アプリリア「トゥオーノ660」に乗ってみたら、日本製ツインを上回る超万能ミドルだった!!

排気量659ccの並列2気筒エンジンを搭載するアプリリア「Tuono 660」は、兄弟モデル「RS 660」と基本設計の多くを共有するミドルクラスのネイキッドスポーツモデルです。その特徴を探るべく試乗しました。

意外な手法と、意外なところ

 2021年に「aprilia(アプリリア)」がミドルパラレルツインの兄弟車、「RS 660」と「Tuono 660(トゥオーノ660)」を発売したとき、「意外な手法で、意外なところを狙って来るなあ」と私(筆者:中村友彦)は感じました。

アプリリア「Tuono 660」(2021年型)に試乗する筆者(中村友彦)
アプリリア「Tuono 660」(2021年型)に試乗する筆者(中村友彦)

 本題に入る前に大前提の話をしておくと、近年のミドルクラスに新規で投入されるスポーツモデルは、何らかの妥協を感じることが少なくありません。もっとも、妥協は必ずしも悪いことではなく、見方によっては敷居の低さや親しみやすさにつながるのですが……。

 そんな状況に背を向けるかのように、「RS 660」と「トゥオーノ660」は、自社のフラッグシップである「RSV4ファクトリー」と「トゥオーノV4 1100ファクトリー」の技術を、かなり積極的に導入しているのです。

 エンジンは、兄貴分のV型4気筒からリアバンクの2気筒を取り除いたかのような構成で、シャシーは扱いやすさを意識した最適化がなされ、多種多様な電子デバイスのいくつかは省略されてれていますが、妥協の気配はほとんど感じられません。

 そういった素性ですから、現在のミドルクラスにこの2機種の直接的なライバルは存在しないのです。ルックスとエンジン形式では、同じパラレルツインのヤマハ「YZF-R7」やカワサキ「Ninja 650」などが競合車になりそうですが、装備の充実度という見方をするなら、並列4気筒のホンダ「CBR600RR」に近い印象です。

アプリリア「TUONO 660」(2021年型)カラー:コンセプトブラック ※取材車両はオリジナルアクセサリーのオーバーサイズウインドスクリーンを装備
アプリリア「TUONO 660」(2021年型)カラー:コンセプトブラック ※取材車両はオリジナルアクセサリーのオーバーサイズウインドスクリーンを装備

 いずれにしても、リッタースーパースポーツの技術を積極的に転用して、ミドルパラレルツインの可能性を徹底追及した「RS 660」と「トゥオーノ660」は、私にとっては意外にして画期的な存在です。

 近年のミドルクラスの平均を大幅に上回る価格をどう感じるかは人それそれですが、唯一無二の資質を考えれば、安易に高いと言うべきではないでしょう。

■比較:メーカー希望小売価格(消費税10%込み)

アプリリア「RS 660」145万2000円
アプリリア「Tuono 660」134万2000円
ヤマハ「YZF-R7」99万9900円
カワサキ「Ninja 650」91万3000円
ホンダ「CBR600RR」160万6000円

※表記の価格は2022年8月30日時点

基本設計はスーパースポーツの「RS 660」と共通

 270度位相クランクのパラレルツインエンジンや、ピボットレスタイプのアルミ製ダブルビームフレーム、フロント3.50×17/リア5.50×17のホイールなど、「RS 660」と「トゥオーノ660」は基本設計の多くを共有しています。

 各車のキャラクターを端的に示すのはハンドルで、スーパースポーツの「RS 660」は低めのセパレートタイプ、オールラウンダーの「トゥオーノ660」はグリップ位置が高めのバータイプを採用しています。

 もちろん、2モデルの相違点はそれだけではありません。「RS 660」を基準にするなら、常用域重視のインジェクションマップ、ハーフ+アンダー仕様のカウル、振動を緩和するラバー付きのステップ、調整機構の一部を簡素化したフロントフォークなどが「トゥオーノ660」の特徴になります。

 なお、総合電子デバイスの「APRC(アプリリア・パフォーマンス・ライド・コントロール)」は基本的に共通ですが、「トゥオーノ660」ではクイックシフターとマルチマップコーナリングABSが省略されました。

