新しくなったKTM「RC 390」 サーキットで実感したコーナリングスピードへのこだわり

排気量373ccの水冷4ストローク単気筒エンジンを搭載するKTM「RC 390」は、普通自動2輪免許で乗れるスーパースポーツモデルです。2014年の新登場から2022年型でフルモデルチェンジし、3代目となった新型の走りにはどのような特徴があるのでしょうか。サーキット試乗での印象を紹介します。

経験を積むにはちょうど良い、KTMならではの落としどころ

 KTMの新型スーパースポーツ「RC390」の国内導入が始まりました。ストリートでの試乗では、そのおおらかなハンドリングや、衝撃吸収性に優れたサスペンションが印象的でしたが、ここではサーキットにおけるフィーリングを報告していきます。

KTM「RC 390」(2022年型)に試乗する筆者(伊丹孝裕)
KTM「RC 390」(2022年型)に試乗する筆者(伊丹孝裕)

 まずはあらためて、そのスペックを見ていきましょう。搭載されているエンジンは水冷4ストローク単気筒で、373ccの排気量から32kw(44ps)/9000rpmの最高出力と、37Nm(3.8kgf・m)/7000rpmの最大トルクを発揮。このクラスのモデルとしては珍しく、車体姿勢と加速度の変化を検知するIMUが搭載され、より緻密なトラクションコントロールとコーナリングABSの制御を可能にしています。

 エンジンを懸架するスチールパイプフレームは、メインフレームとサブフレームの別体式になり、単体重量は従来比で1.5kgの軽量化に成功。とくにサブフレームは格段にスタイリッリュな構造になりました。

 軽量化と言えば、足まわりに対する本気度はかなりのもの。細部まで肉抜き加工されたスポークホイールは、前後合わせて3.4kgも軽くなり、フロントディスクブレーキはインナー部分を排除することで960g削減。いわゆるバネ下重量の軽減が徹底されています。

 IMUも含めた電子デバイスや各部の軽量化、そして調整幅の広い前後サスペンションのことを踏まえると、やはりKTMは「READT TO RACE」のブランドなのだなぁ、と実感。排気量は小さくとも、サーキット上等の思想が貫かれているようです。

KTM「RC 390」(2022年型)カラー:ブルー×オレンジ
KTM「RC 390」(2022年型)カラー:ブルー×オレンジ

 では、そのポテンシャルがどれほどのものなのか? 富士スピードウェイ内のショートコースにて、スロットルを全開にしてみました。

 ワインディングを中心としたストリートでは、安定性が高かったことをすでに別の記事で報告しています。コーナーの入り口では、ヒラヒラではなく、ゆったりとリーンし、フロントから伝わってくる手応えは、この排気量のモデルとしては重め。俊敏さよりも落ち着きのあるハンドリングに意外性を感じたわけですが、サーキットを走らせてみて、その意味が分かりました。

 こうした環境では、当然走らせる速度域がグッと上がります。このモデルなら全開にできる区間も多く、加速する時も減速する時も旋回している時も乗車位置は後方になり、荷重配分もリアに移動。すると、ストリートで感じていたフロントまわりの重さが最適化され、車体バランスがちょうどいいところに落ち着くというわけです。

 これには「なるほどね」と納得。もっとも、それでもまだクイックさよりもスタビリティ重視なハンドリングですが、ライダーのスキルを選ばないという意味では、いい落としどころ。ポジションの安楽さも手伝って、不安なくスポーツ走行の経験が積めるはずです。

サーキットではスポーツ走行に適した、KTMらしいつくりが感じられる
サーキットではスポーツ走行に適した、KTMらしいつくりが感じられる

「RC 390」が旋回力を発揮するのは、車体を倒し込んですぐのコーナリング初期ではなく、バンク角が深まってからのことです。したがって、コンパクトなラインでクルッと曲がるのではなく、コーナリングしている時間は長いタイプと言えます。スキルのあるライダーならシャープさが欲しくなるところですが、ハンドル位置を下げたり(10mmの可動範囲がある)、リアショックのプリロードを掛けるなど(初期設定は10段階のうち、最弱から3段目と弱め)、セッティングの幅があるため、あれこれ試すと、好みに近づくはずです。

 もちろん、いずれ限界はくるのですが、KTMらしいのは、それを見越したサスペンションを用意しているところ。今回、それを組み込んだ仕様にも乗ることができました。

 フロントフォーク用のインナーキット「WP APEX PRO 6500 CARTRIDGE」(9万4498円)と、リアショックをアッセンブリーで交換する「WP APEX PRO 6746 SHOCK」(11万6513円)がそれ。これによって、前後サスペンションはフルアジャスタブルになり、路面追従性がさらに向上するというわけです。

 実際その効果は高く、路面が荒れているところや、グリップが逃げやすい区間でも最後のひと踏ん張りが効いてトラクションを最大限に確保。また、フルバンクからフルバンクに至る切り返しをリズミカルにこなすことができ、より早いタイミングでスロットルを開けられるようになるはずです。とくにリアショックは、高速側と低速側の2系統で減衰力がセッティングできる他、車高調整も可能になるため、前後両方を一度に選択できない場合は、ひとまずリアから装着することをおすすめします。

WP製の前後サスペンションはアップグレード版も用意されている
WP製の前後サスペンションはアップグレード版も用意されている

 さて、エンジンはどうか。ストリートの試乗記では高回転型と評しましたが、基本的にはサーキットでも同様です。ストリートではスロットルを長く、または大きく開ける時間は短く、タコメーターが高回転まで振れる一瞬を楽しめた一方、サーキットでは少々コツが要ります。

 というのも、「RC 390」の単気筒エンジンは、7000rpmあたりから鋭さが増すのですが、レブリミッターが10000rpm強で作動するため、使える範囲が案外狭いのです。しかも、抵抗なく素早く回り切ってしまうため、意識してパワーバンドをキープするのは、結構難易度高し。高回転型とはいえ、そこに捉われるとレブリミッターがたびたび作動することになり、逆にストレスを抱えることになるかもしれません。

 なので、「RC 390」を上手く走らせるには、9000rpmを超えたらすぐさまシフトアップし、回転数が少々落ち込んでもコーナリングスピードでそれをカバーする、という技術が必要です。あるいは、それを磨くにはうってつけのモデルでもあります。

 穏やかなハンドリングとは対照的に、エンジン特性は結構ピンポイント。言い方を変えると、これでハンドリングまでソリッドだったらピーキーに感じられるに違いなく、この点でもKTMは、いいところに落としどころを見つけたようです。

 ストリートではゆったりと流し、サーキットでは集中してコーナリングスピードを追求する。そういうメリハリのある走りを提供してくれるモデルが、新しく生まれ変わった「RC 390」です。

※ ※ ※

 日本では2022年6月より発売が開始された「RC 390」(2022年型)の価格(消費税10%込み)は83万円です。カラーバリエーションは取材車両のブルー×オレンジのほか、オレンジ×ブラックの2色設定です。

【画像】KTM「RC 390」(2022年型)を見る(14枚)

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Writer: 伊丹孝裕

二輪専門誌「クラブマン」編集長を務めた後にフリーランスとなり、二輪誌を中心に編集・ライター、マシンやパーツのインプレッションを伝えるライダーとして活躍。鈴鹿8耐、マン島TT、パイクスピーク・インターナショナル・ヒルクライムといった国内外のレースにも参戦するなど、精力的に活動を続けている。

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