電動バイクの普及で、何かが変わる? ~木下隆之の、またがっちゃいましたVol.151~

レーシングドライバーの木下隆之さん(筆者)は、電動バイクの普及が進むと使い方も変わるのでは? と言います。どういうことなのでしょうか?

中国の電動バイク事情とは異なるニッポン

 コロナ禍前のことだったから、すでに3年以上が経過している。僕(筆者:木下隆之)はアジアのGT選手権に出場するために中国・上海に滞在していた頃、あまりの電動バイクの多さに度肝を抜いた記憶がある。

ヤマハの電動スクーター「e-Vino」(原付1種)
ヤマハの電動スクーター「e-Vino」(原付1種)

 中国の道路事情と言えば、おびただしい数の自転車、クルマのけたたましいクラクション、無秩序な往来をイメージする。だが当時、約十年ぶりに訪問した中国はガラリと趣を変えていた。

 自転車はほとんど電動バイクに姿を変えていた。クラクションの音が響くことは一切ない。わずかな月日が経過しただけで、これほどまで中国人の交通環境への意識が高まるものかと感心したのである。

 だがそれは、べつに交通環境への意識が高まったわけではなかった。国策によって強制的に電動産業を醸成し、国が独裁的に電動バイクへシフトさせたのだ。自転車に乗ったら罰金、クラクションを3回鳴らしたら刑務所……ここまで強制するのだから、電動バイクが普及するワケである。街も静かになった。

 だが、交通の秩序は曖昧だった。数100メートル毎に設置された監視カメラが目を光らせているから、速度違反も信号無視も少ない。もちろんクラクションの音も、滞在1週間で数度耳にした程度だった。だが、夜間の無灯火は深刻だった。監視カメラの目が届かない場所、つまり、茂みや歩道などを電動バイクが走り込んでくる。

 バッテリー電力を節約したいから、夜になっても無灯火の電動バイクは少なくない。街への電気の供給は安定していないと聞くし、停電も少なくない。だからライダーは電力の消耗には過敏なのだ。

 さすがに民度の高い日本ではあり得ないだろう。電動バイクの無灯火は聞いたことがない。ただ、電気自動車に限っては涙ぐましい電力節約術が一般的だという。

 電気自動車でのヒーターやエアコンの電力消費は激しい。だから、真冬でもヒート温度を低めに設定し、ダウンを着て凌ぐ。分厚い防寒グローブのまま運転している姿を見かけたことがある。旧型の日産リーフなど、航続可能距離に限りがあるから、その傾向が強いようだ。ただ、他人に迷惑をかけるわけではないし、危険でもないから全く問題はないのだが、EV化が進むとなかなかドライバーは苦労が絶えない。

 中国では無灯火のバイクが茂みの脇の歩道を、クラクションを鳴らさずに走ってくるのだから、よほど気をつけていないと事故に遭う危険性がある。やがて日本でも電動バイクが浸透するだろうけれど、まさかそんな無秩序にはならないだろう。

【画像】日本の公道を走る、多様なスタイルの電動バイクを見る(9枚)

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Writer: 木下隆之

1960年5月5日生まれ。明治学院大学卒業後、出版社編集部勤務し独立。プロレーシングドライバーとして全日本選手権レースで優勝するなど国内外のトップカテゴリーで活躍。スーパー耐久レースでは5度のチャンピオン獲得。最多勝記録更新中。ニュルブルクリンク24時間レースでも優勝。自動車評論家としても活動。日本カーオブザイヤー選考委員。日本ボートオブザイヤー選考委員。

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