ミドルクラスの新しい扉を開いた

 スーパースポーツの派生機種として開発されたネイキッドモデルやツアラーは、常識的なペースで走っているとバランスの悪さ、車体の硬さやエンジンの物足りなさなどを感じることが少なくありません。ところが「トゥオーノ660」には、そういった気配が見当たりませんでした。

「Tuono 660」は兄弟車であるスーパースポーツの「RS 660」と基本設計の多くを共有し、現代的な運動性能と日常域での扱いやすさを両立している
「Tuono 660」は兄弟車であるスーパースポーツの「RS 660」と基本設計の多くを共有し、現代的な運動性能と日常域での扱いやすさを両立している

 エンジン+シャシーの基本設計が「RS 660」と共通でルックスがアグレッシブですから、誤解する人がいそうですが、このバイクの扱いやすさはバーハンドルを採用する日本製ミドルツイン、ヤマハ「MT-07」やスズキ「SV650」、カワサキ「Z650」などと、ほとんど互角と言っていいでしょう。

 もちろん、それらと比べると「トゥオーノ660」の運動性は格段に上です。コーナーの進入では剛性の高いシャシーのおかげでかなりの無理が利きますし、コーナーの立ち上がりでは頭のいい電子デバイスを信頼して早めにアクセルが開けられます。そして「RS 660」より5ps低くても、95psのパワーはストリートでは十二分ですし(日本製ミドルツインは70ps前後)、制動力の引き出しやすさや路面の凹凸を通過した際の収束の早さも特筆モノで、ワインディングでは水を得た魚の気分が味わえます。

 ではそういう運動性を実現しながら、どうして「トゥオーノ660」は日本製ミドルツインと互角の扱いやすさを実現できたのでしょうか。

 一番の原因は、エンジンの柔軟性ではないかと私は思います。最高出力・最大トルクの発生回転数が、日本製ミドルツインより2000rpmほど高い10500rpmや8500rpmであるにも関わらず、アプリリアのミドルツインエンジンは低回転域がなかなかトルクフルで、例えば交差点やヘアピンカーブで回転数が2000rpm以下に落ちても、シフトダウンはマストではなく、そこからスロットルを捻れば何食わぬ顔で加速してくれるのです。

 また、適度な重心の高さや軸間距離の短さ(日本製ミドルツインの1400~1450mmに対して1370mm)、スポーツ志向が強いタイヤ、ピレリ・ディアブロロッソコルサⅡなどによって実現した、軽快なハンドリングも扱いやすさに貢献する要素でしょう。

 そういった特性を実感した私は、現代的な運動性能と日常域での扱いやすさの両立という意味で、「トゥオーノ660」はミドルクラスの新しい扉を開いたのではないか……と感じました。

身長182cmの筆者(中村友彦)がシート高820mmの車体にまたがった状態。片足ではかかとまで地面に届き、不安なく車体を支えることができる
身長182cmの筆者(中村友彦)がシート高820mmの車体にまたがった状態。片足ではかかとまで地面に届き、不安なく車体を支えることができる

 あえて不満を述べるとしたら、兄弟車の「RS 660」とまったく同じで、ミドルクラスの基準ではやや高めとなる、820mmのシート高でしょうか……。もっとも、やや高めならではの美点は存在するのですが、「RS 660」との差別化を図り、足つき性重視の日本市場で多くのライダーから支持を得るためには、もう少し低め、800mm前後に下げた方が良いのかもしれません。

【画像】アプリリア「Tuono 660(トゥオーノ660)」の詳細を見る(16枚)

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Writer: 中村友彦

二輪専門誌『バイカーズステーション』(1996年から2003年)に在籍し、以後はフリーランスとして活動中。年式や国籍、排気量を問わず、ありとあらゆるバイクが興味の対象で、メカいじりやレースも大好き。バイク関連で最も好きなことはツーリングで、どんなに仕事が忙しくても月に1度以上は必ず、愛車を駆ってロングランに出かけている。

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