いつの間にかバイクに専念していたタイヤブランド ~木下隆之の、またがっちゃいましたVol.164~
レーシングドライバーの木下隆之さん(筆者)は、ドイツのタイヤブランド「METZELER(メッツラー)」の名を聞かなくなったと言います。どういうことなのでしょうか?
憧れのタイヤブランド「メッツラー」のいま
「そういえばメッツラー、最近聞かないねえ」
先日、高校時代にバイクを乗り回していた仲間が改めてそう言った。
「そういえばそうだね」

ライダー時代に、あれほど憧れのタイヤブランドだった「METZELER(メッツラー)」の名を耳にしなくなって久しい。
まだ僕(筆者:木下隆之)がクルマに目覚める前の高校生時代、メッツラーは存在感のあるブランドだった。タイヤが減ったからといって新品に交換する贅沢など考えられなかった高校生にとって、メッツラーは憧れであり、孤高の存在だった。だが、僕がライダーからドライバーに変わるとともに、記憶からその名が消えてしまったのだ。
というのも道理で、メッツラーは不滅なのだが、4輪から撤退した。それによって、ライダーからドライバーになった僕らの前から姿を消したように思われたのだ。
メッツラーは1863年創業の老舗ブランドである。ドイツのミュンヘンに本社を構え、祖業はゴムやプラスチック製品であり、のちにクルマやバイクのタイヤに拡大した。だが、第二次世界大戦に翻弄され、その後も経営的な浮沈を繰り返した。
現在ではイタリア・ピレリ傘下に組み込まれている。そう、ピレリとの関係性において、メッツラーはバイクに専念しているのだ。
その商品ラインナップは広範囲に及ぶ。レース用タイヤもあるし、ツーリングバイクからスクーターまで、守備範囲は広い。あまりサーキットでの活躍が僕の耳に聞こえてこないのは、ピレリとの関係性があるのか、あるいは僕がまだライダーとしての知識が不足しているからなのか、その両方かもしれないが、高校生時代に憧れたメッツラーが活躍していることは嬉しく思う。
ふと見ると、僕がまたがっているホンダのスポーツツアラー「NT1100」には、メッツラーのタイヤが装着されていた。
Writer: 木下隆之
1960年5月5日生まれ。明治学院大学卒業後、出版社編集部勤務し独立。プロレーシングドライバーとして全日本選手権レースで優勝するなど国内外のトップカテゴリーで活躍。スーパー耐久レースでは5度のチャンピオン獲得。最多勝記録更新中。ニュルブルクリンク24時間レースでも優勝。自動車評論家としても活動。日本カーオブザイヤー選考委員。日本ボートオブザイヤー選考委員。