伴う時間、それこそが、バイクを走らせるゾ、という行為に対する儀式なのだと思えてくる。

【画像】スマートキーをポケットに入れたままでOK! のバイクを見る(15枚)

画像ギャラリー

Writer: 木下隆之

1960年5月5日生まれ。明治学院大学卒業後、出版社編集部勤務し独立。プロレーシングドライバーとして全日本選手権レースで優勝するなど国内外のトップカテゴリーで活躍。スーパー耐久レースでは5度のチャンピオン獲得。最多勝記録更新中。ニュルブルクリンク24時間レースでも優勝。自動車評論家としても活動。日本カーオブザイヤー選考委員。日本ボートオブザイヤー選考委員。

最新記事